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仲間、集まりました!

つまらない小説を書いていたボナペントゥーラ。そして、立派な母親から英才教育を受けたカグヤ。

岳はふたりを魔法少女へと勧誘しようとたくらむ。

しかし・・・

「あー、あのね、ちょっといいかな」


 オコジョちゃんが言いにくそうに言った。

 岳、カグヤ、ボナペントゥーラはオコジョちゃんの方を向く。


「カグヤちゃん、マチアちゃん、君たちが新しく魔法少女になってくれるってことでいいの? 見たところ、素質はじゅうぶんそうだけど……」

 

オコジョちゃんの問いに対し、


「はい。わたくしでよろしければ」


 とカグヤは答える。そして、ボナペントゥーラは……


「あっ、マチアってボクのことか。名前で呼ばれるの久しぶりだから忘れてたよ」


「ボナペントゥーラちゃんの方がいいかい?」


「うん。そうだね。みんなそう呼ぶし」


「そっか。じゃあ、ボナペントゥーラちゃんも魔法少女になってくれるの?」


「いや。ならないよ。ボクをこんな変態どもと一緒にしないでよ」


 明らかに「仕方ないなっ! ボクがいないとだめだしね」って感じで魔法少女になる流れであったにも関わらず、お約束をスルーした。


「……そっか。無理強いはできないしね」


オコジョちゃんは相変わらずすぐに引き下がる。営業マンとしてのセンスは全くない。


「ちょっと! ボナペントゥーラ! 私もうさみんもやるんだから、あなたも参加よ!」


岳はボナペントゥーラに詰め寄る。


「ボクのブログ勝手に見て喜んでるようなヤツらと一緒にやれないよ!」


「別に喜んではないわよ。小説つまんないし」


「そういう問題じゃないだろっ!?」

 

にらみ合う岳とボナペントゥーラ。


「時給5000円」


 話が硬直状態になったところで誰かが声を発した。カグヤだ。


「時給5000円でわたくしが雇ってさしあげます。ボナペントゥーラのお母様の作った借金の返済にあてましょう」


相変わらず柔らかい笑顔を崩さずに言う。


「……くっ。わ、わかったよ。やればいいんだろー、やれば」


「ふふ。返済に45年はかかりますけどね」


「……え」

 

そんな微笑ましいやりとりを交わすカグヤとボナペントゥーラを見て、オコジョちゃんは満足そうに頷く。


「よし。三人いればとりあえずはノルマクリアだね」


 と、オコジョちゃん。


「それで、『賢者の会』とかいう悪の団体を倒すには、どうすればいいのかしら?」


 岳が問う。


「うん。ここ最近、日本では大規模な犯罪が増えていることに気が付いているかい?」


カグヤと岳は顔を見合わせる。


「いえ。わたくしたち、新聞やニュースは見ない派なので」


「ね。うさみん」


 ニコリとほほ笑みあう二人に対し、ボナペントゥーラは……


「いや、なんでちょっと誇らしげなんだよっ」


冷ややかな目線でツッコミを入れる。

オコジョちゃんは少し困ったという顔をするが、すぐに説明を再開する。


「と、とにかく。大きな犯罪が増えているんだよ。そして、その陰には『賢者の会』がいる」


「要するに、その『賢者の会』ってのが暴れてるってことだろ」


ボナペントゥーラは話の続きを予想する。


「いや、そうじゃないよ。『賢者の会』はある共通点を持った人間に犯罪を起こさせるように誘導しているんだ」


「そ、そんなことができるのかよっ。ていうか、なんでそんなことすんのさ?」


 少しムキになって言うボナペントゥーラ。


「いい質問だよ。まず、『賢者の会』にとって、人に犯罪を起こさせることは可能なんだ。『賢者の会』のツートップのうちの一人、『シロノホワイト』は、人間の『欲望』を暴走させる能力を持っているんだ。その力で人を自在に操るのさ」


「ふーん。『欲望』を暴走させて犯罪に走らせるってことか」


 少し唇をとがらせてボナペントゥーラは言った。


「そうだよ」


 と、オコジョちゃん。


「でもさ! 犯罪をさせたって、それになんの意味があるのさ。テロとかならなにかしらの主張があるはずだろ」


「うん。またいい質問だね」


ボナペントゥーラは、ほんの少しだけ上から目線で言ってくるオコジョちゃんにイラっとしたが、岳とカグヤに鍛えられた煽り耐性で乗り切る。


「さっき、犯人たちにはある特徴があるって言ったよね」


「言ってたね」


「その特徴というのがね、エログッズを家に大量に隠し持っているってことなんだ」

 

ボナペントゥーラはますます意味がわからなくなってくる。


「ほら、テレビでこんな光景見たことないかい? ニュースで犯人の部屋の映像とかが流れてアナウンサーが『見てください! 犯人の部屋には多数のエロ漫画とエロゲが! やっぱり変態は犯罪者です!』とかいうの」


「あー、あるよね。そういうレッテル貼り、ほんと迷惑だわ」


ボナペントゥーラにとっても身に覚えがある話であった。

サッカーの試合で相手の選手のおっぱいを揉み、レッドカードをもらう。そのたびチームメイトたちに「ボナりんの将来が心配だよw」と言われる。

そんな心無い誹謗、中傷、そして差別にボナペントゥーラは苦しんだ。立ち向かった。


「『賢者の会』の目的はそこにあるのさ。家にエッチなグッズを隠し持つ人の『欲望』を暴走させて、犯罪に走らせる。そして、マスコミの報道により、世間の人たちはこう思うんだ。『やっぱりエロいことは悪いことなんだ』って」


「……なるほどね。世論を誘導して、性的なコンテンツを全て規制しようというのが狙いか」


「その通り。理解がよくて嬉しいよ」

 

また上から来た。ボナペントゥーラは軽く唾液を飲み込む。


「これでわかったかい? 『賢者の会』と戦う理由」

 

オコジョちゃんは一仕事終えたという感じに鼻息をふんっとしながら岳とカグヤの方を見た。


「……うさみん、わかったかしら?」


「いえ。まったく」


 二人ともまるで話の内容を理解していなかった。


「あ、あれ、わからなかったかな。どのへんからわからなかった?」

 

オコジョちゃんはちょっとひきつった笑顔でそう言った。

それに対し、カグヤが申し訳なさそうに挙手して言った。


「ええっと……わたくしは、『オコジョちゃん、悪いオコジョじゃないよ? いいオコジョだよ?』のあたりから話がこんがらがってよくわからなくて……『悪い』とおっしゃいますが、何が『善』で何が『悪』なのか明確な定義が……」


 左手を頬に当てて首をかしげるカグヤ。


「ちょ、ちょっと待って! それ岳ちゃんと初めて会ったときの会話だよ!? どうしてカグヤちゃんが知ってるの!?」※第1話「魔法少女、はじめました!」参照


 オコジョちゃんは、この会話を知るはずのないカグヤが知っていたので軽い恐怖を覚える。


「わたくし、岳さんのカバンに盗聴器を仕掛けておりますので」


 ぴくりとも顔色を変えずに言うカグヤ。


「君、盗聴器仕掛けすぎじゃない!? おかしいよね!? 趣味なの!? 趣味でもだめだよ!!」


軽いノリツッコミを披露するオコジョちゃん。

岳のカバンに盗聴器という新事実が発覚し、一番喜んだ人物……それは、ボナペントゥーラであった。彼女は岳を煽るように言う。


「おい岳~。これで他人事じゃなくなったな~。お前もプライベートうさみんに盗み見されてたんだってよ~。ざまぁ~」


 ボナペントゥーラは人の不幸が好きだった。


「………………」


 この煽りに対して黙り込む岳。


「うさみん……ほんとうに私のプライベートを?」


「はい。ちなみに、岳さんのお家にも監視カメラの方、仕掛けさせていただいております。岳さんが毎晩おもらしエロゲをプレイしていらっしゃるのも、知っていますよ」


「……!!」

動揺する岳。反対にカグヤは全く動じない。

岳のこの沈黙に対し、ボナペントゥーラは少し良心が痛み始めた。


「が、岳! ショックなのはわかるけどさ……なんていうかその……元気だしてよ!」


と、言った矢先。


「……嬉しいっ!」


岳はボナペントゥーラにとって予想外な言葉を発した。


「……うさみん。私が寝ているときも、トイレしてるときも、お風呂の時も……いつでも見守ってくれていたのよね」


「……はい」


「私が辛いとき、苦しいとき、いつもうさみんはカメラやスピーカーを通して隣にいてくれた……その暖かさで、私、生きてこられたのかもしれないわ」


「そんな。わたくしは当然のことをしたまでです。だって――」


岳の瞳が潤み、零れるのと同時にカグヤは大切な言葉を紡いだ。



「だって、わたくしたちは――親友、ですから」



いつもポーカーフェイスな彼女がときおり見せる輝くような笑顔が岳は大好きだった。

そして、今、彼女はその顔をしている。


「うさみん!」


「岳さん!」


抱き合う二人。

その光景を隅から見つめるボナペントゥーラは呟く。


「まじかよ……」


ただでさえ絶句しているボナペントゥーラ。しかし、彼女にとっての驚愕の展開は終わらない。


「うぅぅぅ。ぐずっ……オコジョちゃん、盗撮ってのを誤解してたよ……盗撮ってこんなに暖かくて愛情にあふれた素晴らしい行為だったんだね」


オコジョちゃんは自分のふっさりとした尻尾を使って涙を拭う。


「えぇぇっぇぇ!! これ感動しちゃう!? そっかー。オコジョちゃんそっち側かー」


オコジョちゃんは岳やカグヤに比べれば常識的だと思っていたボナペントゥーラ。自分の考えはやはり違うのかと絶望した。もはや諦めの境地に至りつつあった。

そんなこんなでもう収拾がつかない状態の中、突如、オコジョちゃんから聞き覚えのある音楽が鳴り始めた。


 ――『今宵は~~女王蜂の葬儀、月の出ない深夜零時~~君を迎えに~~』


 世間で流行っている『GEKAI NO MOAI(外科医のモアイ)』の代表曲、『クイーンBナイト』のサビだ。


「あ、神様からメールだ」


オコジョちゃんはどこからともなく携帯電話を取り出す。


「なになに……な、なんだって! 大変だ! みんな聞いて! 『賢者の会』の『シロノホワイト』がこの近くで一般人を操って犯罪行為をさせようとしてるんだって!」


オコジョちゃんはあわあわと携帯電話の画面を魔法少女たちに見せた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オコジョちゃんへ


神です。

魔法少女は無事に集まりましたか。天界では「オコジョちゃんには無理だろw」と言っている人がたくさんいます。

神は、ちゃんと集まるの方に3000円賭けてるので、もし集まってなかったら『雷の降る悪夢ライトニング・ナイトメア』しちゃいますね。

ちなみに、あの憎きポセイドンは集まらないの方に賭けているみたいです。見返してやりましょう。

さて、本題に入りますが、オコジョちゃんの近くで『賢者の会』の『シロノホワイト』が行動を起こしたようです。

集めた魔法少女と共に、相手をポセイドンだと思って叩きのめしてきてください。


追伸 『GEKAI NO MOAI』のライブ楽しかったですか?

    おみやげのグッズ楽しみです。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「と、いうわけさ」

 

オコジョちゃんはしたり顔で言った。


「もう逆に突っ込まない方がいいなこりゃ」


ボナペントゥーラは呆れた様子でそう呟く。


「これはウカウカしてられないわね。『賢者の会』を潰しに行きましょう」


ノリノリの岳。


「ええ。地球の平和のために、行きましょう」


カグヤも続く。


「あのなー、さっきはノリで魔法少女するって言ったけどさ、実際ボクたち学生だろ? これから授業なのにどうすんのさ」


ボナペントゥーラは相変わらずノリが非常に悪い。


「あ、それなら心配ないよ。この学校の校長先生に掛け合って、魔法少女活動も単位として認めてもらえることになったから」


オコジョちゃんはダメキャラに見えるが、そういう根回しはちゃんとしているなど、案外しっかりしている面もあるのだ。


「え、それ本当!?」


それを聞き、ボナペントゥーラがつまらないツッコミを入れるより先に目を輝かせたのは岳だった。


「本当だよ」


とオコジョちゃん。


「聞いた!? うさみん! 単位がもらえるわ!!」


「やりましたね岳さん! たこ焼きパーティーしましょう!」


再び抱き合って喜ぶカグヤと岳。


「なんで彼女らはそんなに嬉しそうなんだろう」


もっともな疑問を口にするオコジョちゃん。


「岳とうさみんは普通にやったら留年だかんなー」


ボナペントゥーラが呆れるように笑いながら言った。


「なるほど」


オコジョちゃんは納得すると同時に彼女らの頭の出来が心配になってくる。


「ね、ねぇ、オコジョちゃん様ぁ……」


岳はねだるように言う。


「……ん? ど、どうしたんだい」


岳の様子が気持ち悪くてオコジョちゃんは出来るだけ関わりたくないなぁと感じた。


「あのー、指定校推薦とかももらえるように交渉できないかしら。私、努力とか一切せずに慶応に入りたいの」


ここで慶応を出してくる岳の厚かましさはもはやワールドクラスだった。


「……そ、それは流石にだめだよ! 大学は自分の力で入らなきゃ!」


「使えないゴミね」


この手のひら返しもワールドクラスであった。


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