親友を紹介します!
いろいろあって念願の魔法少女となった岳。
マスコットのオコジョちゃん曰く、魔法少女になったことはヒミツにしなくちゃいけないらしいけれど・・・
「いいかい。オコジョちゃんや魔法少女のことはくれぐれもみんなには内緒にするんだよ」
岳の教室の前、オコジョちゃんはそれだけ言ってカバンの中にすっぽりと隠れてしまった。
岳は教室の扉をガラガラと開く。
ツカツカツカと教室を闊歩し、黒板の前まで行く。
そして、雑談に花を咲かせるクラスメイトたちの方を向いて、仁王立ちで言い放った。
「みんな、おはよう。今日付けで私、魔法少女になったから」
これが漫画だったら、恐らく背景に「どーーん!」と書かれていたに違いない。
それくらい岳は躊躇なく言い切った。
それを聞いたであろうオコジョちゃんはカバンの中でガサガサガサと大げさに動いた。
(えぇぇぇっぇぇぇぇぇっぇ!!!!??? 言っちゃうの!? 口止めした二秒後に言っちゃったよ岳ちゃん!)
オコジョちゃんは、これまで生きてきた中で二番目に驚いていた。
ちなみに一番は、オコジョちゃんが大ファンである人間界の歌手、『GEKAI NO MOAI (外科医のモアイ)』が2ちゃんねるで叩かれているという事実を知った時である。
(落ち着けオコジョちゃん! こういうときこそ冷静に……)
あわやカバンから飛び出すかというところで思いとどまるオコジョちゃん。
(急に魔法少女になったなんて言っても、誰も信じるハズないよ! オコジョちゃんが出て行ったらそれこそ――)
と、考えていたとき、カバンのファスナーが明いて光が急に差し込んできた。
「ま、眩しい……」
気が付くと、誰かに首根っこを掴まれ持ち上げられている。
「これがマスコットのオコジョちゃんよ。クラスのみんなで飼いましょう」
オコジョちゃんが横を見ると、岳のドヤ顔が見えた。
「わー、カワイー!」「え、これ喋るの!?」「岳ちゃんクラス公認魔法少女だね!」「いいなー、私も魔法少女なりたーい」「岳ちゃん魔法でえっちなことしちゃだめだよー」
などと反応するクラスメイトの少女たち。
岳への質問を続けながら、物珍しい生物であるオコジョちゃんに触ろうと寄ってくる。
「ちょっと待って! 君たち順応性高くない!? 信じる!? 普通ここで信じる!?」
オコジョちゃんは必死にツッコむ。
「ていうか! 岳ちゃんも岳ちゃんだよ! 内緒にしてって言ったのに! ふごごっ」
オコジョちゃんはクラスメイトたちにもみくちゃにされる。
「ふう。エサやりはみんなに任せるわね。ということで、オコジョちゃんはクラス公認ペット兼、クラス公認残飯処理係りということで」
岳はそう言ってもみくちゃにされているオコジョちゃんを置いて教室の後ろの方にある自分の席へと向かった。
「ま、待って岳ちゃん! ちょ、置いてく!? え、席に戻るの!?」
岳を追おうとするも、クラスメイトたちに抱かれてそれが叶わないオコジョちゃん。
岳はそんなこと一切気にせず、隣の席と、一つ後ろの席に座る幼馴染たちに挨拶をする。
「おはよう。うさみん、ボナペントゥーラ」
宇佐美 カグヤ。岳の幼馴染の一人。少し高めの身長。豊満な胸。髪型は紺の姫カット。少しタレ目でおっとりした雰囲気の顔からは気品が溢れていて、いいとこのお嬢様であることがうかがえる。
「おはようございます。岳さん」
カグヤは椅子に座りながらも丁寧にお辞儀をする。
「よっ。岳っ! てかさー、魔法少女ってなに? なんか願いとか叶えてもらえんの?」
いたずらっぽく笑って言ったのは、岳の幼馴染その2、マチア・ボナペントゥーラである。
髪型は金のツーサイドアップ。緑色の真ん丸の瞳。小柄な体系であるが、わりかし引き締まっていることから、彼女が活発な少女だということが分かる。
両親はイタリア人で、仕事の都合で日本に住んでいる。彼女は生まれも育ちも日本。ちなみに、ボナペントゥーラが苗字で、マチアが名前である。
「ええ。なんかめっちゃ頼んできたから仕方なくなることにしたの。ほら、私って人助けが趣味でしょう?」
鼻高々に言う岳。それに対しボナペントゥーラは……
「いやいやいやいや! この前、『私の趣味は他人の足を引っ張ることよ』ってドヤ顔で言ってたじゃん!」
とツッコミを入れる。
そしてカグヤは……
「それにしてもなぜ魔法少女になったのです? この前、『私、日曜の朝にやってるアニメとか絶対に見ない派なのよね。いい歳こいて魔法少女とかないわー』と、聞いてもいないのにおっしゃっていたじゃないですか」
岳には、そういう逆効果なアピールをしてしまうという癖があった。
「だ、だから、オコジョちゃんがむせび泣きながら土下座して頼んできたからよ」
さらっと話を誇張するのは岳の特技でもあった。
「うーん。少し怪しい気もいたしますが……」
カグヤが渋々とは言え納得してくれたことに岳は安堵する。
そこで、岳は本題を切り出す。
「それはそうとね。うさみん、ボナペントゥーラ」
岳は親友の名を呼ぶ。
「はい。なんでしょう?」
「なんだよ」
カグヤは丁寧に、ボナペントゥーラはぶっきらぼうに返事をする。
「私と一緒に魔法少女になってくれない?」
二人は目を見開く。
「え、ええっと、今、なんておっしゃいましたか……?」
先に口を開いたのはカグヤだった。
「そ、そうだよっ! いきなり魔法少女なんて――」
三人の中で一番の常識人であるボナペントゥーラ。しかし、常識人ゆえに突飛な出来事への対応力は低かった。
「だから、今言った通りのことよ」
「でも……いきなりそんなこと言われても……ほら、うさみんも困ってるだろ。な?」
ボナペントゥーラはカグヤの方をちらりと見る。
「あ、いえ。勘違いなさっているようですが、わたくしは単純に聞き逃してしまっただけです」
「えぇぇぇぇぇ!! さっきのヤツ聞き逃しだったの!? 聞こえてたけど聞き返したんだと思ってた!!」
ボナペントゥーラの叫び。
「なんだ。聞き逃しだったのね。いいわ。何度でも言ってあげる。うさみん、私と一緒に魔法少女になってくれないかしら?」
今度はしっかり岳の声を聞いていたカグヤ。迷わず返事を返す。
「あら、そんなことでしたか。お安い御用です。わたくしでよろしければ、ご一緒させていただけると幸いです」
ぺこりと可愛らしく頭を下げるカグヤ。
しかし……
「と、申し上げたいのですが、魔法少女というものは誰でもなれるものなのですか? 面接や筆記試験、グループディスカッション等を受ける必要性があるのでしたら、わたくし、あまり自信がありません」
カグヤの不安に対し、ボナペントゥーラは「就職試験じゃないんだから……」と小さくツッコむ。
「安心して、そんなものはないから。魔法少女は年齢、性別、学歴、経験不問! やる気とガッツさえあれば誰でもできるアットホームな――」
「はいはい。そーいうのいいから。早く魔法少女の条件言いなよ」
岳は渾身のボケを軽くスルーされてしまったことに悲しみを感じたが、ボナペントゥーラに従う。
「そ、そうね。魔法少女の条件だったわね。条件は一つ、度を越した変態であることよ」
オコジョちゃんとは違いなんの躊躇いもなく岳は言った。
「あら、でしたら、わたくしは問題ありませんね」
頷くカグヤ。
「ええ。うさみんは私と同じ領域で語り合える数少ない変態の一人だものね」
何を隠そう、この宇佐美カグヤという少女、一見おとなしそうに見えるが、岳と肩を並べる変態なのだ。
「性欲でしたら自信しかありません。昨夜から今朝にかけても、新作のえっちな百合ゲーを徹夜でやっておりましたので」
「そうよね。うさみんは期待を裏切らない変態ガチ百合厨だものね」
そう言って岳とカグヤは肩を組む。
その光景を横目で見ていたボナペントゥーラが言う。
「……ボクも最初はうさみん変態すぎてびっくりしたもんなー。幼稚園のころ岳と一緒に初めてうさみんの家行ったら、百合もののエロゲいっぱいあったんだもん」
「それには流石の私も驚いたわ」
岳も同調する。
「うふふ。ですが、あの百合エロゲコレクションはわたくしのものではなく、母のものだったのですよ」
笑顔でそう訂正するカグヤ。
「え……」
ボナペントゥーラは目を点にする。
「母は根っからの百合厨で、百合漫画とかでモブでも男が登場しただけで作者のツイッターに突撃するほどの人なのです。わたくしは、そんな母の影響で世界レベルの百合厨になったのです」
カグヤは終始、穏やかな表情で言った。
「なんて素晴らしいお母様なのかしら」
岳は感動していた。親子の絆、家族愛……そして彼女らの百合愛に。
「私のお母たんなんてね。私がおもらしエロゲを買うたびに深夜に泣きながらお父たんに相談するのよ? ありえなくない?」
岳はヤレヤレと言った雰囲気で言う。
それに対してボナペントゥーラは……
「普通だから! それが普通の反応だから!! 娘を百合厨に仕立て上げる母親の方がおかしいから!!!」
唯一のツッコミ役という責任感を持つ彼女は必死に職務をまっとうした。
「岳さんは……家庭環境に恵まれなかったのですね……ですが、それでも前を向いて変態としての成長を辞めない姿。とても眩しいです。抱かれたいです」
カグヤは頬を染めて言う。
「なに言ってんのうさみん……!」
ボナペントゥーラは口をあんぐり開けて言う。文字通り開いた口がふさがらないようだ。
「安心してください。ちゃんとボナペントゥーラも抱きたいですから。嫉妬なんて可愛らしいですね。ふふ」
カグヤは凄くいい笑顔で言う。
「いや! 嫉妬とかじゃないから! 怖い勘違いしないで! あと、岳には抱かれたいのにボクは抱きたいって言うとこがリアルすぎて怖いからやめて!!」
ボナペントゥーラはカグヤから距離を取ろうと椅子の隅の方に座る。
「大丈夫よ。私が二人まとめて抱くから」
そんな二人に対して岳がドヤ顔で言った。
「三人でっていうのも……悪くないですね」
カグヤはニコっと笑う。
「怖い怖い怖い怖い怖い! もうやだこの人たち! もうほんとヤダ!!」
ボナペントゥーラは涙目で膝をガクガクさせて叫ぶ。
「まぁ……問題はここで一人常識人ぶってるボナペントゥーラよね」
岳があきれたように言う。
「ええ。ボナペントゥーラもこっち側の人間なのですが」
カグヤも左手を頬に添え、少し首をかしげて言う。
「ボクは普通の一般人だよ! 岳やうさみんと一緒にするなよ!」
このボナペントゥーラの反論に対して岳が言う。
「あなた、この前試合でレッドカードもらって退場になったわよね」
「……うぐっ」
ボナペントゥーラはサッカー部に所属している。岳とカグヤは試合の度に彼女を応援に行くのだが、彼女は高確率でレッドカードをもらう。
「だ、だって! あれは仕方ないだろ! 相手のセンターバックの娘! すっごい巨乳だったんだよ! 走るたびに揺れててさ! そりゃ誰だって誘われてると思うだろっ!」
必死に弁明するボナペントゥーラ。
「思わないわよ。例え思ったとしても揉んだりしないわよ」
「もしかしてボナペントゥーラ、試合前日にちゃんとスッキリして来なかったのですか?」
岳はジト目で、カグヤは煽るような態度で言う。
岳は続ける。
「しかもあなた、その前の試合でも、その前の前の試合でも同じ理由で退場になってるわよね?」
「違う! 特に前の試合のサイドバックの娘は違うんだよ! すっごいちょうどいい感じの貧乳でさ! なんかいい匂いしてたし完全に誘ってたし! それに、試合終了後、ロッカールームに来てさ『揉まれるの……クセになっちゃった……また、揉んで?』って言ってきたもん!」
ボナペントゥーラはまだ自分が異常性癖保持の変態であることを認めることができないのだ。
「それはあなたが毎晩ブログで書いている小説の『ボクの入ってる女子サッカー部がおっぱいハーレムすぎて困る件』の中での話でしょう? 現実ではビンタされてたじゃない。乱闘騒ぎだったの覚えてるわよ」
「ちょっ!! なんでボクのブログのこと知ってるのさ!! おかしいだろ! 誰にも言ってないのに!!」
ネットに百合小説を投稿するなどという行為は本物のダメ人間しかやらないことだ。しかも、友人に作品を読まれていたのだ。ボナペントゥーラはまた吠える。
「まぁまぁ、落ち着いてください。岳さん。いけませんよ。誰にだってプライベートはありますし、知られたくないこともあります」
カグヤが珍しく常識的な擁護をする。
「うさみん……」
ボナペントゥーラはそんなカグヤの言動に軽い感動を覚える。
さすがの岳も反省し、謝罪する。
「そうよね……ボナペントゥーラ。ごめんなさい。勝手にあなたのプライベートを探ったこと、それと、ブログのコメント欄荒らしたこと……」
「あれお前だったのかよっ! 投稿したら一分以内に毎回『これ、「進撃の○人」のパクリよね?』とかいう意味わからんコメント付くからイライラしてたんだよ! お前どんな目線で『進撃の○人』読んでるんだよ! どう見たらパクリになるんだよ!」
ボナペントゥーラは今にも岳に殴りかからん勢いだ。
これはまずいと感じたカグヤが仲裁する。
「岳さんにも悪気があったわけじゃないと思うんです。だから、おっぱいバロンドール先生もそんなに怒らずに、許してあげ――」
「なんでお前はボクのペンネームを知っている!?!?」
「あ……」
カグヤはこれはやってしまったという表情で口元を抑える。その仕草は妙に上品でボナペントゥーラをさらにイラつかせる。
カグヤは一瞬申し訳なさそうにしたものの、すぐにいつもの飄々とした態度に戻り話し始める。
「さてここでクイズです。どうしてわたくしはおっぱいバロンドール先生というペンネームを知っていたでしょうか?
A、おっぱいバロンドール先生の部屋に監視カメラを仕掛けている。
B、おっぱいバロンドール先生の家の合鍵を持っている。
C,おっぱいバロンドール先生の家にスパイがいる。
さて、正解はどれでしょう。リモコンのDボタンを押して是非クイズに参加してください。正解者から抽選で、おっぱいバロンドール先生の直筆サインを十名様にプレゼントします」
ボナペントゥーラは絶句した。
親友の個人情報を覗き見し、あれだけキレさせているこの危機的状況においてクイズを出題するというカグヤの世界レベルのメンタリティに。
しかも、正解者にはサイン(十枚)をプレゼントすると言う。この状況でサインをもらえると思っているのだ。
「正解はBね。私、試験とかでも選択式の問題は絶対にBを選ぶようにしているの」
ドヤ顔で答えたのは岳だった。
「う~ん。オコジョちゃんはAだと思うな」
やっとクラスメイトたちのモフモフ地獄から脱出してきたオコジョちゃんが言う。
「おい畜生。お前なにさらっとクイズに参加してんだよ」
ボナペントゥーラは目を血走らせてツッコミを入れる。
岳やカグヤ、オコジョちゃんも頭はおかしいが、ボナペントゥーラも少しキレやすすぎるところがあると言えるだろう。いわゆる、キレる若者である。
「はい。お二人とも正解です。なんと、A、B、C全てが正解なんですよ」
カグヤは笑顔で言った。
「いえーい!」
「やったね岳ちゃん!」
岳とオコジョちゃんはお互いを祝福するようにハイタッチをかわす。
「ちょっと待てぇぇぇい!! いろいろ聞きたいことあるけど全部正解ってまずどういうことだよ! 特にC! ボクの家にスパイがいるっておかしいだろ!! ソイツが合鍵作ったり監視カメラ取り付けたりしてるの!?!?」
ボナペントゥーラはこんなことはデタラメに違いないと思ってはいたが、カグヤならやりかねないという不安もあった。
「うふふふ。実はですね、ボナペントゥーラのお母様は、わたくしの母の言う事をなんでも聞くのです」
いわゆる暗黒微笑を浮かべるカグヤ。
「マ、ママが……? え、ど、どういうことだよ」
自分の母親がスパイなのか……しかし、そんなことはありえないと自らに言い聞かせるボナペントゥーラ。
「大変ご多忙でいつも深夜を過ぎても帰って来ないボナペントゥーラのお父様……お母様はとても寂しい思いをなさっていたそうです」
「た、確かにパパは忙しいけど、それとなんの関係があるんだよっ」
「わたくしの母はとても女性関係にだらしないのですが、そんな母はある時、寂しそうにしているイタリア人の美人な人妻を見つけました」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って! その話し聞きたくない!!!」
「聞きたくないのなら、終わりにいたしましょう」
カグヤはニコリと笑った。ボナペントゥーラは虚ろな瞳で「ウソだウソだウソだ」と呟く。
「まぁ、要するに、ボナペントゥーラのお母たんは、うさみんのお母たんのメス奴隷ってことね」
空気を読まないことに定評のある岳が追い打ちをする。
「ちょ、ちょっと岳ちゃん。そんな言い方よくないよ……せめてメス豚くらいで……」
オコジョちゃんは常識のあるフォローをしているつもりなのだ。
「あ、勘違いなさっているようですが、不倫関係というわけではありませんよ」
「え……?」
俯くボナペントゥーラが鼻水をだらーんと垂らしながら顔をあげた。
「事のなりゆきをチャート化しますと……
ボナペン母、ボナペン父の帰り遅くて寂しい。
↓
ボナペン母、寂しさを紛らわせるため美少女アイドル系スマホゲームにハマる。
↓
ボナペン母、どハマリ。推しのURが出ない……じゃぶじゃぶの課金。歯止め効かなく。
↓
サラ金で莫大な借金。
↓
返せない……。
↓
たまたま保護者会でカグヤ母と知り合う。
↓
カグヤ母、美人イタリア人妻に恩を売りたく借金を肩代わり。
ということだったのです。ほら、わたくしの家、腐るほどお金持ってますし」
カグヤの説明が終わると、岳はつまらなそうに「なーんだ」と言って肩を落とした。
「そういうことだったのか……いや、別に安心できることでもないけどさ」
ボナペントゥーラは不安から解放され、ヘナヘナとへたり込みながら言った。
「でも! うさみんも言い方が悪いんじゃない!? うさみんのママが女性関係にだらしないとか言うからさ! それってミスリードじゃん!!」
「うふ。ごめんなさい。でも、絶望してるボナペントゥーラの表情が……その……とってもそそるというか……」
カグヤは身を震わせて言う。
「なんか貞操の危機を感じるけど……はぁ。もうわかったよ。ママが借金したのが事実なら、ボクにとってもうさみんは恩人だしね」
ヤレヤレといった感じにボナペントゥーラは言う。
借金があること、自分の母が娘の個人情報を売ったという事実は変わらないのだが、ボナペントゥーラはなんか雰囲気でもういいやってなってしまった。
「ちょっと待ちなさいよ! まだ可能性はあるわよね!?」
この一件に関しては部外者であるはずの岳が妙なテンションで急に話に入ってくる。
「だって、ボナペントゥーラのお母たんはうさみんのお母たんに頭が上がらないのでしょう? だったら、まだチャンスあるわよね!?」
ここにいる岳以外が皆、目を点にする。岳は必死に何を聞いているのだろうか。
「岳、お前さっきから何言ってるんだよ。よくわかんないよ」
ボナペントゥーラは言う。
「ボナペントゥーラのお母たんがうさみんのお母たんのメス豚になる可能性の話よ! 私、最初に聞いたとき、これは面白いことになったなってワクワクしたのに、本当はただ借金肩代わりしただけなんて……そんなのつまんないわよ! 私やだやだ!」
野次馬根性丸出しで最低でゲスなことを言っているようにも聞こえるが、最初は「メス奴隷」という表現を使っていたのに、オコジョちゃんの助言を受け入れて「メス豚」に言葉を置き換えているのだ。そこからもわかるように、岳は、本当は素直でいい子なのだ。
「ないよ! その話はボクの早とちりだったってことで決着ついただろ!?」
「本当にないのかしら!? うさみん! ほんとにないって言いきれる!?」
「ないよな!?」
そのやり取りを見ていたカグヤは……
「……どうでしょう。母は本当に美人が大好きですから」
これを聞いたボナペントゥーラは顔面を真っ青に、岳はガッツポーズを作った。