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幕間《猫、入学式、ハワイ》

  ある朝、飼い主は慌ただしかった。私に餌をやるのも忘れて喚いたりなんぞしだした。どうしたものかと眺めていると、やがて合点がいった。着慣れない中学校の制服に手を通して、その服の丈が自分に合わないことを喚いているのだ。怒っているのだ。飼い主の母親は子供の成長を願っている。故に、制服は身の丈に合わない大きなものになる。

  飼い主は私にどう思うかなどと問うてくる。私は興味がないような風をして、窓越しに見える電線の上に点在している小鳥が気になってやれないというフリをした。私のそういう様子を、飼い主は気に入ったらしかった。タンスの上から窓の外を眺めやっていた私の隣にやってきて、タンスに顎を乗せ、さっきよりは落ち着いた口調で、入学式は嫌だと駄々を言い出した。私は猫らしく鳴きながら窓を叩いた。

  飼い主はようやく餌をくれた。飼い主は母親に連れられて家を出て行った。

  私は餌を食べ終えると、母親の部屋に入って、タンスの上や机の脇などに置いてある飼い主の写真を見る。さも大切そうに、綺麗な写真立てに入れられている。

  私は一通り見終わると、次に飼い主の部屋に行った。やはり日向になったタンスの上で、私は一眠りを決め込もうとする。

  飼い主が生まれると同時に私はこの家に来た。その時から私は飼い主の遊び相手である。飼い主のことは理解している。けれど理解者にはなりきれない。私は猫なのだから。

  昼過ぎに飼い主は帰ってきた。なぜだか楽しそうにしながら。理由はまもなくわかった。飼い主は私を持ち上げると、母親が入学祝いに旅行に連れて行ってくれると、たいそう嬉しそうに語る。しかし、私は興味がないフリをする。

「やっぱり旅行に行くならハワイとかがいいよね」

  飼い主は快活に言う。その声は、まだ微かに幼い。

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