子牛vs
とりあえず、搾乳小屋に牛たちを順番に移動させていく。中の作業は二人にお任せだ。
「ハーイ!ハーイ!」
「ハイハイハーイ!」
「ほらー動けー、早くー」
声を出したり手を鳴らしたり、真っ暗闇の中で、牛たちに搾乳の時間だと知らせながら動かないやつらには棒で軽くペチペチと叩いてやる。
「お前らも眠いのわかるけど、早く動いてー。ほら!行けー。ハーイハイハイ」
仕事中は独り言しか言ってない気がする。ほとんど一人で仕事してるし牛たちは、頭良いのとアホなのが二分化しすぎてるから適当だ。
たまに戻って、中を手伝って、機械で糞を掃除して、移動させてのループが千頭分くらいだろうか考えるのもアホらしいから何も考えないことにしてる。
そして今日は運が悪かった。
「ヴェー!!ヴェーー!」
「って変なとこで赤ちゃん産んでんじゃねぇーよ!はぁああ」
見回り中に見つけた糞まみれのベイビーと鳴き叫ぶ母牛、、、しかも2組。
ここでは、産まれたら早々に親子は引き離すのが鉄則だ。なぜなら産まれてすぐに飲む母乳が子牛の命を左右し、もし親が母乳をやらなかったり、子牛に飲む元気がなければ、うまく成長できないとされてるからだ。
だからまず産まれたての子牛を見つけたらやることは、、、部屋から引きずりだして親と引き離す。という悪魔のような所業だ。だから命の誕生に感動する暇なんて1秒もない。
「ヴェー!!ヴェー!!!!」
その間、親牛はもちろん鳴き叫び続ける。わたしの子どもをどこに連れて行く気!!!と悲痛な表情でこちらを見つめながら、子牛を部屋から引きずり出す間はずっと着いてくる。
「ごめんな。やりたくてこっちもやってる訳じゃないんだよ」
赤ちゃんが生まれるたびに、この仕事がどんどん嫌になっていく。
生まれたての子牛を連れて場所を移動して、初めての乳を人間の手によって与えられる。そして、時間内に規定量を必ず飲ませるのだ。
「ベー、ベー」
生まれたては、可愛いのだがここで可愛いやつと憎たらしいやつの2パターンに別れる。
乳を飲む子牛と飲まない子牛
この違いは雲泥の差といっても良い。
うまく行けば10分かからない仕事が1時間近くかかるレベルで違う。
そして今日のわたしはとことんついてないらしい。
「飲まない、、、。」
「おーよしよしよし!飲もうねー!美味しいよー!ほら!飲める飲める!」
こっちのテンションを上げてみたり、タオルでゴシゴシ拭いて親牛が舐めてるように錯覚させてみたり、何をやっても飲まない。こういう子牛は飲みたくないと無い歯をくいしばってるからたちが悪い。
「お願いだから、飲もう?お願いします子牛さま!美味しいよー、はぁ。飲まないお前が悪いんだからな、、、。あーもぅ!」
こうなったら最終手段だ。