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とある兵士

作者: ひろ

 我々が生きる日常。その日常には彼らがいることを忘れてはいけない。某国の軍(直訳すれば「自衛軍」)は災害救助も立派な任務であるが、災害救助隊ではない。国防組織なのだ。

 今回の舞台となる国家はすべて「某」で描かれているが、他人事や「上手い話」とは思わず読んでいただきたい。


 の一方で、ちょっと砕けた表現もあるのでお楽しみいただければ幸いです。

 某国某所、基地にて。


 ここの島はこの国にとって一番北にある島だ。ここよりもさらに北に向かえば、国境があり隣国があり俺たちと同じようにこっちを睨んでいる人間達がいるのだろう。

 今から半世紀前、戦争があった。どっちから仕掛けてどんな戦いであったかはともかく、国を賭けた全面戦争であった。

 結局「痛み分け」ということで、両国とも得られたものは何もなかったが、大量の死体と障害者と憎しみだけが残った。それから半世紀、今俺たちがここを警戒している。

 1個中隊規模の歩兵と同じく中隊程度の戦車やミサイル車両などからなる混成部隊、そして少数の憲兵と「北」を睨む大きなレーダーと監視用のカメラがある。レーダーは「北」の沿岸部にある基地から発進した航空機の機体種別瞬時に見極めることができ、カメラは沿岸部を走るタクシーの会社名までわかるほどの能力がある。言うのを忘れたが、これを行えるように高台に基地は置かれている。格納庫には海軍の哨戒機が4機駐機していて、その4発プロペラの哨戒機が日に3回飛んでいく。なにかあると増援で1機プラスして飛ぶから4機あるらしい。

 こうやって見てみると「国境の最前線基地」という表現が合いそうだが残念ながらこれでも不足している。

 なんせ、「北」から見ればこっちの軍隊と戦うとき一番最初に邪魔になるのがこの基地だ。爆撃機や戦闘機、下手すりゃ艦砲射撃でもって制圧をしてくるだろう。

 そうなればこちらも戦闘開始だが、防空用の対空ミサイル発射機搭載車両やレーダー搭載車両からなるものが2セットしかないから、どんなに頑張っても2地点にしか置けない。おまけに在庫の対空ミサイルは20発しかないから、「北」の物量作戦には絶対に敵わない。携帯式地対空ミサイルもあるが、高空から何発も爆弾やらミサイルやら落とされればたまったもんじゃない。

 「北」の艦艇にしても、「北」の1番の前線海軍基地には130mm連装砲搭載の巡洋艦や駆逐艦、小口径砲搭載の快足フリゲートがあるらしいが、こっちの唯一の対水上戦力は105mm砲搭載の戦車6両と哨戒機が搭載する空対艦ミサイルのみだ。戦車じゃ「北」の艦艇が最大射程で撃ち始めたら、こっちは届かない。哨戒機なら問題ないが離陸したとたん艦対空ミサイルで撃ち落とされるのが関の山だ。さすがにロケット推進相手にプロペラ機は無理だろう。

 本土から増援が来ないことも無いと思うが、ここら辺を警備する自国艦艇は海軍艦艇よりも沿岸警備隊の巡視船が圧倒的に多い。噂じゃ野党が「周辺国との緊張緩和」を叫んで政権に「軍よりも警察権力行使」を要請して、与党内部にも「友愛」だのと叫んで政権基盤を脅かして、政権も「軍ではなく警察権力の派遣」を決定したとか。巡視船じゃ、漁船相手には通用しても軍艦相手では、巡視船搭載の機関砲の射程に入るために近づいたとたん、一方的に「北」軍艦の艦載砲の餌食になるだろう。自国海軍艦艇は最も近い海軍基地から出撃して、駆逐艦の最大速力で2時間は掛かるだろう。

 本土空軍に関しても、この島から最も近くにいる部隊が編成を終えて対空対水上装備を整えて出撃するのに最低でも1時間は掛かる。

 つまり、どんなに早くてもまともな編成でこっちの俺たちを救援するのに1時間は掛かるということだ。

 ちなみに「北」は毎日駆逐艦や爆撃機や偵察機をこっちの領海や領空に接近したりしてきている。そのたんびにスクランブルでこっちの戦闘機や、ここの基地の哨戒機が発進するが結局は「北」にすぐ帰っていく。そして、こっちの戦闘機や哨戒機も帰ってくる。レーダーにはそれがすべて写っている。

 カメラはカメラで「北」の軍港に出入りする艦艇や付近を飛ぶ航空機を1機1隻としっかり確認している。書類にまとめたそれらを根拠に本土の国防省や政府は軍の行動方針決定の材料や「北」の情況を察知する。これはもちろん「超々極秘」だ。

 にしても、国防省の背広組....いわゆる官僚方や外務省のお役人さん達が好きな女の子との「密会」のときに持ち出し厳禁のはずなのに「誤って」流出してしまったり、金で売っているという。もちろん噂だが.....。

 そして、なぜかそれらの情報が自国の民間人であるはずの弁護士の手に渡り「軍は友好国にスパイ活動を行っている!!」などと訴えられたりもする。幸い、この基地のそういった情報は漏れたことがないらしい....(そもそも「漏れた」ことさえ把握出来ればラッキーだ)。

 そういえば同盟国の元スパイが「こんな事してます!」と同盟国情報機関の情報を公開して一悶着あったが、あれなんか最悪だ。情報収集は立派な「専守防衛」だ。実弾が飛び交う前に「情報」の時点で全てを把握し、対策を打つ。だから目に見える形での「戦争」は起きないし、起きても最低限度の被害で早期講和を目指せる。大きな軍隊を持つ国家はだいたいそれを理解している。「銃に弾は込めても発砲はせず、ただ飾りとして置く」。これこそ真の「国防」であろう。それを成功させるために情報を集める。学校で好きな子に告白するのに、彼氏がいないことや少なくとも自分が嫌われていないこと、なによりクラスも確認しないで告白する奴はなかなかいない。

 しかし、寒い。この時期は深夜は零下20度を下回る。この基地の評価に値するところは、やる気十分の、いや我軍最精鋭の仲間たちと最高度の分解度のレーダーにカメラ。そして、冷暖房が整った官舎とまぁまぁ旨い飯だろう。本屋もゲームセンターも風俗も何もかも無い島での唯一の楽しみは飯と自由時間での仲間とのガキみたいな無駄話と持ち込んだゲームや漫画だろう。

 ネットで通販を頼んでも「配達地域外」になるから本土の北部方面軍司令部宛に届けてもらい、週一で来る空軍輸送機の物資運搬に混ぜてもらうしかない。AVなんか頼むと宛先人に届くまで(外部からの配達物に関しては、テロを防ぐためすべて開封されて中が見えるように簡易に包装されるため)100人単位で他人に見られる覚悟が必要だ。もちろんそれを理解して頼む強者もいる。家族からの手紙なんかは大抵届くまでに100人単位で涙が流れている。なかには本土にいる彼女からの返事も....、その場合100人単位で「一文字残らず」読まれている。そして基地ではその日の話のネタにされる。

 そして、なによりこの男ばかりの基地にも女性軍人がいる。憲兵に1人、歩兵中隊重迫撃砲小隊に1人、衛生兵2人だ。

 このうち衛生兵の1人は40歳を越えているため幹部に人気だ。他はだいたい20代から30代前半で、重迫小隊と憲兵の1人は彼氏なしだからものすごく人気がある。特に憲兵の1人には「捕まって調教されたい」と言う仲間は多くいる。俺は逆に調教をしゲホッゲホゲホ......。

 しかし、何だかんだでここ半世紀「北」との争いは(目に見える範囲で)起きていない。それでも「北」は毎日偵察機を飛ばし艦艇を領海ギリギリに通過していく。それにこちらも対応する。これが日常だ、我が国にとっては。

 それが日常であるがゆえに「軍はまともに戦おうとせず無駄」などと叫ぶ議員や「軍がいるから「北」が来る」と言い出す国民もいる。そしてそれらが一体となって「軍縮小論」があるらしいが、思わず笑ってしまう。軍が見張っているから「戦争」が起きないわけだし、何が起きれば軍が出動する。巡視船に軍艦は沈められないし、パトカーが戦車相手に戦えるわけが無い。

 沿岸警備隊や警察の特殊部隊が「テロ対策に使える」などと言われてもいるが、あれは立てこもりや極一部の地域に敵がいる場合有効であるが、ゲリラや軍事テロのように大規模かつ広範囲では対応不能だ。何年か前に地下鉄で毒ガスが撒かれたときも警察力の対応を越え軍が出動する騒ぎになった。あのときは「1つの都市の全地下鉄路線が対象」であったから良かったものの、複数都市となれば首都警察よりも能力が高いとは思えない地方警察がまともに対応できないだろう。おまけにそれに伴う混乱や二次テロを防ぐために警備強化するとすれば.....。「警察」は「軍」ではない。警察の限度を越えた先に軍がいることを理解すべきだ。

 まぁ、そんなことを考えていても俺たちを知らない夢追い人にわかるわけがない。それで良いのだ。俺たちがそう言われているうちが「花」だ。むしろ頼られるほうがまずい。

 任務が終わり官舎に戻ると談話室で仲間が集まっていた。今度は元軍人が政府庁舎の屋上にラジコン機を着陸させたらしい。それには青酸カリが積まれていたとのこと。「(国策を行う)国や、他人事と考えている国民に対し文句があった」と供述したことよりも「犯人が自主してくるまで気付かない警察」と「元軍人ということは国家に対しクーデターを仕掛けようとしていたのか」ということに矛先が向けられていた。討論番組の体裁を取っているこの番組の出演者の多くは論点がずれた持論を展開し、中には「だから軍は信用できない」とまるで軍全体が悪者のように言う輩もいる。

 その中に重迫小隊の女性軍人がいた。「この人たち、いったい軍を何だと思っているのかしら?」。

 元軍人、というだけで別に軍とは関係ない。それよりもこの「専門家」の方々は「国防」を理解しているのか。

 「なぁ、結香(ゆいか)

 「なに?」。彼女が反応する。

 「俺たちは、ただ粛々と任務をこなすしかない。たとえ報われなくても」

 「報われないほうが幸せだよ、私達も、国も、貴方も」

 どうやら彼女も同意見らしい。

 「なぁ、結香、明日非番だろ?」

 「そうだけど、なに?」

 「明日、久々に本土にいかないか?、買い物にもちゃんと付き合うよ」

 「嘘だ~、いつもそうやってベンチで座っているくせに」

 「本当だよ、ちゃんと明日は付き合うから」

 「んじゃ、嘘だったら憲兵として貴方を逮捕します」

 「逮捕術かけられたら、逆に羽交い締めしてやる」

 「バカ」

 

 確かに報われない日々が続く。そして、こうやって何かがずれている平和な日常も。いや、俺たちが全うしなければならないのだ、何に変えても続くように。そして、この大切な仲間たちと彼女との世界を。

 彼女の後ろ姿を見送りつつ心の中で考えていた。


 部屋に戻ると相部屋の仲間たちは談笑していた。適当に受け答えをしつつ、俺の机の引き出しの一番下の段を開ける。

 そのとき、本当に一瞬、机を開ける俺の姿を仲間たちは注視した。そして、彼らは「明日、決行か」「武運を祈る」「ちゃんと射止めろよ」とそれぞれがそれぞれ思っていた。彼らは知っていた。輸送機が基地業務部に1通の小包が届けたことを。そして中身が指輪で、宛先人が誰であったかを。そして2人の関係も。

 俺は知るよしもない。この基地に駐屯している軍人の内、たった2人を除いて全員が成功を祈っていると言うことを。そして、2人の内の1人は別な1人からのプローポーズを誰よりも心待ちにしていることを。

 

 俺は心に誓う、結香。きっと明日は俺が軍人を任官してから一番難題な作戦を展開することになるだろう。

※彼らは、軍人である前に一人の人間です。しかし、その彼ら(彼女ら)は任官時に国家、国民に命を預けました。

 好き勝手言うのは自由ですが、我々の命を守るために彼らは命を預けたのです。その彼らを批判したり無用としたり、何より都合によって意見を変えること(例)↓

(某政党「自衛隊は必要ない」→(集団的自衛権論議において)「あの日、お父さんは帰ってこなかった」)

(某市民団体「自衛隊は違憲・自衛官は国の恥」→(同様に)「自衛官の皆さんが死ぬ姿を見たくはありません」)


などと、都合よく論調を変えるのは許されざる行為です(そもそも集団的自衛権の本質さえも理解していない)。



 この話を読んでいただいたかたは、今一度考えてみてください。誰だって軍だろうが自衛隊だろうが死なれるのは嫌なこと。でも、一体なぜ彼らがいるのか、存在するのか。そして我々は何をするべきか(別に「デモとかするべき」ではありません。モノの見方に対する問いです)。

 ただ言えること。子羊(=ただ何もしない)のままでは、戦争は起きなくても他国との近所付き合いは不可能でしょう。

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