私、誕生したよー
そんなわけで。
あ、死んだ。と思った私が目を覚ますと、そこは簡素な…というかボロい小屋。
起き上がろうにも体が何故かいうことを聞かない。
何でー?と、声を出したが聞こえたのは
「あぅー」
というなんとも気の抜けるような柔らかく少し高い声。
…………すげぇ嫌な予感しかしないが、恐る恐る自分の手を見る。
「うぁー(まじかー)」
見えたのはぷにぷにとした赤子特有の小さな紅葉。
「…うぁーぅ(…まじかぁ)」
ここで普通なら泣き喚くとか、動揺するとかが当たり前の反応なのか?
だが私は驚きのあまりただ呆けるしかなかった。
だって赤子だよ?目が覚めたら赤ちゃんってどんな羞恥プレイですかこれ。
しかも死んだとばかり思っていたから何とも言えない気持ちになる。
そんな私の気持ちなんて知ってか知らずか…頭の上の方から軋んだ扉の開く音がした。
「お?目が覚めたかな?」
聞こえてきたのは少し低めの優しい男性の声。
私が起きたのに気がついたのか、キシキシと床を踏む音が聞こえた。
ひょいっという効果音がつきそうな感じで私は抱き抱えられた。…が。
ただ一つ違ったのは私を抱き上げたのは人間ではなく、首のない鎧だったことだ。
漆黒の鎧は傷一つなく、腰に刺さっているのは抜き身の剣。
肩のあたりからボロボロの紅いマントがついているぐらいで、あとは何も装飾がない。
その首なしの鎧は右腕で私を抱え、ゆらゆらとあやしながら左脇に抱えた「何か」をボロボロの木箱の上に無造作に置く。
「えぅ?(何?)」
目線を下に向けると、木箱の上に乗っていたのは首。
鎧の頭の部分といったほうが正しいだろうが、正式名称は知らん。
頭の部分は蓋みたいなのが空いていて、その中にあるのは紛れもない人間の首。
しかもイケメン。これ重要。
真っ白い肌にアイスブルーの瞳。前髪から察するに金髪ですねわかります。
内心グッジョブ!王子様ひゃっはーと叫んでいるとその首…というかイケメンが喋った。
「あー、とりあえず、泣かないでくれたのは良しとするかな?」
こてん?と効果音が聞こえてきそうな感じで喋る首もといイケメン。
「とりあえず、一応自己紹介しておくよ。君はなんか物分りが良さそうだしね。俺はフレイ。こう見えて、デュラハンだ。これからよろしく頼むよ。」
にこっと笑顔を浮かべるフレイに、私の頭の中でとある単語が引っかかった。
デュラハン。
アイルランドなどの伝承にある首無し騎士で、妖精。コシュタ・バワーと呼ばれる首のない馬もしくは馬車に乗り、死を予言する存在である。
一応女の人もいるみたいだが、基本的にデュラハンは男性のイメージが多いだろう。
しかし、何故そのデュラハンが私を抱っこして、しかもあやしているの?
「んー、どう説明したらいいんだろうね…。君は見初められたんだよ。」
ニコニコと笑顔を浮かべながら私に話しけかるデュラハンンもとい、フレイ。
「あーぅ?(見初められた?)」
腕の中でこてん?と首をかしげる私。
「君の名前は知ってるよ? タキグチ オボロだよね?」
ふいに、私の生前の名前を口にしたフレイに、体はビクっと反応した。
うむぅ…正直だな赤子の体は。
「あのね、君の世界の神様に頼まれたんだ。闇に見初められた娘を頼むって。闇に好かれて、闇の者は君を無条件で愛する加護をもつ君は、本来はタタミっていう物の上で死ぬはずだったんだって。きちんと寿命を全うして。だけど君を手に入れたいと願う者達が君の寿命の糸を切ってしまったために君は死んでしまった。それでね、俺が連れてこられたんだ。君が無事に成長して、きちんと寿命を全うして死ねるまで見守る騎士として。ここまではわかるかな?」
えーと?つまり私は闇の者に好かれすぎて…つか、愛されすぎて殺されたと?
しかも本来は畳の上で死ぬはずだったのに?
んで、フレイは私がきちんと寿命を迎えて死ぬまで守ってくれる存在…と。
おk、把握。
「うー。(わかった)」
腕の中でコクコクを首だけを動かすと嬉しそうにフレイ(首)は笑った。
おぉぅ…笑った顔もイケメン…。
「正直言うと、俺も君に惹かれている。真っ白な肌はふにふにとしてて柔らかく、ぷるんとした唇は薄いピンク色。髪は月の光のように銀色で、瞳は血のように紅い…。そんな君が成長したら、俺は理性を抑えることができるかどうか…」
ほぅ…っとため息を漏らし、頬をうっすらと赤く染め、私をガン見するフレイ。
「あ…あぅぅぁあああああああああああああん(変態だぁあああああああ)」
叫んだ途端涙腺が緩み、うぎゃぁあああああああと泣き出す私。
所詮赤子だもの…あんなショッキングな…というか、将来いただきますと宣言されたら誰だってビビるわ。
しかもフレイの情報だと私かなり高スペック?
肌は真っ白で髪は銀色。んで瞳は深紅…って、どこぞのゲームですか…。
まぁ、かなり美少女になること間違いなし…だな…うん。
「あぁ!ごめん!ほら、泣き止んで!?」
私が泣き出したことに焦ったのか、鎧はゆらゆらと私をあやす。
そしてフレイも何故か泣きそうだ。…解せぬ…。
オロオロと焦る鎧と首を交互に見つつ、泣きつかれた私(赤子)は眠気に負け、そのまま意識を失うかのように眠りについたのであった。…だって眠かったんだもん。
翌朝。
「うーぅ…(夢じゃなかったのねー…)」
目を覚ますと目の前にあるのは真っ白な胸板。
しかも腹筋は6つに割れてるし。
くぃっと首を上に上げると本来首があるべき場所にもちろん首は無い。
「おはよう、オボロ。よく寝たみたいだね?」
そして私の背中から超絶イケメンな声が聞こえた。
くりんっと真上に向かされ、ポンポンと軽くお腹を叩くフレイの体は私が寝る前に見た鎧姿ではなく、簡素なシャツに黒いズボンだ。
そして勿論フレイ(首)も頭の防具はとっていた。
サラサラの金の髪にアイスブルーの瞳、真っ白な肌…胴体に首をくっつけたら王子様じゃん…。
イケメンすぎて目がぁああああああああ!!
「もう少ししたらここから移動しようか。君の匂いは他の奴らまで呼び寄せるからね…俺の城に着けばなんとかなるから。」
城?城と言いましたかこの人?え?マジで王子様なのこのロリ…げふん。
私が悶々と考えている間に着々と鎧を着込み準備をするフレイ。
そしてひょぃっと私を持ち上げると私にかけていた布を器用に体に巻きつけ袋を作る。
その袋の中に私を入れて準備完了。
骨折したときにする三角巾みたいな感じといえばいいんだろうか…そして首はどうするんだろうと見ているとさも当たり前かのように胴体に首を乗せた。
「ぅー…(乗せられんのかぃ…)」
そんな私のつぶやきは聞こえなかったのか
「さ、行こうか」
とのんびりした口調でこれまた首のない馬に乗り込みました。
…傍から見るとかなり怖い絵面だなコレ。
こうして私はデュラハンのフレイに連れられて彼の城に行くことになりました。
(これって、保護という名の強制連行…。ま…いっか…)




