そして再び、あなたの落としたものは・・・・・・。
「泉の女神は、この世界に必要なものがある場所に泉を出現させます。泉に落とした物と同等以上に落とし主に価値のあるものをちらつかせ、選択という試練を与えます」
ちらつかせって、あーた。
仮にも女神様に……。
確か、欲望に打ち勝つ清廉かつ正直な心を持つ人が幸せになれる話よね?
「つまり、松谷さんにとって私より宝くじの方が価値があったということ?」
「マツタニ……タカラクジ……?」
「いいの、いいの。それで私はどうしたら帰れるのかな」
微妙な空気が流れる。
「分かりません。とりあえず明日、女神の神殿にご案内しましょう」
◆ ◆ ◆
そうして翌日、女神の神殿に赴いた私は、驚愕の事実を知らされる。
女神の神殿の神官は、私の存在にまず驚いた。
「女神が人間を召喚されたというのですか……!!」
信じられないものを見る目でじろじろと見るのはやめてくれるかな。
「……この世界には魔法があります。ですが、それは何もないところから作り出すものではないのです。この世界にはない金属、『れああーす』を核として作り出すのです。最近の女神様は主に異世界からこれらを召喚して下さるのですが」
そう言って神官は私の身体に触れるか触れないかの距離で手をかざした。
ぽわんと腰の位置から熱を感じる。
「そのポケットには何が?」
「え? 携帯電話……ぐらいしか入ってないけど」
水没して使い物にならなくなった携帯電話がひとつ、ポケットに入っていた。
かばんも何もかもあちらの世界に置いてきてしまったようだ。
「これはまさしく『れああーす』! おそらく、これを召喚なさろうとして、あなたも一緒に落ちてしまわれたのでしょう」
なんとっ!!
「あなたを必要とする人が現れたら女神がひっぱり上げて下さるでしょう」
神官が厳かに言った。とどのつまり、『れああーす』を落っことした人にとって私が『価値あり』なら帰れるってこと??
「まあ、のんびりお待ちなさい」
「よかったな」
「よかったですわね」
うん、まあ。帰れるかもしれないってことだけはね。
私の為に女神の泉に携帯電話を落っことしてくれる人がいればの話なんだけど。
他に行くところもないので、ユーリア達の家にそのまま御厄介になることにした。
帰り道、女神の泉のそばを通ると、携帯電話がぷかぷか浮いているではないか。
それを女神の神殿に勤める巫女が嬉々として拾っている。
なんといって良いのやら……。
◆ ◆ ◆
地球でも日本でもないとある異世界。
レグランドと呼んでいる鉱物が豊富に採掘される豊かな国があった。
レグランドは、『れああーす』と組成がとてもよく似ていているが、その使い方はおそらく地球とは違っていた。使い物にならないとまでは言わないが、その価値はレアではない。
女神クレーネの治める世界とは似ているものの、次元が違う世界。
採掘を生業としている男は、嫁を欲しがっていた。
できれば黒髪でつぶらな瞳の可愛い娘。
カツンと鶴嘴の先に固いものが当たったので、掘り返してみるとレグランドだった。
「なんだ、レグランドか……。ついてねぇ」
男がレグランドをポイっと後ろに投げ捨てた。
その男の後ろの地面に黒い染みが広がり、こぽりと泉が湧き出した。
まるであ~んと口を開くように放物線を描いて落ちてくるレグランドを、その泉は飲み込んだ。
「そこの男。あなたが落としたのはこの鉱石ですか? それとも黒髪のこの女性ですか?」
巨大な異世界の女神が泉から浮き出し、両手にそれぞれ鉱石と黒髪の女性を掴んでいる。
黒髪の女は男の理想のつぶらな黒い瞳をしている。
じたばたと手足を揺らしているのは、高いところを怖がっているのか。
男はゴクリと生唾を飲んで、渇いたのどを潤すと口を開いた――。