これはあなたの夢ではありませんよ。
連れて行かれたのは、美形兄妹の家。
てくてくと物珍しい植物や空を飛ぶ動物をキョロキョロ観察しながら歩くことしばらく。
産業革命時代のヨーロッパのような若干古くさい都会ちっくな街に着いた。
石畳を歩く人、ふわふわ飛ぶ人……皆好き勝手に往来している。
二人は細長い石造りの建物のひとつに入っていった。
こじんまりとした三階建ての家は、一階がリビングの様になっていて、勧められたソファーに遠慮なく寛がせて貰うことにした。
「まず始めにあなたの名前を聞いてもいいかな」
美形兄さんが正面に座り、威圧感アリアリで長い脚を組んだ。
美形妹の天使様は、左側のソファーに座っている。
血の繋がった兄妹にしかみえない容姿だけど、その印象は真逆。太陽と月。魔王と天使。
「水城ほのか、20歳です」
ジロジロと頭の先から足の先までを見られてやな感じ。
ファンタジーノベルのテンプレなら、この後私は、お妃を探している王様に気に入られて、いやん♪な展開か逆ハーレムが待っている!?
それともこの世界を救って欲しいとか言われるのかしら~!!
えへへへ……。
夢ならなんでもこいなのよ。
逆ハーか……ちょっと楽しみ。
「ほのか……話を続けていいかな」
はっ!!
ジュルッとよだれを拭いて、アホ面を引き締めた。
「君が落ちてきたこの世界は、泉の女神が支配する世界クレーネ。私はデルタ、こちらはユーリア。ほのかがユーリアと最初に会った場所が、泉の女神の神殿です」
ああ、あの巨大な女神様ね。そういえば、近くに大きな白い建物があったっけ?
「女神クレーネはこの世界に恵みを与えてくださる存在です。大昔、異世界から鉄で出来た道具を持ち帰られました。そしてこの世界は発展し豊かになったのです」
ほうほう、それはあの木こりの鉄の斧のことかな。
魔法があればそんな道具要らないんじゃないかなぁ。それに金の方が価値があるでしょ?
女神様絶対損してると思うんだけど。
デルタは一転痛ましいものを見る目で私を見た。
「これまではこの世界に恵みをもたらすようなモノばかりを持ち帰っておられました。人間を持ち帰られるなど前代未聞の事態です。あなたが元の世界に戻れるかどうかは……前例がないので分かりません」
「大丈夫よ。夢から覚めたらちょちょいのチョイよ」
きっと酔っぱらって、そこら辺で寝ちゃってるんだわ。
彼にお持ち帰りされていたりして。それだけがちょっと心配だけど。
「……残念ですが、これはあなたの夢ではありませんよ」
お綺麗な顔が真っ直ぐこちらを見て、ニッコリと笑っている。思考が読めない微笑みだった。
ユーリアちゃんを見ても同じ。
もっと残酷な言葉も用意しているけれど、言うのを遠慮しているような。
ぎゅっと自分のほっぺをつねってみた。
「イタタタ……!!」
夢じゃない……それでも私はまだ、往生際悪く信じられずにいた。