今度の落とし物はあなたですか。
ガボッ、ガボガボッ……。
し……死ぬ。
「苦しい~!! 死ぬ~」
首を両手で掴んで、じたばたと暴れる。
私はアイツのせいで、池で溺れ死んでしまうのか!!
絶対化けて出てやる。呪ってやる~!!
……死ぬ直前ってこんなもの?
意識も遠くならないし、痛くも痒くも寒くも暑くもない。
「大丈夫ですか?」
そうそう、あの世ってこんな風に具合を聞いてくれる天使様がいるんだね。
「はあ、別に何ともないですけど。え~と、ここは天国? それともうちは仏教徒だし三途の川ってやつ?」
目の前にはストロベリーブロンドの髪が波打つ美少女が微笑んでちょこんと座っていた。
私といえば草の上に寝転んで、自分の首を締め付けていた。
傍には澄んでいて底まで見えそうな湖。どこまでも青く澄みきった青空。
宙に浮かんだ島から豊かに水が流れ落ちて、湖に注がれ、水飛沫が上がりいくつも虹がかかっている……。
島が浮かんでいる~!!?
「やっぱり私、死んじゃったんだ! 化けて出てやろうと思ったのに、日頃の行いが良いせいで、成仏しちゃったのね!!」
「あの……」
目の前の天使が困ったように微笑んだ。
「私が見る限り、貴女は死んでいらっしゃらないみたいですけど」
◆◆◆
飛ぶはずのない鶏がバッサバッサと飛んでいる。鶏冠や鋭い目付き、凶暴な爪は私の知っている鶏だ。でもその翼は大きく、真っ黄色の鶏なんて私は知らない。
現状に理解が追い付かず、おろおろしていたところ、件の天使様が家に招待してくれた。
他にどうしようもないので、天使様に付いて行く事にした。
死んでもおらず、元いた場所でも無いとすれば、ここはドコ?
まさか、異世界……。
いやいや、それは無いでしょう。ファンタジーノベルの読みすぎだよ。うん。
きっと夢を見てるだけ。
目覚めれば、池から助けられて病院のベッドの上で目覚めるんだよ。
うん、きっとそう。
だからキテレツな鶏も、箒に跨がった人間が宙に浮かんで飛んでても、島が浮かんでても、太陽が2つあっても……夢の中ならおかしくない。
空を飛んでいた箒がすいっとコチラに向かって降下してきた。
天使様と同じ色の髪を無造作に後ろで束ねた美形の男性が直ぐ傍に降り立った。
そうそう、同じ夢の中なら美形のヒーローが必要不可欠だよね♪
「あ、お兄様」
天使様が小さく声をあげた。
美形の男性は紺色のマントをひらめかせながら、つかつかと歩み寄ってきた。その顔は少し顰めっ面をしている。
「……ユーリア、何を拾ってきた」
「女の子ですのよ」
「……元の場所に戻してこい」
「嫌ですわ。無理だってお分かりのくせに」
美形の男性は、お腹の底から大きくため息を吐いて、初めて目を合わせてきた。
とろりとした蜂蜜色の瞳が私を見据える。
「今度の落とし物はあなたですか」
「どういう事?」
「仕方がない……説明して差し上げますからおいでなさい」
言われなくても付いていきますよ。夢の中なら怖いもの無しですからね。
っていうか、さっきの捨て猫を拾ってきたみたいな会話、聞き捨てならないんですけど!!
ナマモノがどうとかブツブツ呟いている美形の後ろを付いていく。
どうせ夢なら恋が芽生えるような素敵な出会いだったらいいのに……。