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転生したら少女退魔師になった  作者: †九葉† 瑠璃
第一章 ―― 出会い ――
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第四話 逃走劇 Ⅱ

 この表の世界に留まろうとする力が働いたのを感じた次の瞬間、誰一人存在しない、悪魔の創りだす裏の世界へと移ったのが判った。

 いや、違う――。


「ぐっ……!」


 首へ向かって飛び掛ってきた狼男の大きな口を、左腕で押しとどめる。

 こいつらが当然のように結界へ入ってきたのは仕方ないとして――


(――どうしてあのタクシーが!)


『(変だな……)』


 タクシーは何事もなかったかのようにこの裏世界へと入り込んでいた。

 五匹の狼が、タクシーを追いかけ始めたのが見える。

 他の狼は、私達を見失って此処へは来ていないようだ。


『(表と裏、両方に存在が重なっている。こんなこと起こるはず……)』


「ぐあぁぁぁ!」


 しかし、激痛によってすぐに意識は左腕へと戻った。

 より人間から狼らしい顔に変化した狼男が、頭を振るようにして牙を食い込ませていく。


『(どうする、剣を出すか?)』


(い、いい)


 右手も足に抑えられている。

 剣を持った所で無駄だろう。

 自分より体重の有る狼男を押しのけることも難しい。


「ね、ねぇ……」


 当然、私の左腕を噛んでいる狼男は何も答えないが、その尖り始めた耳がピクピクしたところを見るに聞こえては居るのだろう。


「もし、私を殺したら、貴方も困るんじゃ、ない、の?」


 激痛に耐えながら、歯を食いしばって何とか言い切る。

 MASDとどんな話になっているのかわからないが、私がMASDに追われる立場だと言うのは知らないはずだ。

 MASDと条約があると言う狼男の話が本当であるかは分からないが、本当であれ嘘であれ、これに対する反応である程度の情報は得られる。


 ゆっくりと腕から口を離した狼男――いや、既に巨大な狼と言ってもいい――が、その私の血にまみれた牙を見せつけながら口を開いた。


「次ハ、ソノ細イ喉笛ヲ、噛ミ千切ッテヤロウカ?」


 答えはNO。

 つまりあの話は嘘か、もしくは一人退魔師を殺した所で大したことではないという事か。

 嘘では無いとしたら、MASDよりも化け物優位な条約なのかもしれない。


「……わ、私はあの少年を逃せたから、もう満足よ。お、大人しく、さっきの所まで……つ、付いて行くから」


 ――殺さないで。


 怯えたふりをして、言う。

 痛みで滲んだ涙、屈辱に震えた声――ある意味迫真の演技に見えた筈だ。


『お、おい?』


(黙ってて)


 口を開きかけた悪魔を黙らせる。

 当然、こいつらに好きなようにされるつもりはない。


「ホウ……――顔を真赤にして。面白い、楽しませてくれるのだろうな?」


 一瞬にして人寄りの姿に戻った狼男が、ニヤニヤしながら私の首元を舐める。

 体の表面に薄く張った結界が私の意思に呼応し防いだので何も感じないが、気持ち悪いが――、


「顔が真っ赤なのは怒りのせいだ!」


 と言ったら台無しなので、黙って頷いておく。


 無言でグイッと引っ張られ、立ち上がる。

 ひたすら大人しく気配を消して狼男に手を引かれながら付いていった。









 私は美少女だ、それも凄く。

 ――なんて言ったら、ドン引きされるだろうか。


 三年前に前世の記憶が蘇る以前は、そこそこ告白もされるし多少人よりも見栄えがいいんだろう……と思うぐらいだった。

 だが、前世を思い出せる今は違う。

 完全な男の視点で、この体を評価できる。


 もう少し成長したならば、誰もが見惚れる美女になっていただろう。

 残念ながら悪魔と契約した時点で肉体の成長は止まってしまったが……しかし、言っても一八の頃だ。

 悪魔のせいか、ただ成長が遅かったのか、母も小さかったから遺伝か――ちょっと背は小さいが、十分魅力的だと思う。


 流石に自分に興奮する程変態では無いが、男だった頃の記憶を取り戻し、どちらかと言うとその意識の方が強くなっていた時でも、人前ではこの体に合った言動を心がけては居た。

 そうするとスムーズに事が運ぶのは経験でわかっていたからだ。


 そうしている内に気づいたら自分が僕なのか私なのか、その境目は曖昧になっていった。


 いつからだろうか、悪魔に対しても、内心ですらも、自分のことを私と言うようになったのは。

 そして、今では自分の意識が前世の男なのか、生まれてきてから続いている女なのか、分からなくなっていた。


 前世の記憶は有る、だが私は彼と同一人物だろうか?

 過去の記憶はある、だが私は彼女と同一人物だろうか?


 いつの間にか自分のことを私と言うことが自然になったのは、一八年間普通に女の子として生きてきた実感もあるからだろう。

 だが一八年間、無意識ながらに前世の自分が影響を与えていたことも事実だった。


 男に告白されると気持ち悪いし、どちらかと言うと可愛い女の子が好き。

 それで悩んだこともあったが、今はそれが当然とも感じている。


 中途半端だ。


 いや正直に言おう、男ではない。

 が、かと言って女だと言い切れる自信はない。


『前世は知らんが、俺から見るにお前はただのレズな女子おなごだろう』――と言ったのは悪魔だったか。


 そうなのだろうか?

 よく分からない。

 自分がどちらになりたいのかも、分かっていない。


 内面、つまり魂に体は影響を受ける、という話は聞いたことが有るはずだ。

 魂が輝いている人は、見た目もよく見える。

 性根の悪い、悪さをする人間は、見た目からして暗い。

 勿論例外は多く有るが、それが一般的に言われるということはある程度には関係しているんじゃないだろうか。


 それとは逆に、体に魂が引きずられると言う話も聞く。

 小説、特に転生物やその中でもTS――性転換《TransSexual》物で見かけることが数多くある気がする。

 つまり、幼児の体になったから精神もそれにつられたよ。

 私の場合、女の子の体になったので精神も女の子の方になったよ――と言った所か。

 大抵は読者に与える物語の主人公に対する違和感への言い訳に使われる(失礼)事が多いと思う。


 それが、物語の王道、ベタな展開として成功している、いないはともかく、つまり話を戻すと、元が男なのだから意識すれば猫を被るくらい訳ないということだ。

 そんでもって、男を手玉に取り、自分の都合のいいように動かすのだ。

 大いに自分の尊厳が傷つけられるが、出来るはずだ。


 ええっと、つまり、何が言いたいかというと……。


「おい、何意識を飛ばしている。無駄だぞ、お前が楽しませてくれるのだろう?」


 グイッと肩を下げられ、お尻が床についた。

 女の座りとかぺったんこ座りとか言われる体勢だ。

 現実逃避している内に、いつの間にかビルへ着いていたようだ。


 恐る恐る目を開けると、狼男の腰辺りが目に入る。

 良かった……狼の姿が大きかったから千切れ飛んでるかと思ったけど、ちゃんとズボンを穿いてる。


『(で、どうするつもりだ?)』


(今考えてるからちょっと黙ってて!)


 考えないといけない。

 どうやってこの狼男を手玉に取って、無事に帰るか。


 取り敢えず顔をあげて、上目遣い気味に(うぇっ)狼男を見る。

 ニヤニヤした顔が目に入った。


「まずは口で、だな」


 狼男が嬉しそうに言う。

 想像しかけて……私にこの男を手玉に取るのは無理だと悟った。

 マズハクチデ? なんですか、それ?

 ちょっと成人前の私には意味がわかりません。

 精神的には三年を足して二十一歳で普通に超えてる――どころか、前世も合わせればその倍は行くが、そんなことは関係ない。

 私はまだまだ乙女だ!

 さっき悩んでいたことなんて忘れて、私は内心そう叫んだ。


(ねえ、さっきの結界なんていうの?)


『(結界? ああ、名前なんて無い。まだ結界は張っているが狼男はここにいる、期待するだけ無駄だぞ)』


(そう。じゃあ、反転って言ったら、表に戻して。狼は結界の中に残したままで)


『(何?)』


「どうした、早くしろ」


 狼男に促され、私は座り込んだ体勢から、膝をつくようにして――膝立ちの姿勢で、狼男の腹へ抱きつくようにする。

 できるだけ、近づいていた方が都合がいい。

 それに多少押してもこの狼男はびくともしないだろうから、スタートダッシュになる。


「お、おい……」


 少し狼狽えたような――ちょうど狼と言う文字が入っていてちょっと面白い――声が上から聞こえるが、無視して口を開いた。


「ふぁんてん!」


 ちょっと押しつぶされて間抜けな声になったが、悪魔は当然のように私のしたいことを理解してくれた。


 目の前の壁が消え、体が急に前に出る。

 その勢いを殺さずに、立てておいた足首を上手く使って一目散に走り始めた。


「待てっ!」


 少し遅れて、慌てて狼が結界を越えてくる。

 その時には既に、私の体はビルの奥にあった階段を駆け上り始めていたのだった。

何となく二回更新

書いてて気持ち悪く思えてきた……(笑)


散々気持ち悪いと思いながらも抱きつけるのは元男だからなのかな

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