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転生したら少女退魔師になった  作者: †九葉† 瑠璃
第一章 ―― 出会い ――
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第四話 逃走劇 Ⅰ

 私は走りながらどうやってこの少年を逃すかを考えていた。


 車で逃げるとしたらその辺を走っている車か、タクシーが一番だ。

 来る時間が決まっていて、更に進む道も決まっているバスでは先回りされる可能性もある。

 時間さえ合えば電車と言う手もあるし、タクシーも確実に捕まえられる駅前に行くのが一番だが……人が多い。


(最大範囲で人払いをしたいんだけど……どう思う?)


 なるべく人が通らなそうで、且つ四足歩行動物が苦手そうな道を選びジグザグに北へ――上那ウエダ駅へと向かいながら悪魔に問う。

 大体の地理は把握しているが、夜ビルの上から見た程度では一番最適な逃走経路とは言えないだろう。

 追いつかれはしていないが、振りきれても居ない。


『(確実にMASDに捕捉されるぞ)』


(今更でしょう)


 あの狼男の言う通りなら、掟を破った退魔師が居る事は速攻でバレる筈だ。

 最後に奴らとやりあった地点も考えると、私がこの街へ来たことは容易に導き出せるだろう。


『(今からこの街を立ち去れば――)』


(暫くはこの街に潜伏するつもりよ)


『(――何?)』


 この街は明らかに不自然だ、出来れば調査したい。


(それよりも、この街の規模で人払いをした時の影響が聞きたいの)


 もし人払いの結界が現実に影響を及ぼすなら、この街の大きさで広い範囲に人払いをしては大混乱を起こすだろう。

 いや、人が不自然に減るのだから、影響が出ない筈がないか。


『(そうだな……ある程度の不都合はコスモゴニアによって解決されるだろうが、流石にこの規模となると予測が付かん)』


(コスモゴニア?)


『(そう言えば、その話はしていなかったな)』


 そう言って悪魔はコスモゴニアについて説明し始めた。

 云わく――MASDの奴らが創ったと主張している、神話時代の神術で、神の秩序とも呼ばれるらしい。

 詳しい理屈も、その術の発動地点も、維持し続けている方法も一切不明。

 ただ、全ての術による影響を限界は有るとはいえある程度吸収、修復してくれる巨大な術とだけ思っていればいいらしい。

 効果が存在しているのは確かだが、それが本当に術なのか、世界という存在が持つ力なのかまでは誰も知らない


(そんな物が……)


『(その話はもういいだろう。俺の結界を使うか?)』


(悪魔が結界?)


 そんなものが使えるとは初耳だけど。


『(結界とは少し違うな……言わば裏の世界だ。まぁ、ある程度"力"を操るものなら好き勝手出入りできる程度の物だが、唯の人間ならば入ってこれない)』


(で? それを使って、どうやってこの少年を逃すのかしら?)


 人が居ない状態で、車や電車は動かない。


『(おお、それは考えていなかった)』


(使えない……)


 本当に使えない悪魔だ。

 頭はいいが、何処か抜けてる。


 そうこうしている内に、駅前へと着いてしまった。

 運良く目の前にタクシーが停まっている。

 空いているドアに、少年を押し込んだ。


「ここまで来れば帰れるわよね?」


「え……あ、うん」


 鈍い反応にイライラするが、次の発言でそれは更に高められることとなった。


「ぼ、僕お金持ってない……」


「はぁ?」


 イライラはするがしかし、カバンも持っていないようだし、ちょっと散歩していた程度ならば財布を持っていないのも頷ける。

 巻き込んでしまったのは(彼が飛び込んで来たのだとはいえ)こっちだ。


『(彼の鞄ならあのビルの壁に置いてあったぞ)』


 興奮して思考が漏れていたのか、悪魔が補足する。


(なんで拾っておかないのよ!)


『(お前の影の範囲外だったからな……あの時は迅速に逃げる事こそ大事だった、そうだろう?)』


 なら教えてくれれば――と言う私の発言は、悪魔が先回りして潰した。

 こういう所が一々ムカつく!


(五千円出して!)


 この少年の家までタクシーがいくら位するのか分からないが、今持っている大きいのはそれだけだ。


『(ハイハイ、仰せのままに……)』


「あぁもうっ、私も残り少ないのに!」


 八つ当たりだと分かっていながらも、その手にグリグリと札を押し付ける。


「う、受け取れないよ! それに、なんで……。一緒に逃げよう、車に乗れば――」


 それが悪かったのか、少年が騒ぎ出す。

 確かに、此処で彼だけをタクシーへ乗せるのは変かもしれないが、できればもう少しの間呆けていて欲しかった。


「逃げ切れないわ。今ここで二手に別れた方が、どちらかが生き残れるかもしれない」


 もっともらしいことを言って誤魔化す。

 ここで議論している時間が無駄だ。


「な、ならタクシーに乗るのは君の方だ。女の子だし、お金だって君の物だし――」


「ぐっ――私、は……」


 思わぬ正論に、一瞬詰まる。


「話は終わったか?」


 残念なことに時間切れ。

 この少しのやり取りの間で追い付いてきたようだ。

 有無を言わせずにタクシーの奥へと行儀悪くも足で叩き込む。


「とにかく出してっ!!」


 少しだけ"力"を込めて、運転手に言う。

 いわゆる言霊や洗脳、催眠術の類だ。

 ただ力を込めるだけだから何の技量も必要ない代わりに、只の人間に対して使っても無効化されやすいが、状況も手伝って上手く効いたようだ。


 慌てて走りだしたのを見ながら、悪魔に言う。


(結界を)


『(了解)』


次は戦い……ません!

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