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転生したら少女退魔師になった  作者: †九葉† 瑠璃
第一章 ―― 出会い ――
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第三話 ボーイ・ミーツ――……Ⅱ 【蓮視点】

続きだったのに熱出て更新中断……ごめんなさい

転回(Uターン)してください! 助けないと!」


 僕は運転席のヘッドレスト(枕の部分)を拳で叩き、そう喚いた。

 今引き返し、車で狼男に突っ込めば或いは……と思ったからだ。


「ば、馬鹿言ってんじゃねぇ」


 だが、外部後写鏡ドアミラーで彼女が襲われているのを見て居た筈の運転手は、頑なに前を向いて車を走らせ続ける。

 人が襲われているというのに、一目散に逃げるなんて!


「ならここで僕を降ろしてください!」


「し、死にたいのか坊主! それに今車をと、停められるか!」


 硬い顔をした運転手が、ちらりと室内後写鏡ルームミラーを見た。

 目線は合わなかったから、僕を見ているのではない。


 体ごと首を回して後ろを見る。

 五匹の狼が、走ってタクシーを追いかけてきていた。

 確かに、これでは停めて降ろしてもらう事も出来ないだろう。


「今の速度は?」


「六十キロ限界だよ!」


 こんな時でもキッチリ法定速度を守る運転手にも呆れるが、それに余裕で追いつく狼も凄い。

 追跡型の狩りをする狼は、三十キロくらいならばずっと追い続ける事ができる――と言うような話を聞いたことは有るが、優に時速七十キロ近くは出ているだろう。

 あっという間に車の周りを囲まれるが、流石に手は出してこないようだ。


 幸いにも信号に恵まれ、不思議なことに他に車が一台も通っていなかったため、駅近くにある高速道路の入り口までは一度も止まること無く行けた。


 ETCの恩恵によって車を止めること無く料金所を通過できるが、当然速度は落とさなくてはいけない。

 こんな時までキッチリ速度を守る運転手が時速二十キロ程度に速度を落とした瞬間、狼の強力な足が、ドアを引き裂いた。


「ひぃ――!」


 しかし穴は開くものの流石に破壊までは至らず、運転手が情けない声をあげながらバーが上がった瞬間アクセルを踏み込む。

 標識通りキッチリ四十キロなのは流石だ、この状況下でここまで徹底してると、呆れを通り越して逆に感心する。

 心配していたが、幸い高速道路にも車が一台も走っていない。

 いや、流石に変じゃないだろうか。

 グングンと速度を上げ、ついには時速百キロになった車には流石に追いつけ無かったのか、その姿は段々と離れていき見えなくなった。


「な、何だったんだ……」


 運転手さんが緊張していた体を解しながらそう言ったが、僕は何も答えることが出来なかった。


 暫く走っている内にようやく落ち着いた。

 考えなきゃいけない事はいくつか有るが、お金に限りがある以上取り敢えずはタクシーから降りなければいけない。


「すいません、取り敢えず、五千円で行ける所まで行ってください」


「……金はいい、慌ててメーター回してないしな。家は何処だ?」


「でも」


「これでも嬢ちゃんのこと、悪かったと思ってんだ……」


 確かに、僕は乗りたくて乗ったわけでも無いのだから払う必要もないのかもしれない。

 気分的には気持ち悪いが、五千円でどこまで行けるか分からないし、高速の途中で停められても困る。

 ――家まで送ってもらえば払えるという事に思い至ったのは、少し後の話だ。


「じゃあ、すみませんがお願いします」


 住所を告げ、お言葉に甘えることにした。


「これから、どうするつもりだ?」


「僕は…………」


 どうするのが一番いいのだろうか。

 本当は今直ぐあの子を助けたいが、戻った所で無駄死するだけだろう。

 今も風が入り込んでくる車の傷を見れば、そのくらいは判る。

 大人数の警察を呼べば、どうにかなるだろうか。

 拳銃の弾ごときであの数の狼を何とか出来るとも思えないが……――。


 グルグルと考え続けていた。

 嘘の脅迫で警察をだとか、自衛隊を呼べれば、とか。

 結局、何も思いつかない。


 男子高校生一人でできることなんて、凄く限られている。

 ――僕は、無力だ。

 せめて、彼女の死体が発見されたら、馬鹿にされてでも、テレビの前で、真相を話そう。

 それが無念を晴らす、唯一の方法だ。


「いや、未だ死んだとは限らない……いや、そんな事は」


 思考がまとまらない。


 あの狼男に攫われ、どこかに監禁でもされていれば。

 いや、腕を食いちぎられててもいい、生きてさえいてくれれば。


 そして、僕だけが逃げたことを謝りたい。

 自分のこの辛さを和らげるために。

 僕は――最低な、人間だ。


「警察に話したら、信じてもらえると思いますか?」


 頭のなかの混沌と関係なく、僕の口は真っ当なことを喋っていた。


「狼に襲われたでは会社に説明がつかんから、俺は嘘でも事故にするしかねぇ。だから坊主の証言を助けることは出来ねぇぞ」


「でも……」


「あの女の子はもう助けられねぇ、今日のことは忘れた方が良い。俺だって今もこの車に傷が付いてなければ夢だったと思うくらいだ」


「…………」


「少女一人が行方不明……そのくらい、この街じゃありふれてる。こうして真実は闇の中ってことだ。迂闊に喋れば、坊主もどうなるか分からんぞ」


 そうか、たしかに変だ。

 万引き、行方不明、殺人……日本において、これ程治安の悪い街はない。

 そして、この街は大都会だから犯罪が多いのではなく、あいつらによる仕業だとしたら?

 流石にあれだけ目立ちながらこの大きい街で防犯カメラに一件も写ってないなんて事はありえないし、この爪痕もそこらに残ってる筈だ。

 運転手やあの少女が僕と同じように"視える"人で無ければ、奴らが襲っている時は普通の人にも見えているらしい。

 ならば、流石に誰も気づいていないなんて事は無いはずだ。

 それが表に出ていないという事は未だ調査中で、詳しいことが判るまで国家秘密の様な扱いになっているのかもしれない。

 少々……いや、かなり飛躍し過ぎかもしれないが、少なくともあの狼男に探された時見つかるリスクが上がる以上、誰かに言うのは危険か。


「着いたぞ」


 考えこんでいるうちに家についていた。


「まぁなんだ。今日は早めに寝た方がいい」


 そう言われたが、その日僕は結局一睡もできなかった。

 あの女の子のこと、化け物のこと、これから……それらを考えていたからというのも有るが――


「あ、カバン。……どうしよう」


 カバンを置いてきてしまったことに気づいたからというのも大きいだろう。

五千円だと12キロくらい走るので、多分家まで余裕です

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