表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら少女退魔師になった  作者: †九葉† 瑠璃
第一章 ―― 出会い ――
6/34

第三話 ボーイ・ミーツ――……Ⅰ 【蓮視点】

視点変えです

 僕――東城 蓮がそれを見たのは、数少ない友達と一緒にカラオケに行った帰り道だった。


 二学期も今日で終わり、明日からは冬休み。

 午前だけで学校が終わった僕らは、無事に二学期が終わった事を出しに夜八時まで歌い続けた。

 その後皆でファミレスに寄り夕飯を食べ、結局解散したのは夜の九時。

 高校生にもなって……と思われるかもしれないが、こんな夜遅くまで遊んだのは初めてだった。

 いくら明かりの絶えないと言されるこの街でも、流石に住宅街は暗い。


 急に寒気がして、手をこすり合わせる。

 冬だから寒いのはおかしくないのだが、これはそういうのじゃない。

 この感覚があった時は、いつも幽霊を視るのだ。


 僕には霊感がある。


 友達に言うと大抵馬鹿にされるのだが、嘘ではない。

 何となく左に違和感を感じ、足が止まった。


「なっ……」


 大型犬のような何かが、目の前を左から右に横切った。


 散歩かと思ったが、飼い主も居ない。

 それに何より、目に入ると強烈な違和感を覚えるのだ。


 これは、絶対におかしい。


 いつもボンヤリと視える幽霊とは別格の、妖怪か何かかもしれない。


「付けてみるか」


 唯の好奇心でこの判断を下した時には、あんな大事になるとは思っていなかった。



  第三話 ボーイ・ミーツ――…… 【蓮視点】



 飼い慣らされた犬と言うのは、存外後ろがお留守なものだが、流石に狼ともなるとこちらに気づいているようだ。

 狼と言っても、幽霊やら妖怪やらの類だが……。

 だけど襲ってくる様子もないし、今まで幽霊に何かされた覚えもない。

 距離もそこそこ離れて追っているし、危なそうだったら直ぐに逃げればいいだろう。

 そう思って、追跡は止めなかった。


 因みに唯の狼ではないことは確定している。

 人通りのある道を通っても、誰も気にしないどころか気づいてすら居ないようだからだ。


 時折フラリと横道に逸れる狼を何とか追っていたら、着いた先は如何にもな感じの半壊状態のビルだった。


 この時点ではまだ僕は、この非日常にワクワクしていたんだと思う。


 こっそりと、中を伺う。


「狼男……と、女の子?」


 中には狼男が居た。

 やはり、幽霊というよりは化け物だったようだ。

 今日は満月だから、そういうことも有るだろう。

 だが、そんな事よりも気になるのは、その場に女の子が居た事だった。



 何やら女の子と狼男が話しているようだが、何を言っているのかまでは聞こえない。

 だが、女の子の反応から何となく予想がついた。


 月明かりのせいかもしれないが、顔色は真っ青で、体もガタガタと震えている。

 食べてやる、とでも言われているのかもしれない。


「た、助けなきゃ……」


 喉が掠れていた。

 自分では冷静なつもりだが、唾も出ない程緊張していたようだ。


 周りを見渡す。

 武器になりそうな物はなかった。

 仕方なく――砕いた後だろうか、コンクリート片を手に持つ。

 邪魔になったカバンは、壁に立て掛けておいた。


 コンクリートを持つ手が震える。

 狼男に当たらなかったらどうしよう。

 女の子に当たったらどうしよう。

 いや、きっと当たらない。

 だって、こんなにも手が震えているのだから。


 狼男がゆっくりと女の子へと近づいて、後ろから抱きついた。

 そのまま首に齧り付くのかと思ったが、どうも違うらしい。


 狼男の腰が、女の子のお尻に押し付けられている。

 女の子は今にも泣き出しそうな表情だ。

 何をしようとしているのか分かった瞬間、僕は既にコンクリートを投げていた。


 コッと、期待したよりも軽い音が響く。

 全くダメージにはなっていないようだが、狼男はこっちを向いた。

 こっそり逃げる、と言う手は選択肢から無くなった。


「そ、その女の子から離れろ化け物!!」


 入り口から飛び込み、いつでもコンクリートを投げられるようにする。


「殺れ――」


 狼男が軽く唸る様に何かを言うと、暗闇に紛れていた狼達が姿を表した。

 二匹、こちらへ向かってくる。


 追いかけていた狼こそが、狼男なのだと思っていた。

 まさか、群れだったとは。


 どうしよう、どうしようと思うばかりで、何も考えられなくなる。

 コンクリートを投げたくらいで何とかなるだなんて思っていたのが、酷く馬鹿な事に思えた。

 固まっている僕の目の前で、狼が横に吹っ飛んで視界から消える。


「えっ……」


 僅かに一回瞬きしたその瞬間には、一瞬にして距離を詰めてきた女の子に右手を握られ、夜の街を走って逃げていた。






 どのくらい走っただろうか。

 細い道も、足場が悪い道も、とにかく走った。

 とても狼から逃げ切れるとは思わなかったが、女の子の誘導は完璧だった。


 横を向いてようやく通れるような場所、手を使えないと入れないような場所。

 そう言う所を一瞬で見つけて、スルリと体を潜り込ませる。

 直線はいつも四足歩行動物が苦手だと言われる下り。

 まるで、この辺りを熟知しているかのようだ。


 ふと、目の前が開ける……。

 何処をどう走ったのか、気づいたら駅前まで出ていたようだ。


 ちょうど止まっていたタクシーに、強引に押し込められた。


「ここまで来れば帰れるわよね?」


「え……あ、うん」


 唐突過ぎてついていけない。

 が、タクシーで逃げるんだと言うことは判った……だか――


「ぼ、僕お金持ってない……」


「はぁ?」


 仕方ないのだ。

 カラオケに食事、全部自分の財布からお金を出せば無くなるのは自明だろう。

 いくら緊急事態だからって、タクシーの無賃乗車は出来ない。


「あぁもうっ、私も残り少ないのに!」


 頭を抱えた女の子がいつの間にか財布を取り出し、五千円札を僕の手に押し付けた。

 そこで初めて、彼女を正面から見た。


 凄い美少女だ、輝いてすら見える。

 背が小さいから年下だと思ったが、その意志の強そうな瞳を見て悟った。

 僕以上にしっかりしている人なのだろう、と。

 それと同時に、こんな可愛い女の子、守りたい……とも思った。


 脇道にそれていたが、ようやく頭の理解が追いついてきた。

 彼女は一緒に来ないつもりだ。


「う、受け取れないよ! それに、なんで……。一緒に逃げよう、車に乗れば――」


「逃げ切れないわ。今ここで二手に別れた方が、どちらかが生き残れるかもしれない」


 そうだろうか?

 狼の姿は見えないから巻いたようだし、三十キロ程度の速度で車の速度に追いつくとは思えない。

 高速道路にでも乗ってしまえば――なんて、言い争ってる時間がもったいない。


「な、ならタクシーに乗るのは君の方だ。女の子だし、お金だって君の物だし――」


「ぐっ――私、は……」


 彼女が言いよ淀む。


「話は終わったか?」


 突然の声。

 その方向へと僕が向く前に、彼女のスラリとした足が、僕を反対のドアまで蹴り飛ばした。


「とにかく出してっ!!」


 彼女のあまりの剣幕と状況の異常さに驚いたのか、タクシーが慌てて発進する。

 走り出した車から、狼男が女の子に躍り掛かるのが見えた。

 その僕の目の前で――無情にもドアは閉められたのだった。

多分もう少し視点変えたまま続けます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ