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第三話 正言と大群 Ⅰ

せいげん【正言】(道理にかなったことを言うこと。)

タイトルつけるのに悩んで辞書眺めて、今日初めて知りました。

ずっと せい“ごん” だとばかり……

因みに、 せいごん だと、誓言(言葉に出して誓うこと。)の読みになるそうです。成る程確かにそれっぽい。

そして、大群は たいぐん と読みます。ん、それは知ってるって?

せいげん たいぐん  ――少し似てるよねっ!(ぇ

「糞っ……スメラギめ、逃げやがった」


「皇〈オウ〉……と書いてスメラギか、まさか完成させているとはな。なぁ、九条?」


「…………」


 黙り込んだ九条は、もう抵抗する気がないようにみえる。


「しかし、2対1か……正々堂々一騎打ちを望むというのなら、受けて立つぞ?」


 師匠は自然体で立っているだけだが、凄いオーラだ。

 九条は白い服だというのに、汚れるのも厭わず、地面へと不貞腐れたように座り込む。


「ふん、ふざけるな。剣の姫神(ヒメガミ)とまで呼ばれた貴様に、ひ弱な術者であるこの私が勝てるわけ無いだろ」


「剣は持ってないが」


「お前昔は剣より拳が好きとか言ってたじゃねぇかっ!」


 思わずといった風に、九条が立ち上がってツッコミを入れた。忙しい人だ。

 だが、下手な剣を持つより師匠は素手のほうが強いのは、私も身を持って知っている。

 あれは理不尽を通り越して理解不能だと言って良い。

 何故剣を素手で弾けるのか、何故素手で剣を折れるのか、意味がわからない。


「ふん……まあそれはさておき。あのスメラギ――貴様ら神器を使ったな」


 師匠もそれは自覚してるのか、それほど九条との戦いに思う所はないのか話題を変えた。


 確か昔、師匠は一度だけ使った白銀の剣を神器と言っていた事がある。

 なんか凄く、それっぽいな、と思ったから覚えていた。

 その性能を直接目にすることはついぞ無かったが……

 悪魔曰く、百人の退魔師・大聖霊より価値があると言われている日本最強の――世界でも最強クラスの魔術的な武具らしい。


「さてな、俺は詳しく知らんが……あれだけの力だ、そういう事なんだろう」


 確かに、あれだけの魔力を扱うのは、それがいくら退魔師でも人を媒介にするのには無理がある。


 そもそもが、肉体があの魔力量に耐えられないのだ。

 内側から圧に負けて、文字通り破裂するのが精々だろう。

 高位の魔術師が全力で押さえ込めば、あるいは一時的には持つかもしれないが、その程度だ。


 それに、魔術に使う魔力が増えれば反動も指数関数的に増加していく。

 大魔術であればある程、誤差と呼べる量の魔力を多く使っただけでも、反動が想定より強くなるのだ。

 魔力節約のためにギリギリまで反動相殺の部分を削っている強い魔術では、少しの込める魔力のズレが、致命傷になりかねない。

 そして、それだけの細かい制御を、人間には意識しては出来ない。

 直感的、本能的にそれらをこなしてしまう人間も稀に生まれるらしいが、本当に稀な話だ。


 ただ、私は、師匠の気を制御する技術はそれに近いところがあると思っているが……


「盟約に対する重大な違反だぞ。九条家は私達と敵対する気なのか?」


「私達? ふっ……あはははははは! 御剣の姫の政治音痴にも困ったものだな。まさかまだ飛鳥家が味方だと思っているのか?」


「何?」


「何故、私と飛鳥家との婚約が未だ白紙になっていないと思っている。剣の名を冠する御剣家のくせに、弱腰すぎんだよ御剣。だから飛鳥にも愛想を尽かされる」


「飛鳥家までもが、戦争を望むというのか……」


「火遊びをして痛い目を見たからな、目が覚めたのだろう。それに、剣が争いを望まないなど、おかしな話だとは思わないか?

 皇であるスメラギは完成した。もう一つの王も、忌々しい事にあの事件が一応役に立って、もうじき完成するらしい。

 ここにお前の剣が加われば、この街どころか日本中の魔物を殲滅するのすら容易いと思わないか?

 私と一緒にMASDの真本部へと来い、御剣。昔の誼だ、私が色々と(・ ・ ・)面倒を見てやる」


 激昂するか、一笑に付すと思ったのに、師匠は少し考え込む。

 何となく……急にふと、師匠も変わったんじゃないかと思った。

 師匠らしくない、なんて言える程思い上がっては居なかったけど、二年という年月は師匠にとっても長かったのかもしれない。


「……そうなのかもしれないな。我々三家が力を得た今、今更魔物に対して引く意味なんて無いのかもしれない」


「し、師匠?」


 それでも、動揺は隠せなかった。

 言えた立場ではないとはいえ、ここで師匠に向こうへ付かれたら……

 師匠にとっては私を倒すことなんて、赤子の手をひねる様な物だろう。

 そもそも私は、正面からの戦いはそんなに強い訳ではない。


「――だがな、半十郎。」


 そう言って、安心しろとでも言うかのように、私を少しだけ、昔のような優しい眼差しで見て、


「私はお前のその物言いが……昔から大っ嫌いだったんだ!」


 師匠は九条を思いっきり蹴り飛ばした。


「えぇー……」


 靭やかに、鋭く振りぬかれた足。

 流石というか、そこに合わせて九条は反射的に一瞬でかなり強力な対物理障壁――対物結界を貼った。

 だが、恐ろしい事に結界は一瞬にして内部から構成をズタズタに破壊された挙句、粉々に砕け散り。フルスイングしたバットのような音を立てて直撃した足によって、九条は後ろの壁へとたたきつけられた。


 魔術師は咄嗟に防御する時、対魔障壁と対物障壁を同時に張る事が多い。

 魔力か物理力か、どちらの攻撃かを一瞬で見分けることは殆どの場合不可能だからだ。

 そして、それがどんな威力かわからない以上、咄嗟に貼る障壁はどうしても強力な物を張るように訓練する。


 当然、強力な障壁を2つも貼るのだから、魔力消費も激しく、凄く効率が悪い。

 だから基本、魔術を軸に戦う退魔師は接近戦を好まない。

 反射的に障壁を張る訓練と、紙一重で躱すことすら有る接近戦は相性が悪いのだ。


 かと言って、魔術を軸に戦う退魔師は接近戦が出来ない訳ではない。

 寧ろ、魔力が多いという素質で魔術師という道を選ぶ事ができたのだから、並みの退魔師よりも強いのだ。

 しかし、一々反射的に障壁を貼っていては一瞬で魔力が尽きてしまう。

 だから――反射的に障壁を張る訓練をしてきた人たちを魔術師と呼ぶ、と言っても過言ではない。


 一瞬で対物結界のみを貼ってみせた九条は、かなりの訓練と実戦をこなし、確かな腕を持った魔術師なのだろう。

 例え高位の魔術師でも、障壁を使い分けるなんて多くの戦闘をこなしていなければ中々できることじゃない。


 しかし、師匠の放った蹴りは、物質化すらしかねない程の濃密な気を纏っている。

 もはや魔力弾を纏った蹴りとも言えるそれに、対物に特化した結界では、とても耐えきれるものではなかったのだ。


 当然、剣に魔力をまとわせて炎の剣! 何て非効率的な事はあまりしないのだが。――そいつがとても目立ちたがりで無ければな、とは悪魔の談だ――

 接近戦メインの退魔師も魔力を使って、所謂必殺技や奥義という扱いの攻撃をすることが有る。

 しかし、大抵そういう大技は、魔力の発現や溜めによって発動が"分かりやすい"。

 師匠が特別なだけで、普通の退魔師相手であれば、魔力温存という点においてかなりの優位性を持てたのだろう。


 その能力は……凄く羨ましい。

 周囲の状況を常に認識している悪魔が憑いている(?)私にとっては、やはり障壁、その中でも強度の高い結界は魅力的に映るのだった。


『(今バッチリ見たのだから、お前なら使えるのではないか)』


(ダメ、どうも宗教的な知識がないと読み解けないみたい。というか心を読むな)


『(あんな物欲しそうな目で見てれば誰でもわかる)』


 私も、全ての魔術が見ただけでコピーできるわけではない。

 度々そういう魔術があったが、特に結界のような宗教系や、複雑すぎる上にその人にしかわからない技術が使われている事が多い必殺技、奥義のような物はコピーできなかった事が殆どだ。

 いくら動いている所を覗き見て、詳細にコピーして見せたところで、仕組みを理解できなければ動かせないのが魔術なのだ。

地の文多めなのに、長いセリフもあったり。。。

長台詞の間には、なにか動きを挟むべきなのかな?


次は早めに出来ると思います。

ただ、そのまた次は時間かかりそう……予定では他視点です

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