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第二話 対皇 Ⅲ

「そう言えば聞き忘れていたんだけど。反転結界には私、どの程度の対価を払ったの?」


『何……たった一年程度だ』


「なっ!?」


『ま、事前に聞かないお前が悪い。言っておいたはずだ、俺は味方ではなく俺の都合で動いてると。まさか、悪魔の俺に気を許したのか? お前の読む、書物に出てくる売女の様なセリフを吐いていた人間とは思えんな。何だったか、身体は許しても――』


「死ねっ! 売女じゃない、ヒロインだ。ちっ油断した」


『口調が荒いぞ』


「蓮も居ないし、師匠相手なら今更だ。こっちのほうがやりやすい」


『やれやれ……まあ、今はそっちの方が都合が良い』


 勝手に反転結界と名づけたけど、別にいいみたいだ。

 あの時は焦っていたし、特に強力そうでもなかったから意識していなかったけど……まさか、一年もの対価を必要とするような物とは思わなかった。


 気持ちを切り替えて、見てみると、師匠は剣を失いながらも未だ戦っていた。

 逃げるとか言っていた癖に、律儀な人だ。

 僕……いや、私が何かしようとしているのを見て時間を稼いでくれたのだろう。

 師匠のことだから単純に強い相手と戦うのが楽しいだけだったりするかもしれないが。


 九条の奴は、ひっきりなしに破壊されていく世界に、この結界を合わせる作業に忙殺されているのだろう。全く動く気配がない。

 そこを潰してもいいが、予想では師匠が一発貰う方が早い。

 それに、もし九条が結界の制御を諦めた場合、現実世界に大きな破壊をもたらす可能性がある。

 先にあの変な美人さん――師匠曰く皇――を二人がかりで倒す!








 剣を構え、地面を蹴り、突撃してくる私を見ながら


「目標追加……リストに該当、捕縛します」


 ――皇がなにかを言う。


 突然目の前が黒い何かに遮られたと思うと、それが爆発し霧散した。

 通り抜けてきたエネルギーの塊が私の肩を掠る。


「ぐっ……」


 いや、それは勘違いだ。

 触れてすらいないといのに、全身がバラバラになりそうな衝撃を感じたが故の。


 咄嗟に体を捻っていなければ半身が吹き飛んでいたかもしれない。

 いや、その前に悪魔の援護がなければ……


『気をつけろ、あのエネルギー弾は溜めなしでも危険だ。遠距離攻撃だが、俺にも防ぎきれん。できるだけ援護はするが……』


「大丈夫、身を持って分かった……所だっ!」


 お返しに、と斬りかかった剣はその体に一ミリたりとも食い込まず、傷ひとつ付けられない。

 が、それでいい。

 こちらに気を移したこいつに向かって、師匠の拳が襲い掛かる。

 1、2秒あれば師匠は全力のパンチを放てるのだ。


 流石に最大まで気の乗った攻撃は効くのか、皇とやらが一歩下がる。

 そこへ、私の剣が届く……寸前に、私は横へと自ら飛んだ。

 莫大なエネルギーの奔流が、巻き込まれた私の剣ごと地面を――街路樹を薙ぎ倒す。

 影から一瞬で剣は新しい物が出てくるが、この剣とて無限に有るわけではない。

 昼前にも一度失っているし、これ以上消耗するのは避けるべきだろう。


 そして皇はその結果を一瞥もせず、ただその虚ろな眼を私へと向けていた。


「データ収集完了、予測射撃を開始します」


 目標が増えた為か、皇の一撃一撃の威力がだいぶ下がる。

 しかし、その攻撃は段々と精度を増していった。

 直撃こそしないものの、衝撃が何度も体を襲い、体力を奪っていく。

 私の剣も、師匠の拳もあたっているのに、まるで効いていないようだ。

 だが、焦っていたのは私達だけではなかった。


「何をしているスメラギ!」


 皇はスメラギという名前らしい。

 そのままというか、安直すぎるネーミングだ。


「たかが退魔師二人、さっさと殺せ!」


 私はその時僅かに――ふっと、皇が微笑うのを見た。


「……理解不能。飛鳥里奈様による殺すなという命令と、今の命令に矛盾があります――九条半十郎の命令権の剥奪を確認、任務終了」


「なにっ」


「マスターの体調が心配ですので、私は先に"跳んで"帰りますね。ご武運を」


 スメラギは九条を一瞥することもなく早口で冷たく言い放つ。

 そして直ぐに、莫大な魔力をまき散らして転移によって、呆気無く去っていった。

 まさか、時空を歪める程の魔力によって、力ずくで転移するなんて……

 原理がわかったところで到底私……いや、退魔師の誰であっても使えない魔法だ。

 あれだけの魔力が一度に扱えるというのなら、ただ放出しただけであれだけのエネルギー弾になるのも理解できる。


「ふむ……よくわからんが、形勢逆転といった所か」


 笑っているかとも思ったけど、そう言って、師匠は難しそうな顔をしていた。

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