第二話 対皇 Ⅱ
珍しく、一日の内に朝と昼で更新です
美人さんが手を向けると、何かが飛び出した。
光速のそれを、予知したかのようなタイミングで師匠が避ける。
後ろのビルが、また壊れた。
最初の攻撃も、あの美人さんのものだったのか。
修復の力が有る上位結界内とは言え、あまり破壊が続くとどうなるかわかったものではない。
あの後里奈をどうしたのか……他にも色々恨みを込めて九条を倒しに行きたいが、師匠を放って置くことも出来ない。
並の退魔師や魔物なら一瞬で倒せるだろう人外の師匠だが、あの美人さんは更に異常だ。
既に、退魔師という枠すら超えている。
助けに入りたくても、後ろに蓮が居る以上、九条と睨み合いをし続けるしか無い。
「これは逃げた方が賢いかもしれんな」
いつの間にか隣へと来ていた師匠がそう言う。
「珍しいですね、師匠が弱気なんて」
「多分あれは皇〈オウ〉だな、まさか完成させているとは思わなかった。このまま戦うのは流石に不利だ。せめて神器でも有れば別だが……生憎今日は持っていなくてな」
そう言ってボロボロになった剣を少し掲げる。
確かに、このまま戦っても勝てそうにもないか。
『(半年分の対価があれば、消滅させるのは無理でもあれを何とかしてやれるが)』
「それを口に出して言ってみて」
『(まだ死にたくはないな)』
雰囲気で師匠を指すのが分かった。
理解かっているなら、言わないで欲しい。
どう考えても、師匠が(負けないにしても)勝てない相手に私が有効打を与えてはおかしいだろう。
追求は免れない。
『しかし、奴を転移させるくらいなら造作ない。3日もあれば十分だろう』
奴……というのは、蓮の事だろう。
安全な所へ転移させてしまえば、私も九条と睨み合っているだけでなく戦闘に参加出来る。
かなり魅力的な話だ。
3日というのも、転移と言う大魔術に対する対価としては少なすぎるように思う。
「それは、自分に対しても使える物なの? 距離は?」
『……無理だ。距離もそう長くない』
「詐欺師、最低、軽蔑したわ、この悪魔め」
『う、嘘はついてないだろ!? と言うか悪魔を悪口に使うな!』
珍しく焦る悪魔を見れて少し和む。
まあ、そう上手くいくものでもないか……。
これから先蓮を探知魔法代わりに連れ歩くなら、3日程度で安全な場所に送り届けられる術が手に入るなら十分じゃないだろうか。
多分、九条が転移したのを見たことで可能になったのだろう。
「……仕方ないか。うん、いいよ、それで」
『どうしてお前は……いや、まあその方が俺にとっては都合がいいか。すこし耐えろ、時空を歪ませるわけではないが、それなりの反動が起こる』
何かが抜け出すような感覚と、力強い胎動を同時に感じた。
力場が形成されていくのが、理屈ではなく感覚で理解る。
これはつまり、世界の転移したい場所に同じ座標を打ち込みその場同士を共鳴させ、一時的に境目を消し去る事で時空を歪ませる事無く転移を実現しているのだろう。
ただ、座標というのは一つしか無いからこそ座標なのだ、世界に2つも同じ座標が存在するのはおかしい。
そこをどうしているのかが、分からない。
「な、何がっ」
「ちょっと守ってられなくなりそうだから、安全な場所まで送るわ」
違和感を感じたんだろう。
それが視界の異常なのか、感覚的なものなのかは分からないが、直接的なエフェクトの様なものは発生していない。
焦る蓮には悪いが、説明をできるほど猶予が有る術では無かった。
その体が点滅するように段々と薄くなり、ついには消える。
転移したのだろう、そこは悪魔を信じるしか無い。
反動も軽いもので、耐えるほどではなかった。
午後次第ですが、書けそうならもう一回くらい……




