第二話 対皇 Ⅰ
師匠の剣は長く、細い。
その一振りは、ある時はコンクリートの壁ごと後ろへ隠れていた敵を斬り裂き、ある時は車ごと後ろへ隠れていた魔物を斬り裂いた。
豪快なようだが、潰れること無く真っ二つになったその車からは、師匠の尋常ではない剣の腕が伺えた。
巨大な剣であるにも関わらず力ずくではないその剣とともに飛んでくるのは、拳や蹴りといった打撃だ。
その威力は、明らかに破壊力過多であろう大剣にも劣らない力を秘めている。
「答えろ」
剣が向けられていても目が離せない、そのしなやかな手足。
変な意味では無く、純粋に美しい。
だが、今はそんなものにかまってる暇はない。
踏み込んだ一歩。
まさか向かってくるとは思わなかったのか、私に当たらないよう咄嗟に剣を引く師匠。
人外の様な力を持っているが、意外と甘いところのある人だ。
師匠の横をすり抜ける。
そのままの勢いで少し戸惑った表情をした九条に、雷速の突きを入れた。
しかし、結界の一種である魔力で出来た即席の盾を使い、ギリギリ躱される。
その魔力の爆発によって下がる奴に追撃を……と追いかけようとしたその瞬間、腰辺りを掴まれたかと思った時には、既に数メートル後ろへと吹き飛ばされていた。
直後、私が居たであろう場所を地面ごと――式神だろうか、人型の何かが粉砕した。
「やれやれ、周りは常に警戒しておけと……いや、そんな話をしている場合ではないか」
私を支えるように横に居た師匠が私を突き飛ばし、その反動で離れる。
私と師匠の間を、何か巨大なエネルギーが通り過ぎたと思うと、後ろから轟音とともにビルが崩れてきた。
大量の瓦礫が降ってくる。
自分だけなら兎も角、とても蓮を守って全ての瓦礫から避けられるとは思えない。
「くっ……反転!」
崩壊したビルとともに、裏の世界も壊れていく。
すべてがまるで幻であったかのように、元の世界へと戻った。
「おい」
いつの間にか、隣に師匠が立っている。
少し離れて後ろに居る蓮も……無事だ。
安心しかけた私の頭を、師匠がグリグリとする。
「詳しくは聞かないが、その結界はなるべく使うな」
それだけ言ってもう一度気配を消すと、師匠が九条とエネルギーを放った何かへと接近する。
今度は九条が慌てながらも広く結界を張った。
そこに居た人間全てが押し出され、崩壊とともに全てを元に戻すかなり上級の結界だ。
ビルを吹き飛ばす程の威力の魔法を放って尚、それだけの魔力が余っているというのだろうか。
師匠が振るった剣が、人型の何かを捉える。
いつもなら余裕で何もかもを斬り裂くその剣筋が、止まった。
何かは動いてすらいない。
自身の体一つで、岩をも斬り裂く剣を止めてみせたのだ。
流れるように動く師匠の後を、巨大な剣……いや、もはや鉄の塊の様な物を持った何かが追いかける。
式神かと思っていたそれは、式神ではなかった。
「退魔師? でも……」
まだ若い、怖いくらいの美人であった。
しかし、退魔師にしては師匠の剣を防ぎもせず体で止めてみせた。
どういうことなのだろうか。
師匠とその美人さんが、拮抗する……
いや、完全に師匠が力負けをしていた。
何度も剣があたっているのにもかかわらず、美人さんには傷ひとつ付いていない。
常時スーパーアーマーが付いているようなものだ。
「ちっ……こいつ本当に人間か?」
逆に師匠も攻撃に当たっていないが――
私から見るとどっちも化け物だ。
珍しく間を開けずに更新。
更に、次はお昼ぐらいに