第五話 敵か、味方か Ⅱ
気づいたら片手じゃ足りない数(って書くと多そうに見える)の評価を貰ってました、ありがとうございます。
ストーリー評価が思っていたより高く評価してもらえてて嬉しい半面、文章評価はダメダメで……いや、それはまあそうだろうって思うんですけどね。
出来れば誰か具体的に駄目な所を……――あ、全体的にですねわかります。はい。
首元に突きつけられた薙刀、しかし、そんなものよりも何よりその聞き覚えの有る声に驚いて、私は相手をマジマジと見た。
落とした剣の柄が、スルリと影に飲み込まれる。
『(今日だけで俺の爪が二つも無くなったか……どう落とし前を付けてくれる)』
(アンタが弱っちい剣を出すから……)
と、反論の途中で今はそれどころではないと思い直す。
じっと相手を見る。フードに隠れてよく見えないが、女で有ることは確かだ。
しかし、流石に顎の形で誰か分かる訳が無い。
「…………」
黙ってみていると、焦れたのか女の子の体に力が入っていく。
「まさか、りなの事忘れちゃった……?」
硬く握りしめられた手から、血の気が無くなる。
表情は見れないが、怒ってるのでは無く悲しんでいるのだと――経験で分かった。
「本当に……里奈、なの……?」
「えー? たった三年会てなかっただけで見てわからない程りなって成長した?」
分かってもらえて嬉しかったのか、にへらっと笑う口元が見えた。
自分で身長を計るように、左手を頭に乗せる女の子。
確かに、この単純さ、この仕草の幼さは里奈だ。
「いや、フードで顔見えないし」
あっ、と言って慌ててフードを取る里奈。
その間も、片手で全くブレずに薙刀の切っ先を突きつけて来るのを見て、ああ、本当にコッチの人なんだなぁ……と、今更ながらに思った。
「久し振りだね……里奈」
色々複雑な思いを込めて、そう言う。
出来れば、もう里奈と美羽には会いたくなかった。
会ったら、自分が弱くなっちゃいそうで。
魔物の事とか、悪魔の事とか、洗い浚い話してしまいそうで。
でも、今目の前に居る彼女はきっと退魔師で、MASDと言う自分の敵だ。
魔物とか悪魔の話しは問題なくなったのかもしれないが……。
会うにしても、こんな形で再会したくはなかった。
「うん、逢いたかったよ……みすずっち」
「…………ちって」
ちって何だ。
なんだか泣きそうだった気持ちが、一瞬でどっかに飛んで行くのを感じた。
里奈は里奈で相変わらずのようだ。
あれから三年も経って、既に21歳だろうか。
だというのに身長も、その童顔も、中学生と間違えるようなあの時のまま何も変わってない。
「取り敢えず降参してよ、この槍結構重いんだよ?」
薙刀でしょ、と突っ込みたいのを堪えて両手を上げる。
それだけではダメなのか、「ん」と催促され、「降参です……」と言えば、里奈は簡単に薙刀を引っ込めた。
「よろしい。思ったより弱かったけど、怪我してるんじゃ仕方ないかー」
少しだけ血が出ている私の左手を見て、里奈が「本当は全力のみすずっちと戦いたかったんだけど……」と言った。
まさか、その為にフードで顔を隠していたのだろうか。
私が動揺して全力で戦えないといけないから。
さっきバランスを崩していたのは、被っていたフードが風で取れそうだったせいだろう。
動きを思い出すに、スカートが捲れたせいでもありそうだ。
そのちょっと――いや、かなり抜けてる所も変わらない。
因みに、いつもビルから飛び降りる私から言わせてもらえばちょっと向きを工夫すればスカートなんて、どうという事無い。
スカートつながりでそう言えば足も怪我したな……と、下を見て驚いた。
傷どころか貫かれた筈のスカートすら破れていなかったからだ。
「あ、さっきのは非殺傷モードだからだいじょうぶだよ!」
「私がみすずっちに傷つける訳無いじゃない」と、エッヘンといった様子で胸を張る里奈。
なんというか……なんだか里奈は私とは格が違う強さなんじゃないだろうか。
今までMASDの奴らと何度か戦ったことは有るが、手も足も出ない、格が違うと思うほど強い人は居なかった。
もしかしたら、私の剣の師匠と勝負になるレベルかもしれない……。
「えっと……、知り合い?」
と、東城君が恐る恐るといった感じで声をかけてくる。
ごめん、すっかり忘れてたよ。
「みすずっち――誰、この弱そうな男?」
里奈が険呑な雰囲気で東城君を見る。
それに怯えた東城君が一歩下がって、余計に里奈の眉間にしわがよった。
「えっと、私のスポッターと言うか……オブザーバー?」
「?」
意味がわからない、といった顔をする里奈。
スポッター、オブザーバーと言うのは簡単にいえば、狙撃手につく観測手や、発言権はあっても議決権の無い観察者と言った意味がある言葉だ。
里奈はあまりそういう話には詳しくないようだ。
どういう意味か聞こうとしたのか、里奈が口を開きかけた時、その声は里奈の真後ろから掛けられた。
「困りますねぇ……監視役を置いて、お一人で行かれては」
「九条……。何だ、もう来ちゃったの? わざわざ怖いの我慢して、結構高いビル選んだんだけど」
この都会に不釣合いなシワ一つ無い真っ白な浄衣を着て薄く笑いながら男は近づいてきた。
チャラそうな顔のその口元は笑っていても、目は冷たい感じだ。
時代劇にでも出てきそうな和服を着ているのに耳にはピアスだらけで、それが更に男の怪しさを増していた。
「ちょっと……怖そうな人だね」
里奈には怯えていた東城君が、男を不快そうな目で睨んでいる。
同意だけど、顔には出さないでよ。
「私の事を九条と呼んではならないと、何度も申し上げた筈ですよ――飛鳥様」
「りなの事は家の名で呼ぶじゃない、九条――何だったっけ? ああ、古くっさい名前だから忘れちゃったよ」
「半十郎です。勿論、家を継ぐおつもりがないと言うのなら里奈とお呼びしてもいいですが」
「呼び捨てにしないで! いいから荷物持ちでもして下がっててよ、ウザいから」
クルッと薙刀を回転させた里奈が、刃を向けて九条と呼ばれたその男へと投げる。
フワッと浮き上がった薙刀が、まるで糸にでも操られているかのように逸れ、暫く行き過ぎた後、フワフワと戻ってきてそのまま男の横で浮いて静止した。
「危ないですね、飛鳥家の者なら弓薙の扱いくらいはしっかりとしてもらわないと。この事は、しっかりと報告させてもらいましょう」
ニヤニヤと笑う男を、私が今まで見たことがない程本気で睨む里奈。
彼女は昔から人を疑ったり本気で嫌ったりという事があまりなかったので驚きだ。
軽く頭を振った里奈が、表情を入れ替えてこちらを向いた。
「もうお昼食べた? 久しぶりに、何処か一緒に行こうよー」
はしゃぎだしそうな里奈に、男が更にかぶせる。
「先約が有るのをまさかお忘れですか、飛鳥様?」
「ハァ……。別に、みすずっちが一緒でもいいじゃん」
「店の予約取ってあるんですよ、二人分ね。それとも、約束を反故にするおつもりで?」
チッ、と舌打ちした里奈がやれやれと両手を挙げた。
「ごめん、約束は約束だから今日一緒には食べられないや。また今度会った時、もし敵同士じゃなければ……一緒に食べよっ」
「う、うん」
「またねー――!」
何やら、里奈は里奈で大変らしい。
もしこの怪しげな男に弱みを握られているなら助けてあげたいが、私がでしゃばる事では無さそうだ。
それに……里奈の方が私より強いだろう。
手を振りながら去っていく里奈に、私はどうしても聞きたいことが出来て「ちょっと待って!」と声をかけた。
「何ー!」
ニコニコと笑いながら駆け戻って来た里奈に、どうしても気になってと前置きした上で「美羽は元気にしてる?」と聞いた。
もう会うことは出来ないと決めていたけど、里奈に会った今、美羽がどうしてるかはやはり気になる。
「…………みうっちなら、行方不明だよ」
急に表情を無くした里奈が、そう言った。
思ったより時間が掛かる里奈回。
最初の方でちょこっと出てきただけのキャラで、その時は設定が纏まってなかったりして割りと適当にキャラ書いたのでどう摺り合わせようか……、これだからノープランは。
MASDでの里奈の立場とか、里奈の武器弓薙についてとか、色々設定は頭の中に出来たものの、それらの出番は暫く無さそう。