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転生したら少女退魔師になった  作者: †九葉† 瑠璃
第二章 ―― 再会 ――
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第五話 敵か、味方か Ⅰ

「そう言えば聞いてなかったけど。貴方のお父さんは、何をしている人なの?」


 私は目の前の雰囲気の有る建物を見ながら、そう東城君に問いかけた。

 勿論返ってくる言葉は予想出来ていたが、万が一もある。


「自営業って言うのかな? 見たまんま、売れない喫茶店のオーナーだよ」


 確かに、どっからどう見ても閑古鳥が鳴く喫茶店だ。

 普段から誰も客は居ないのだろう。

 今は唯一のお客さんである東城君の母親が、彼の父親の膝の上に座って何やら話し込んでいる所だった。


「仲が良いのね」


「良すぎるくらいだよ」


 ちょっと嫌そうな顔をしてそう言う東城君に、私は気を割いていられなかった。

 何故なら――


(ねえ。アレ……魔法よね?)


『(ああ。色々手が加えられて居るようだが、第九階位の人払い系統だな。呪い(まじない)程度の最下位呪文とは言え、偶然とするにしては出来過ぎだ)』


 ――東城君の父親が経営すると言う喫茶店のドアに掛けられた飾りから、人払いの魔法が発動し続けていたのだから。


 いくら第九階位の魔法や魔術が空気中に存在する程度の魔力で維持できる最下位の物だとしても、知識のない人間が適当にそれっぽい事をして出来てしまうような代物ではない。

 そして、偶然魔に関係する神社等に頼んだとしても、そういう人達が本当に術を掛けるとは思えない。

 それに、人を呼びこむ魔術なら兎も角、喫茶店の入り口に人払いとは……流石に怪し過ぎる。


「何か……副業は?」


 流石にこの状況で生活していけるとは思えないし、何か魔に関係しそうな怪しい副業でもしているのでは?

 そう思って聞いたのだが、帰ってきたのは否定だった。


「やってないよ? まあこれを見たらそう思うか。夜は居酒屋みたいな感じになって、結構流行るらしいんだけどね」


 苦笑いしながら肩を竦めてそう言った彼は、「さて」と言って隠れ覗いていた横道から身体を出した。


「母さんの事は、父さんに任せるのが一番。無事母さんがなぐさめて貰っているのは確認したし、もう大丈夫かな。ごめんね付きあわせて」


 行こうか、と言う彼に、私は曖昧に頷くしかなかった。

 焦って行動する必要は無いだろう。






 ビルとビルの間を歩いて行く。

 私はさっきの事を考えていて、あまり周りを気にしていなかった。

 それがいけなかったのだろう。

 元々、あの喫茶店の前から人通りが少なかったのも災いした。


 ねえ、と東城君が声をかけてきて、ようやくその事態に気づいたのだ。


「……ん? あれ? いくらなんでも人が少なくない?」


「うん、僕も今そう言おうとした所」


 二人して歩道の真ん中で立ち止まる。

 見渡す限り、誰も居ない。

 細い裏道なら兎も角、二車線は有る普通の道だ。


 二人して、不思議そうなお互いの顔を見ていると、突然東城君がバッと上を見た。

 釣られて上を見て――咄嗟に剣を投げられたのは、悪魔のアシストがあったからだろう。

 手元に剣が無ければ、悪魔に剣を要求する事すら出来ずに呆然と見ていただけだったに違いない。

 しかし、高速で飛来する二つの物体。

 巻き込めるようにと横回転で投げたものの、東城君に向かう物を優先した結果、剣が捉えられたのは一つだけだった。


「うぐッ……」


 少し上を見るために上半身を反らしていたため心臓に直撃と言う事態にはならなかったが、痛みに下を向けば右膝上腿のあたりを光の矢が貫いているのが見えた。

 慌てて駆け寄ろうとする東城君を、直ぐに取り出した新しい剣を振る事で後ろに下がらせる。

 飛来した矢の先、屋上から飛び降りる人影が見えた。

 次は、直接対峙する事になる。

 MASDからの追手なら、関係ない彼をわざわざ追って殺したりはしないだろう。


「逃げてっ!」


 それだけを言って、敵が降りてくる上を見る。

 ビルからのダイブ攻撃は私だけの特権だと思ったのに!


 どんどんと近づいてくるその人影は、何やら慌てているようだった。

 必死に膝と頭とお尻の辺りを代わる代わる抑え、空中でバランスを崩している。

 何らかの魔法が失敗したのだろうか?

「あわわっ――」と、何処か情けない声が聞こえてくる。


 その人影は、私の十メートル程先に着地――というよりも墜落――すると、あまりの衝撃にしびれたのか、立ったまま暫く足を生まれた子鹿のようにプルプルとさせていた。

 フードに隠れてその顔は見えないが、随分と小柄。

 私よりも小さい。

 その体に不釣り合いな、巨大な槍――いや、薙刀。

 可哀想にその薙刀は今は杖のように使われていて、少し不満そうだ。


「…………」


 私も東城君も、突然の出来事にこの間一歩も動けなかった。

 暫くしてようやく立ち直ったらしいその人物がクッと足に力を込めると、巨大な薙刀の切っ先が、薙ぐのではなく最短距離を突くようにして東城君の喉元へと向かう。

 咄嗟に右手一つで剣を振り抜いて、その薙刀をそらす。

 喉を貫く寸前で大きく逸れた刃がそのまま彼女の周りを回転し、遠心力を乗せて私へと襲いかかった。


「くっ……」


 何とか防いだものの、まだ治りきってなかったらしい左腕からズキズキとした痛みが走る。


(左腕、治りきってないんですけど……)


『(全盛期ならまだしも、今の俺があれだけの傷を一日で治せるものか)』


 尚も悪魔に文句を言おうとして、あまりの痛さに言葉にならず霧散した。


「いっ……」


 傷口が開いてきたようだ。

 傷口が手首に近かったからか、左手の袖口が血に染まる。

 ――このつばぜり合いは、長く続けたら負ける。

 しかし、相手の力が強く、右手だけでは身体を真っ二つにされないよう抑えるだけで精一杯で逸らすことも出来ない。


「あっ……」


 それに気づいたらしい敵が、急につばぜり合いをやめて剣が届かない程度に後ろへ飛ぶ。

 薙刀をクルクルと体の周りで回転させると、その周りに気の様なものが集まりだす。

 気も、呼び方が違うだけで魔力の一種だ。

 それを武器に乗せて使えるとなると、相当の腕前だろう。


(勝てない……)


 思わず弱音が出た。

 悪魔は何も言わない。

 足もやられて、逃げることすら出来ない。

 とうとう雷をも纏い始めた薙刀が振りぬかれた。

 雷速のそれに殆ど反応すら出来ずに――


「……!?」


 剣が、根本からスパッと斬られた。

 だが、それだけだ。


「武器が無くなったんだし、降参してよ」


「え?」

一体何者なんだ……

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