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転生したら少女退魔師になった  作者: †九葉† 瑠璃
第二章 ―― 再会 ――
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第一話 休息と宿

ちょっとロボット展を見に東京まで行ってました

第二章開始

「東城……蓮、ね」


 私は勝手に財布から取り出した学生証を前に、そうつぶやいた。


 鞄の中には彼の言う通りたった500円程しか入っていない財布、筆記用具と学校で貰ったのであろう紙類が入ったクリアファイル、携帯ゲーム機と音楽プレイヤーが入っている。

 ゲーム機とは、真面目そうな顔して不良め……と思ったが、クリアファイルの一番表には成績表という文字が見えるから、今日から冬休みで友達と遊んだ帰りだったのだろう。


 ちょっとした好奇心で成績表を開き、その成績に目を奪われた。


 ――オール三。


「なんて平凡……」


 中学なら平均以下だが、高校なら――成績の付け方にもよるが――平均程度だろう。


『趣味が悪いぞ』


 ちょっと気になっただけだけど、たしかにあまり趣味がいいとはいえないか。

 鞄を漁るのはやめて、そろそろ現状をどうにかするべきだし。


 必要なら兎も角、流石に金欠が原因で公園で一晩過ごすのは精神的に辛い。


『で、会いに行くつもりじゃないだろうな?』


「そのつもりだけど?」


 公園のベンチから立ち上がり、歩き出す。

 勿論その彼、東城くんとやらの所へ行くわけではない。

 学生証に住所は書いてあるし、あの後どうなったかも気になるが、流石に5千円返せとこの時間に家まで行けば彼の親御さんが不審がるだろう。


『なら、どうするつもりだ?』


 ちらりと時計を見る。

 既に、短針は真上を指していた。


「もうパチンコは閉まってるわね」


『稼ぎ方がダメ親父だな』


 まあ女の子の稼ぎ方じゃないだろう。

 一度通報されかけた事もあって、あまり夜に行きたくはない。


「じゃあ、自販機のお釣り探して回るとか?」


『いいとこ数百円だな』


 そもそも元金五百円で手っ取り早く稼ぐのは無理だ。


『スリや強盗が一番手っ取り早いと思うが』


「野宿の方がマシ」


 結局、探索と称して夜の街を歩きまわるしか無い。

 どうせ一日二日寝なくても大丈夫な体なのだ、時間は有意義に使うべきだろう。


『あの狼達に遭わぬようにな』


 一匹だったら片手でも屠れる自信は有るが、流石にそこまで敵も馬鹿じゃないだろう。


「うん……そうね、街の北側を探索する。丁度東城君の家もそっちみたいだし」


『やけに拘るな』


「……そうかな?」


 自覚はなかったが、拘っているだろうか?

 一応助けてもらったし、お金も預けてあるし、手には彼の鞄もある、このくらい普通じゃないだろうか。


 言われてみると確かに、気になっている点は有るか。


「彼、あの狼達を見えてたのよね?」


『敵意を出した魔物は人間にも見える。不思議ではないだろう』


「あんな所に、あのタイミングで偶然迷いこんだと?」


『うーむ、可能性としては低いか……』


 低いどころでは無いだろうと思ったが、もう一度よく思い出してみるべきかもしれない。

 彼が視える(・・・)人間であれば、使い道が有る。


 ――素人の男だと聞いていたが、来たのは女の退魔師か。


 ――成る程、こっちが報告にあった素人の少年か……。


 ふむ。

 つまり、東城君は視える人間で、偶々見つけた狼を追いかけていたが、当然バレバレで待ち構えられていた……と。

 そして、そこに私が彼より早く到着した。


「……あれ? そもそも奇襲が失敗した原因って彼じゃない?」


『そのようだな』


 ちゃっかりと思考を読んだ(と言うか思い出すのを補助してくれたのだろう)悪魔も、そう言う。

 そうだ、何故気づかなかったんだろう。


 ある意味私を救ったと言えなくもない行動をした彼だが、逆に彼のせいで酷い目に遭ったとも言えないことにようやく気づいた私は憤慨した。

 感謝しちゃっていた分余計に怒りが増したのだ。

 ちょっと理不尽かな、とも思うが知った事か。


「よし、今から借金の取り立てに行きましょう」


『やれやれ……』


 悪魔のため息には聞こえないふりをした。






 東城と書かれた表札を前にして、私はためらっていた。

 別に家が大きかったとか、あまりにも貧乏だったとかではない、ごく普通の一軒家だ。

 私がためらったのは、そのどの窓にも明かりが点いていなかったからだ。


「流石に寝ているかしら」


『ここまで来ておいて、どうした』


「いや、流石に歩いている内に冷静になったというか……」


 今日は寝れない夜を過ごしてるだろうと思ったら宛が外れたというか――。

 もしインターホンを押して親が出てきたら、なんて言えばいいのか。


『ハァ――……』


「明日は休みらしいし、朝にしましょう」


 ため息をスルーするのも慣れたものだ。

 非常識なのは良くない。


『何のためにここまで来たのだか』


「よく考えたら、あの狼達から守ってあげる必要も有ると思うのよね」


『…………』


「五千円、返してもらえなかったら困るでしょ?」


『それだけの理由か?』


「ううん。やっぱり、あの狼をつけていたっていうのも気になる」


 怒りで中途半端になったが、狼を追いかけたということは襲っている状態じゃない魔物を視ることが出来たということだ。

 一般人では無い。

 だが、MASD所属の退魔師かと言うと、そうでも無い気がする。


『そういう意味では無いのだが……まぁ、それもそうか』


 自販機で買ったおしるこを飲みながら、きれいな満月を見る。

 そう、今日は狼男が一番力を発揮できる満月だ。

 もしあのまま奇襲できていたら、私は狼男に勝てたのだろうか。


『屋根の上にでも行くか?』


 私の視線を勘違いしたらしい悪魔がそう聞いてくる。

 確かに、見張りが屋根に登るのはなんかお約束な気もするけど、それはその人物が抑止力になり得る時だ。

 むしろ今私は今追われる側だから、姿を見せる意味は無い。

 隠れて闇討ちを狙うべきだ。


「ううん。近くにビルでも在ればいいんだけどこの辺りには無いみたいだし、どうしようかな……」


『あそこが良いのではないか?』


 悪魔が指したのは、東城家の玄関から南西――右斜め前にあるアパートだった。

 当然、悪魔が出てきて指で教えてくれるわけではないのでなんとなく雰囲気で察するのだが、これが難しい。

 雰囲気であれこれそれが分かるようになったのは、結構最近のことだ。


「あのボロアパート? というか、どう見ても廃墟なんだけど……」


『うむ、中には誰もいないし、二階からなら彼の家も見える。誰も管理していないのなら家賃もタダだ。ちょうどいいだろう?』


 ちょうどいいだろう、と言われても。

 それではまるっきりあの魔物たちの生活と変わらないのではないだろうか。


 しかし、確かに都合がいいのも確かなので仕方なくお邪魔させてもらう。

 電気もガスも水道も来ていないし、雑草は伸び放題、部屋の中もどこかかび臭い、完全に放置された安アパートだ。

 どの部屋にもお風呂どころかトイレすらも無く、全部一階にあるものを共同で使っていたようだ。

 こんなに大きな街にもこういう所があるんだな……と、少し感慨深くなる。


 そのボロアパートの一室。

 二階の東城家が北東、一番近くに見える部屋に入ることにした。


「う、うぅ……何となく、野宿より気持ち的には惨めかも」


 一旦、全部の荷物を置いて、部屋の真ん中に座り込んだ。

 ボロボロの襖に、ボロボロの畳。

 割れたガラスに、屋根が腐って落ちた電球。

 見た目、野宿のほうが犯罪臭さがない分マシではないだろうか?


「まぁいいけどね、彼の家にも近いし」


 しかし、雨風はしのげる。

 ここの所野宿かネットカフェだったので、落ち着いて寝られるのは貴重だ。

 本当は布団代わりのダンボールでも欲しいところだが、こうなっては今日はもう出かけたくない。


 それに、明日東城君に会いに行くのなら見張るのは今日一日の辛抱だ。

 狼男らが来てもここなら何とか分かるだろうが、今出かけてはどうなるかわからない。


 やはり、今日はもうここで休むべきだろう。

 ドット疲れが襲ってきた身体を、横にして休ませる。

 こんな汚れてボロボロの部屋でも、守られているという安心感と、確かな幸福を感じた。


『彼の家に近い……か』


 …………あとはこの悪魔さえ居なければ言うことはないのだが。


「ねぇ、いい加減にしてくれない?」


『何がだ?』


「東城君に私が気があるような言い方。いい加減無視するのも疲れてきたわ」


 覚えてないが、彼と出会ってからずっとではないだろうかというくらいしつこい。

 気づいていて無視しているのも分かっているはず、普段ならそろそろ諦めてもいい頃合いだ。


『そんな言い方はしていないだろう。お前がそう思ってるから、そう聞こえるのではないか』


「悪魔は嘘をつかないんじゃなかったのかしら」


『……ふむ。そうむくれるな、お前のことを思ってこそだ』


「へぇ……アンタがからかう目的以外で私に親切をするとは到底思えないのだけど?」


 親切にも、家を出てからシャツが表裏反対なのを教えてくれたり。

 親切にも、わざわざ靴を左右反対にして揃えてくれたり。

 親切にも、暑いと言った私の下から風を起こしたり――スカートを履いていたにも関わらずだ、悪魔曰く影から風を送るとそうならざるを得ないらしいが、その後冷気のみを出していたのだから絶対嘘だ。

 照れ隠しなのか何なのか知らないが、悪魔が親切をする時は、必ずついでに私をからかうのだ。

 あ、なんか苛ついてきた。


『勿論、お前が誰かとくっつけば盛大に冷やかして楽しむが?』


「…………はぁ、莫迦らし」


 怒っても無駄な事は今まで散々思い知っているので、もう寝ることにする。

 コイツと話していても、イライラが募るだけだ。


『これを意地悪ではなく親切の一つだと思えるようになっただけ、一歩前進か』


 ……無視に限る。

見直し……まあいいか

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