第四話 逃走劇 Ⅲ
『逃げるのが得意とは……狡い才能ばかりだな』
まんまと屋上まで逃げおおせた私に、悪魔が呆れたような声を出す。
「煩い」
階段に放置された資材やなんだかを転がり下ろせば、狼男は全速で追いかけられない。
当然、逃げるほうが有利だった。
『もっとも、足手まといさえ無ければと言う条件があるようだが』
そう、私は誰かを助けようと一緒に逃げた時は何故か上手くいかないのだ。
何度かそれで痛い目を見ている。
「ようやく、追い詰めた、ぞ」
ちょっと息を切らしながら、狼男はようやく追いついてきた。
途中で資材に巻き込まれて転がり落ちていく音がしたからそのせいだろう、血も出ている。
「ご苦労様、今度は下りだね」
「追いかけっこはもうおしまいだ、次は逃がさん」
大きく息を吸った狼男が、月に向かって遠吠えをする。
三匹程の狼が狼男から分裂し、生まれた。
「満月だった事を恨むのだな」
満月の時だけできるのだろう。
全力疾走した後で更にだったからか、元々疲れる術なのか、目に見えて消耗しているようだが、これで裏と表を使ったスリ抜けはできなくなった。
あの三匹が結界内に入ってこなければ、どちらの世界に行っても邪魔をする相手が居ることになる。
「今戦えば勝てるんじゃないか?」と、頭のなかで誰かが言った。
速攻で否定する。
左手が使えない以上、対多数戦は危険だ。
ゆっくりと迫る狼男に合わせ、ゆっくりと下がっていく。
ビルの端まで来ると、狼男は止まった。
「まさか、自殺する気か?」
「さて、どうでしょう」
「死んだら死んだで生まれたばかりの俺の子達の餌になるだけだ。大人しく俺に従え、殺しはしない」
騙されたことは忘れたのか、一度手に入りそう(狼男視点)だった女が惜しいのか、狼男はそんな事を言う。
「さっき分かったと言うか思い知ったことなんだけど、やっぱりあんな事するくらいなら死んだほうがマシね……私、やっぱりレズみたい」
「は?」
混乱している内に、もう一歩下がる。
もう殆どつま先だけで立っているようなものだ。
「やっぱり相手は女の子じゃないと」
相手が正気になれば、自慢の速力で空中にある動けない体を捕まえられかねない。
まさかの告白をされ目を白黒させている狼男を見ながら、私は体を空中へ投げ出した。
「じゃあね」
「ま、待て――」
伸ばされたては全く私まで届かず、重力に引かれた私の体は凄い勢いで地面へと向かっていった。
ドンッと言う音とともに私の体は地面へ叩きつけられる。
それなりに痛いが、私の体は無傷だ。
『相変わらず、飛び降りでは死なんか』
「そうね、不思議だけど……前世の死因と関係あるのかも」
屋上から少し呆然とした顔で見下ろす狼男を見ながら、私は答えた。
オロオロしながら顔を引っ込めた狼男を見て、変な笑いがこみ上げてくる。
「死んだと思ったかな?」
『だろうな』
今日は気持ち悪い事ばかりだったが、ああも驚いて狼狽えて貰えるとちょっとすっきりする。
あの狼男が階段を下りきるには、もう少し時間がかかるだろう。
体を起こし、すぐ横の壁に立て掛けてあった鞄を手に取る。
「これよね?」
『まさかとは思うが、その鞄を取りに来るためだけに……?』
どうだろうか。
悪魔にここに鞄があることを教えられて思いついた作戦である面も確かにあるが、これ以外方法が無かった気もする。
「まさか、ついでよ。追跡されても逃げ切れるだけの距離を稼ぐには、ビルからの飛び降りが一番、でしょ?」
『……そういう事にしておくか。さて、逃げるぞ』
「ええ、作戦を練りましょう」
『その前に寝るべきだ、今日は疲れただろう』
「練るに寝るを掛けてるの? 全然面白くないから、それ」
なんて、ちょっと余裕の談笑をしながら、私達はそのビルを後にしたのだった。
丁度区切りいいし
艦これイベント始まったから
次からは未定……