第8曲:Stand up to the Victory(イリア視点)
目の前で私の持ってきた食事を食べている二人の人間青年。
拾ってきた手前、飢えさせるわけにもいかにうえに、怪我をしたリルの治療をしてくれた借りもある。
「ほいで、イリアさんとやら。」
片方の男、目つきの悪い方が食事をしながら、私に声をかけてくる。
「何だ、行儀が悪い。」
「怪我したコが良くなったら、俺等出て行くから、ちょっち質問に答えてもらえる?」
「流石に右も左も解らない状態で放り出されても困るからね。」
もう一人の男の方は、食べる仕草も行儀作法も綺麗だ。
きちんとした教養が伺える。
・・・待て、今・・・。
「出て行くだと?何処へだ?オマエ達、あの壁が見えなかったのか?」
どうやって出て行くというのだ。
「見たよ。見たうえで情報が欲しいんよ。」
馬鹿か?コイツ等は!
「一体、何の情報が欲しいというんだ?脱出方法なんて不可能な事を私に聞くなよ?」
「別にそんな方法はいらないよ。君達を閉じ込めている人間達の情報が欲しい。正確な人数が解るのが一番いいけれどね。」
頭が痛くなってきた・・・。
「脱出の方法がないのに、相手の人数を知りたがるなんて、オマエ達が馬鹿か?」
きょとんとして見詰め合う二人の男。
「だっていらねーもん。その問題は解決しているっちゅーか、"最初から問題じゃねぇ"し。」
「は?」
問題じゃない?
どういう事だ?!
いや、落ち着け。
「オマエ達は脱出方法を知っているのか?」
「うんにゃ。ただそこはどうとでもなるってだけ。」
・・・やっぱりただの馬鹿か。
「で、人数は解るのかい?」
「知って・・・知ってどうする!」
なんなんだ!コイツ等は!
「脱出方法はどうとでもなるだの、なんだの!オマエ達は知らないから言えるんだ!あの壁はな!"私達が作らされた"んだ!何人もの同胞を犠牲にしてな!」
不覚にも涙が溢れてくる・・・。
「自分達の檻を、自分達で作らされるという屈辱を味わい、痛めつけられ狩られ、殺され・・・そして・・・犯され・・・。」
そして男手はほとんど死に絶えるか、今も労働に駆り出されている。
「ふぃ~。食った食った。さて、アルムさんや。」
「なんでしょう、イクミ君。」
能天気な声が涙を流す私の前でする。
「俺はイリアさん曰く、馬鹿なんだそうなんだが、なにやら無性に腹が立って、人をブッ飛ばしたい気分なんよ。やっぱり馬鹿なんかね?」
「それは困ったなイクミ。オレも同じ気分なんだよ。そうするとオレも馬鹿って事になる。」
「え・・・。」
私は慌てて涙を拭って、彼等の表情を見る。
二人の表情は、声とは裏腹に鋭い。
特に穏和な男の方は別人のようだ。
「イリアさんよ、質問の答えは?」
「ぇ・・・ドルラス伯爵は・・・百人以上の配下がいて・・・。」
何故、私は彼等の質問に答えているのだろう・・・?
というか、何故、彼等は腹など立てているんだ?
「へぇ、伯爵ねぇ・・・権力持ってもこんなコトするなんて、ロクなヤツじゃねぇなぁ。」
「同意。」
「じゃ、アルム、俺、寝るわ。」
は?
「了解。イリアさん、オレを代表・・・エルザさんの所へ案内してくれるかな?少し話しがしたいんだ。」
「それは・・・構わないが・・・。」
宣言通り、即座に横になっているアレはいいのだろうか?
「あぁ、いいの、いいの。彼は自分がやるべき事をやっているだけだから。」
小さく笑って、私を促す。
「そ、そうなのか。」
「そうそう。」
二人で外に出て、エルザのいるであろう畑に向かう。
「けれど・・・。」
「?」
「前もダークエルフに囲まれて、今度も出だしはエルフか・・・縁があるのかなぁ。」
そういえば、彼の住む国には黒い肌のエルフが居ると言ったな。
「オマエの国のエルフもこんなメに合っているのか?」
「昔は・・・迫害というか、差別されていたけれどね、今は無くなってきていると思うよ。」
「そうか・・・それは羨ましいな。」
「二年前の話だよ。帰れていないか。」
すると、国へ帰る途中でここへ捨てられたという事か。
「皆、もうオレの事を忘れちゃってたりしてね。死んだとか。」
視線を足元に落とし、自嘲気味に呟く。
誰しもこんなメに合うなんて常に思っているわけじゃないから。
「そんな事はないさ。」
気休めかも知れないけれど。
「ありがとう。やっぱりエルフは優しい種族っていうのは、共通なんだね。」
「別に、私は・・・。」
何を和んでいるんだ私は!
コイツといい、さっきのアイツといい、話していると調子が狂う。
「はぁ・・・帰ったら皆に散々怒られるんだろうなぁ・・・『"妃候補"をほっぽといて何処へ行っていた!』とか・・・あぁ、今、ちょっとだけ帰りたくなくなったぞ、参ったなぁ・・・。」
「妃候補?オマエ、一体・・・。」
「しかも、帰り旅の出だし早々、コレだもんなぁ・・・まぁ、仕方ないよね。」
聞いてないな。
しかし、コイツは一体何者なんだ?
いや、それはアイツもか。
なのに何故だろう?
コイツ等を見ていると、胸がドキドキするのは・・・。