表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅰ楽章:皇子は再び旅立つ。
9/54

第8曲:Stand up to the Victory(イリア視点)

 目の前で私の持ってきた食事を食べている二人の人間らしき青年。

拾ってきた手前、飢えさせるわけにもいかにうえに、怪我をしたリルの治療をしてくれた借りもある。


「ほいで、イリアさんとやら。」


 片方の男、目つきの悪い方が食事をしながら、私に声をかけてくる。


「何だ、行儀が悪い。」


「怪我したコが良くなったら、俺等出て行くから、ちょっち質問に答えてもらえる?」


「流石に右も左も解らない状態で放り出されても困るからね。」


 もう一人の男の方は、食べる仕草も行儀作法も綺麗だ。

きちんとした教養が伺える。

・・・待て、今・・・。


「出て行くだと?何処へだ?オマエ達、あの壁が見えなかったのか?」


 どうやって出て行くというのだ。


「見たよ。見たうえで情報が欲しいんよ。」


 馬鹿か?コイツ等は!


「一体、何の情報が欲しいというんだ?脱出方法なんて不可能な事を私に聞くなよ?」


「別にそんな方法はいらないよ。君達を閉じ込めている人間達の情報が欲しい。正確な人数が解るのが一番いいけれどね。」


 頭が痛くなってきた・・・。


「脱出の方法がないのに、相手の人数を知りたがるなんて、オマエ達が馬鹿か?」


 きょとんとして見詰め合う二人の男。


「だっていらねーもん。その問題は解決しているっちゅーか、"最初から問題じゃねぇ"し。」


「は?」


 問題じゃない?

どういう事だ?!

いや、落ち着け。


「オマエ達は脱出方法を知っているのか?」


「うんにゃ。ただそこはどうとでもなるってだけ。」


 ・・・やっぱりただの馬鹿か。


「で、人数は解るのかい?」


「知って・・・知ってどうする!」


 なんなんだ!コイツ等は!


「脱出方法はどうとでもなるだの、なんだの!オマエ達は知らないから言えるんだ!あの壁はな!"私達が作らされた"んだ!何人もの同胞を犠牲にしてな!」


 不覚にも涙が溢れてくる・・・。


「自分達の檻を、自分達で作らされるという屈辱を味わい、痛めつけられ狩られ、殺され・・・そして・・・犯され・・・。」


 そして男手はほとんど死に絶えるか、今も労働に駆り出されている。


「ふぃ~。食った食った。さて、アルムさんや。」


「なんでしょう、イクミ君。」


 能天気な声が涙を流す私の前でする。


「俺はイリアさん曰く、馬鹿なんだそうなんだが、なにやら無性に腹が立って、人をブッ飛ばしたい気分なんよ。やっぱり馬鹿なんかね?」


「それは困ったなイクミ。オレも同じ気分なんだよ。そうするとオレも馬鹿って事になる。」


「え・・・。」


 私は慌てて涙を拭って、彼等の表情を見る。

二人の表情は、声とは裏腹に鋭い。

特に穏和な男の方は別人のようだ。


「イリアさんよ、質問の答えは?」


「ぇ・・・ドルラス伯爵は・・・百人以上の配下がいて・・・。」


 何故、私は彼等の質問に答えているのだろう・・・?

というか、何故、彼等は腹など立てているんだ?


「へぇ、伯爵ねぇ・・・権力持ってもこんなコトするなんて、ロクなヤツじゃねぇなぁ。」


「同意。」


「じゃ、アルム、俺、寝るわ。」


 は?


「了解。イリアさん、オレを代表・・・エルザさんの所へ案内してくれるかな?少し話しがしたいんだ。」


「それは・・・構わないが・・・。」


 宣言通り、即座に横になっているアレはいいのだろうか?


「あぁ、いいの、いいの。彼は自分がやるべき事をやっているだけだから。」


 小さく笑って、私を促す。


「そ、そうなのか。」


「そうそう。」


 二人で外に出て、エルザのいるであろう畑に向かう。


「けれど・・・。」


「?」


「前もダークエルフに囲まれて、今度も出だしはエルフか・・・縁があるのかなぁ。」


 そういえば、彼の住む国には黒い肌のエルフが居ると言ったな。


「オマエの国のエルフもこんなメに合っているのか?」


「昔は・・・迫害というか、差別されていたけれどね、今は無くなってきていると思うよ。」


「そうか・・・それは羨ましいな。」


「二年前の話だよ。帰れていないか。」


 すると、国へ帰る途中でここへ捨てられたという事か。


「皆、もうオレの事を忘れちゃってたりしてね。死んだとか。」


 視線を足元に落とし、自嘲気味に呟く。

誰しもこんなメに合うなんて常に思っているわけじゃないから。


「そんな事はないさ。」


 気休めかも知れないけれど。


「ありがとう。やっぱりエルフは優しい種族っていうのは、共通なんだね。」


「別に、私は・・・。」


 何を和んでいるんだ私は!

コイツといい、さっきのアイツといい、話していると調子が狂う。


「はぁ・・・帰ったら皆に散々怒られるんだろうなぁ・・・『"妃候補"をほっぽといて何処へ行っていた!』とか・・・あぁ、今、ちょっとだけ帰りたくなくなったぞ、参ったなぁ・・・。」


「妃候補?オマエ、一体・・・。」


「しかも、帰り旅の出だし早々、コレだもんなぁ・・・まぁ、仕方ないよね。」


 聞いてないな。

しかし、コイツは一体何者なんだ?

いや、それはアイツもか。

なのに何故だろう?

コイツ等を見ていると、胸がドキドキするのは・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ