第7曲:REALIZE
体内時計できっちり3時間。
その代わり、物凄く深く眠って目を覚ます。
「筋肉痛なし、神経系もOK、視界もばっちりクリア。おし、復活。」
俺の睡眠サイクルは、1時間半と言われる一般的なものと違って、3時間。
「イクミ?」
一緒に潰れてたアルムの声がする。
「なんだよ?」
「オレの感覚だと、3,4時間は経過した気がするんだけれど?」
「あ?まぁ、そんなもんじゃないか?」
アルムも寝ていたのか、声から幾分疲労感が抜けている。
「だとしたら、おかしな事があるんだが・・・。」
「・・・勘弁。」
アルムは頭がイイから怖いんだよ、そのテの発言は!
「日の角度がたいして変わっていない。」 「は?」
角度?
だからなんなんだ?
「寝る前に射し込んでいた日の光が、今もたいして動いていない。」
・・・だからなんね?
「今がそういう季節かも知れないけれど・・・1日の時間単位が違うのかも。」
つまり、俺の世界の感覚でいう1日24時間じゃないってコトらしい。
動いてないってコトは、24時間以上か・・・そもそもが1時間が60分じゃないんかもな。
「たまぁに、1日30時間くらいあったらいいなと思ったコトはあるけど・・・マジかぁ・・・慣れるかなぁ。」
「およそ3,4時間で移動した角度的に、1日32時間以上・・・か、な。」
「6時間長く動いて、6時間早く寝よう!」
「・・・半々で使うのか?」
一番単純、かつシンプルな配分だと思うんだけどねぇ?
「ま、それは置いて、二人で作戦会議といきますか。」
議題は勿論、この世界、集落に関してだ。
「と、言っても現状、俺達が取れる選択肢は3つしかねぇケド。」
「3つ。彼女達を逃がす。彼女達を支配している人間を倒す。・・・あとは俺達だけで逃げる。か?」
1つ目は俺達がそう思っただけで、どうこう出来る問題じゃない。
彼女達の意思が必要だ。
2つ目は完全に俺達だけの独善・自己満足。
ただ、相手の戦力も組織力も解らない。
無闇に突入は、玉砕・粉砕・大喝采と。
3つ目は一番賢い選択。
目も耳も口も塞いで生きれば、人生は楽だわな。
俺達にはなぁ~んも関係ありませんってね。
「アルムさぁ。」
「ん?」
「俺、弟がいんだよ。」
「それは知っている。」
大切な弟。
俺の半身。
「弟はさ、俺を無駄に尊敬してくれてんだよねぇ。」
「その気持ちは解る。オレにも実の兄がいるから。」
それは初耳だ。
「本当は、俺は弟に尊敬される程、すげぇ人間じゃないワケよ。うん、意外にダメ人間。」
ちゃあんと自覚症状はあるし、アルムだってここまでの俺の言動を見ていれば解ってるだろう。
「でもさ、そこはやっぱ兄貴でいたいんよ。弟の一歩でも半歩でもいいから前にいるような兄貴にさ。たとえそれが弟が見ていない今でも。」
一度、それをしたら、なんかさ、ずっと逃げ癖がついちゃう気がすんだよね。
次も、その次も、ずっとさ。
「そうか・・・。」
考え込むような様子のアルム。
「どした?」
「いや、オレの兄上もそうだったのかも・・・と。兄上は誰の目から見ても完璧な人だったから。」
「さぁ?でも、アルムにとってはどうなんよ?」
他人の目からではなくて、弟として兄を見て。
とても気になる。
「・・・最高の、自慢の兄上だよ。ちょっと弟に対して過保護気味だけどね。」
「なら、いーじゃんか。」
決して投げやりに言っているワケじゃない。
第一、アルム自身だって俺から見ればすげぇヤツで、そんなアルムにとって兄上ってのは自慢なんだろ?
だったら、本当にすげぇ兄上なんだろうよ。
「そう考えると、オレも弟として兄上の恥にならないようにしないといけないな。」
「ま、そういう意味では、長生きできねぇかもな、俺達。」
クックッと忍び笑いをする二人。
男同士で気持ち悪いったら、ありゃしないぜ。
「激しく後悔するよりは、マシだよ。」
「違いないねぇ。」
全くだ。
「じゃあ、2択。俺達が必死こくか、皆で必死こくか。」
「うん。どのみち情報が足りないな。お腹は空いたけれど、ちょっと偵察に行くべきかな?」
偵察・情報収集は大事だ。
得られないというならば、集めに出向くしかないわな。
「二人でいなくなるのはマズいよなぁ。かといって個別で動くと・・・。」
何かあった時に対処出来ない。
今の俺は体力は回復したけど、能力はまだ使えない。
無理矢理引き出しても、ほんの数秒だ。
戦う確率が高い場合、絶対アルムのが生存率は上。
「悩むところだね。」
「絶対情報量の不足か。普通、戦闘発生を込みで考えたら・・・俺、敗戦確実。」
「一度オレ達だけで壁の外に出るという選択もあるけれど、それで相手の警戒が強まっても、後がやりづらい。」
「うぅむ・・・。やっぱりここに残ろう。怪我したコの薬とかも置いてかないとあれだし、逃がすにしても、あのコの体調がある程度良くならんと動かせねぇわ。」
「逃亡・撤退戦。それでも非戦闘員を含む場合は、一番足の遅い者の速度を基準に考えるべきだからね。」
思わず肩を竦める。
なんか、いきなり難易度ハードのシナリオモードで戦略シュミュレーションをやらされてる気分。
・・・サクだったら、なんかいい案思いつきそうだなぁ、オイ。
「オイ、オマエ達、食事だ。」
乱暴にドアが開け放たれ、イリアさんが入って来る。
「ラッキィ。まず当面の問題クリア。」
何しろ、腹が減っては・・・だよねん。
3人分はある食事。
どうやら、イリアさんもここで一緒にメシを食うみたいだ。
という事は、もしかしたら、今なら彼女から情報を得られるかも知れない。
彼女、無口な部類みたいなのが、困りモノだけど・・・。
俺はアルムに目配せすると、目の前に並べられた栄養をありがたく摂取する事を決めた。
問題は、その栄養分が身体に合うかだ。
変な虫とか煮られたりしてないかね。
ま、一応、ラッパ印も持参してるからいいケドね。
「じゃ、ありがたく頂くとしますかねぇ?」
「だね。」