第6曲:for Real
血に戸惑ったら負ける。
まずはそれ。
両足と片腕を矢で射抜かれて、血を流す少女。
顔色が悪いのは血が足りないせいか?
「イクミ、イケそうか?」
「やるっきゃねぇべさ!」
俺は腰のナイフをアルムに手渡す。
「足の矢の両端を斬って抜いてくれ、止血は出来るな?あー、俺達を縛った綱で。定期的に緩めろよ?」
でないと血が回らなくなって、足そのものが壊死してしまう。
幸い、足の矢は貫通しているので、切断すれば抜くのは簡単だ。
問題は・・・片腕にぐっさりと刺さった矢だ。
「オマエ達何を?!」 「うるせぇ!湯を持って来い!早く!」
俺は思わずイリアさんを怒鳴りつける。
女性を怒鳴るのはどうかと思うが、そんな事をごちゃごちゃ言っている暇はない!
「腕は傷口を一旦切らないとダメか?・・・えぇいっ!」
矢の先端に返しがついているタイプだ、そのまま引き抜く事は出来ない。
かといって、傷口をその分切開して抜くのは、現状の出血を見てもダメだ。
「【映し出せ!刻の終わりを!】」
本日2発目だ!
「ッ。」
激痛。
やっぱり身体がもたねぇか。
矢を凝視して、そのポイントを必死に探す。
身体の内部に入っている部分だったら、ヤバかったが・・・。
「あった!アルム!」
アルムのナイフを奪い取り、そのポイントに向かって薙ぎ払う。
すると即座に矢は崩れ去り、砂のような粒子状になっていく。
「ぐぉっ。」
痛ってぇ・・・泣きそうで、思わずのけぞる。
「アルム、バッグから糸と針・・・。」
「もう出してある。足は止血している間に縫った。」
流石。
「悪ィ。じゃ、腕を頼むわ。」
俺は目を押さえつつ、バッグからガーゼと包帯を取り出す。
抗生物質がありゃ良かったんだけど・・・。
ウチで怪我をするのは"俺だけ"だかんなぁ。
「湯を持ってきたぞ!」
どうやら、ツンデレでも言う事は聞いてくれたらしい。
「傷口を拭いて!」
拭いた上から傷口を消毒液で消毒。
ガーゼをあてて包帯を巻く。
ちなみに針は新品だからな?清潔だぞ?
「あとは体温管理に気をつけて、こまめに傷口を洗い包帯を変える、か?一応血が皮膚下に溜まらないように血抜き用の隙間を空けておいたけれど。」
アルムが聞き返した言葉に俺はなんとか頷けた。
流石に眼を2回連続は、キビシ過ぎたわ。
感染症にならないといいなぁ。
細菌レベルを視認するって事はした事ねぇし、出来たとしても取り除けないだろうからなぁ・・・裏技を除いて・・・。
「あ。」
俺はある事を思い出して、バッグを漁る。
確か・・・。
「コレを彼女に飲ませてあげてくれ。」
俺は見つけ出したソレをイリアに渡す。
「なんだコレは?」
「薬だ。人間用だけど、多分エルフにも効くと思う。」
基本的に身体構造はそれ程かけ離れていないはず。
「薬?コレが?何で出来ているんだ?」
そっか、錠剤なんてないもんなぁ。
基本塗り薬・飲み薬は・・・あって粉薬か。
えっと・・・何で・・・。
「あー、多分、半分は優しさ。」
無いよりマシだよな?優しさ?
鎮痛効果はある・・・うん。
「ともかくだ・・・アルム・・・?」
「何?」
「もう限界、寝る、おやすみ。」
俺は大の字で倒れる。
「好きにしてくれ。もう突っ込まないからね。」
そう言うと、倒れた俺の横で本当に突っ込みナシで、アルムも倒れ込む音が聞こえた。
だよなー。
次元渡って、捕まって、緊急救急やって・・・初日からハードだぜ、全く。
腹も減るし。
あぁ、人間が食べても大丈夫な食べ物を探さないと・・・メンドくせぇ。
一応、ビーフジャーキーとかそういう携帯食料はバッグの中にある。
それも限りあるし、なるべく取って置きたい。
常に食いモンが手に入る環境とは限らん・・・あーもー。
「なんで、こんな事になってんだか・・・。」
「イクミがお人好しだからだろう?」
「人に全部押し付けんなって、アルムだって大概お人好しだぜ?」
似たもの同士で言い合っても不毛やん。
「オマエ達!」
「ん?」 「あ?」
イリアさんが今にも意識を手放しそうな俺の前に立っている・・・下から見ると、意外とあるナ。
・・・何がって、いや、何分思春期なもんで、あはは。
「なんだ?こっちは疲れてんだケド?」
「そんな所で寝られても邪魔だ。」
安眠妨害反対~、訴えるじょ~。
「風邪をひかれても困る。寝るなら私の家で寝ろ。」
デレた?!
デレましたよ、奥さん!
「やっぱりエルフは優しいな。」
アルムが呟く。
「オマエ、エルフと交流があるのか?」
不思議そうにイリアさんが問い返す。
「少数民族だけれどね。と、言ってもオレの国のエルフは、肌が黒くてダークエルフと呼ばれている。」
「肌の黒いエルフ?聞いた事も見た事もないな。」
やっぱりアルムの世界じゃねぇのか・・・つまんネ。
まぁ、気になる事がこの世界にちょっち出来ちまったからいケドさ。
「早く来い、こっちだ。」
「へぃへぃ。」
「親切はしておくものだね、イクミ。」
全くイイヤツ過ぎ。
「過度の親切って嫌われるゾ?」
「またまた。」
ンニャロォ。
「それでもしないよりは全然いだろう?」
勝ち誇ったように・・・いや、勝ち誇って微笑むアルム。
「言っておくけどな、本当に2,3日は眼ェ、使えねぇかんな!」
「解ったよ。」
なんかムカツキます~。
ムカッ。