第5曲:Drink Or Die
俺達を案内(?)したエルフらしき種族の少女の名はイリアと名乗った。
それ以外の情報はまるっきり得られなかったりする。
つか、このイリアさんとやら、非常に無口で、さっきの剣幕は一体なんだったのってくらいだ。
「さて、基本的にこの先に待ってるのって尋問とかだよなぁ?」
「いきなり裁判、もしくはいきなり処刑という展開もあるかも知れないね。」
アルムはよくそんな物騒なコトを平然と言えるもんだ。
「今から、我々の代表に会わせる。いきなり処刑という事はない。私がさせない。」
・・・意外と優しい?
もしやツンデレ型?
「アルムさんや、失礼のないようにのォ。」
「そっちもな。」
ですね、あい。
ショートコントに失敗した俺をよそに、木で出来た小屋・・・ログハウスみたいなアレが建ち並ぶ集落を抜け、広場のような場所に出る。
「エルザ!壁の付近で変なヤツを拾った。」
拾ったって、あのなぁ・・・。
視界の先の何人かのエルフがこちらを見て、そして更にその中の一人がこちらに歩み寄って来る。
やはり、金髪ロングに緑の瞳、そしてとんがった耳。
でも、イリアより背が高く、目つきも鋭くない。
服もゆったりとしたローブみたいなドレスを着ていて、見るからに温和そうな女性。
「そして、やっぱり美女と。」
なんだろう?エルフ補正?
「あなた方は?人間?」
やっぱり黒髪の人間は珍しいんだろか?
それとも、そもそも人間という種族の定義から違うのか?
「お初にお目にかかります。私はアルム、そしてこちらがイクミを申します。」
片膝をついて、アルムが小芝居に入りやがった。
もう俺もそれに乗るしか選択肢がねぇじゃんよ。
「先程のご質問ですが、私達自身、自分達が何者か知り得ていないのです。ただ人間と何かの混血としか・・・。」
・・・・・・ヲイヲイ。
いや、確かに嘘の比率は限りなく少ないけどな。
この世界からしてみれば、俺達は果てしなく謎な存在だろうよ。
「まぁ、それでこちらに"捨てられた"のですね。」
通じたよ。
一定の情報を与えて、相手に判断を委ねる事で有利に進める話術ってあったな。
相手が勝手に歯抜けになった情報の部分を勝手に補完していくんだ。
人間の心理学的な応用も、エルフには効くらしい。
ともあれ、彼女、エルザさんの言い分からして、こっちが壁の内側ってコトになりそうだ。
「えぇ、気づいたら、気を失ったまま、そこのイリアさんが発見した場所に倒れていたみたいで。」
アルムの芝居に乗っての俺の発言だが・・・いいのかなぁ、こんなんで。
まぁ、俺の場合は嘘はないからな。
「成程、それでは私達と同胞になれそうですね。」
「エルザ!コイツ等は男だぞ?!」
おや?
ツンデレの次は、男性恐怖症か?
王道なヤツめ。
「イリアさん、別段、私達は貴女方にどうこうして頂きたいわけではありません。ただここがどういった所か諸々の情報が欲しいだけです。」
ここはこのままアルムに丸投げした方がいいかね。
ぶっちゃけ、しんどい。
「よっこいしょ。」
丸投げを決めたら、今の俺がすべき事は疲労の回復。
地べたにダラしなく座り込む。
「イクミ?」
「休憩。いざとなったら俺達二人でどうとでも出来るっしょ。」
ともかく俺は休みたい。
動きたくないんだ。
「それを言ったらお終いだろうに。やれやれ。」
「俺はアルムみたく頭使うの嫌いなの、面倒なの。ここは壁の内側。んで、俺達はこんな美人な人達をどうこうしようとか思ってないけど、向こうはどうかわからん。なら戦う・・・ってのは嫌だから、逃げるしかねぇ。はい、俺の脳ミソ、ここで限界。」
「充分に回転しているじゃないか。」
そりゃあ、人並み程度には。
「随分と面白い方。」
エルザさんが、手で口を覆いんがら優雅に笑っている。
「アルム、笑われてるぞ。」
「君がな、イクミ。」
まだハイテンションが続いてるのかねぇ?
「ここは人間が作った檻。私達エルフを飼う檻よ。」
どうにも聞き捨てならないね、そのフレーズ。
「つまり、奴隷か何か?」 「もっと悪い!」
俺の発言にイリアが叫ぶ。
「アイツ等からしたら、私達は家畜も同じだ。」
「ほぅ。」
応えるアルムの口調が固い。
やれやれ、キレ易いのは俺だけじゃないようだ。
「アルム。」
「何だ?」
「美的感覚どころか、沸点まで一緒らしいぜ、俺等。」
別に俺達はこの世界の住人じゃない。
目の前のエルフも他種族で他人だ。
でも、困ったな。
平和の国、和と義の国のジャパニーズは、こういうのは許せないんだよなぁ。
・・・日本人舐めんなよ。
「それはまた奇遇だな。」
そうと決まったら、もっと情報集めないとな。
「エルザ!大変よ!リルが狩りに!」
頭に血が昇りかけていた俺達の前に、これまた違うエルフが割り込んで来る。
勿論、この人も美人だぜ、コンチクショウ。
「リルはどうした!」
「矢に射られて!今!」
割り込んで来たエルフの女性が振り返った視線の先に、少し小柄なエルフ。
その肩に担がれたエルフは、ぐったりとしていて・・・その手足には矢が・・・。
「アルム!俺のバッグ!」
それだけを叫ぶと、俺は一目散にそのエルフに向かって走り出した。
「仰向けにしてゆっくり降ろせ!腕は頭より高く上げさせろ!」
冗談じゃない!
家畜って、狩ってこういう事かよ!
ふざけんなバカヤロウ!!