表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
50/54

第48曲:羊は安らかに草を食み

「んがっ・・・悪ィ、寝てた。」


 デトビア領からの逃走(大騒動でもいい)のあの夜。

アルムに抱え上げられた辺りで、俺の視界は意識ごとブツりと切れた。

緊張からの解放と、力の酷使・・・まぁ、全部ひっくるめて消耗しきったってトコだな。

そのまま例の睡眠サイクル最低3時間単位の旅へ直行。


「大丈夫だよ、問題ない。」


 そう答えたのはアルムだ。


「どれくらい寝てた?今、昼?夜?」


「イクミ、また・・・。」


 俺の簡単な質問にアルムが心配そうな声を上げるのは、無理もない。

いい加減慣れて欲しいものだけど。

今は視力が全くない。

全くの暗闇だ。


「まぁ、壁を2発って数えたら、4発ブチカマしてっかんなー。こんなもん予想の範囲内だろ?」


 あとは逃げるだけだし、アルムがいればなんとかなるって思ってたから。

出来る事をもう、全力で。


「あと、エルフ達は?」


 アルムが最初の質問に答えていないのに、次の質問をしてしまった。


「今は翌日の夕方だよ。イクミが寝ていたのは、約10時間弱。」


「エルフ達はどうなったかは解らない。ドルラス領外れにいるエルフ達と合流する選択肢も提示しておいたが、安全性を考慮して、直線的にはこちらに来ないように言ってある。」


 最初の質問をアルム、次の質問をアンソニーが答えてくれた。

アンソニーの措置は、ドルラス領に逃げ込んだのがバレたりして、どちらのエルフにも危険が及ぶ可能性を考えての事だろう。

正しい判断だと俺も思う。


「アンソニーも無事だったか。怪我してない?アルムも。あ、ノリスのおっさんとスフィールさんは?!」


 肝心な事を思い出した。

目的を忘れたとかどんだけだよっ?!


「イクミ、それはこっちの台詞だ。そっちが一番問題だ。」


「ワシならここにいるぞ?すまんな、ワシの力では、その目は治せんし、疲労も取り除けんのだ。」


 元気そうな声が聞けて良かった。


「大丈夫。別にこれはなんとかなると思ってないから。」


 多分、なんて言うのかな、この眼はこっちの世界と違う法則なんじゃないかなって。

サッカーのルールの世界に野球のルールを持ち込んでるみたいな。

俺、手ぇ使っちゃうよ的な。

・・・キーパーも手ェ使えるか、うん、イマイチ。


「って、スフィールさんは?!彼女はどうしたの?!」


 まだその答えを貰っていない事に気づいた。


「それなんだが・・・。」


 急にアルムの口調が神妙になる。

どういう事だ?


「なんだ?何かあったのか?!」


「落ち着け、イクミ・・・仕方が無かったんだ。」


 アンソニーまで・・・。


「一体なんなんだよ?スフィールさんに何かあったのか?」


「ワシは止めたんだが・・・。」


 ノリスのおっさんの言葉がトドメだった。

俺は鉛のように重い身体を起こそうとすると・・・。


「ぐぇっ。」


 誰か?が俺の襟首を掴んで、引き倒した。

急に力強くするもんだから、首が・・・。

て、誰?

アルムとアンソニー、ノリスのおっさんも、皆、俺からある程度離れた位置にいる。

少なくとも襟首を掴める至近距離にはいない。

て、コトは・・・。


「体調が悪いなら、大人しくして下さい。それに私はここにいます。何か御用ですか?」


「ご・・・御用ってなぁ・・・?」


 確かにスフィールさんの声だ。

彼女の声を聞いて、俺は完全に脱力する。


「皆、酷くね?」


 なんとなくでしか方向が解らないが、解らないなりに睨んでやろうと試みる。


「いや、オレはまだ答えてなかっただけで・・・スフィールさんがどうしてもイクミの看病をしたいと強固に主張していてね・・・。」


 そういえば、今気づいたけれど、俺の頭の下に柔らかい感触が・・・これって膝枕ってヤツか?

う~ん、見えんからそれすらも解らん。

かといって、触ってみてそれが膝だったら、俺は彼女の太股を撫でくりまわす事になる変態さん(ダメな子)になってしまう。


「自分は必要ないし、寝かせておけば大丈夫だと主張したのだが、アルムさんが面白いからやらせてあげようと・・・"仕方無く"。」


 ヲイ。


「アンソニー、それは言わないでおくところだよ?」


「すみません。」


 ヲイヲイ。


「ワシは、人が真剣に言っているのに悪乗りし過ぎだと"止めた"んだが・・・。」


 ヲイヲイヲイ。


「テメェラ、なんだかんだ言って、人をからかって楽しんでるだけじゃねっぐぇっ。」


 起き上がろうとした俺を、再度襟首を掴む事でスフィールさんが引き寄せる。

すっげぇ痛苦しいんスけど、それ・・・。


「安静に。」


 静かだが、力強い口調で、そして力づく・・・。

一体、彼女は今、どんな表情をしているのだろう?


「いや、あのね、スフィールさん。これは、そのなんというか、仕様に近いものでしてね。」


「安静。」


「いやいやいや・・・。」


 なんとか解放してもらおうと説得したいところなんだが・・・。


「身体は大丈夫でも、目が見えないのは大変だから・・・。」


「その通りではありマスが・・・。」


 俺が逆に説得されてどーすんよ。


「とりあえず、今日はここで野宿するから、イクミは夕食まで休んでていいよ。馬があるから、明日中には皆の所へ戻る事が出来るはずだよ。」


「マジ?もうそんなに進んだのかぁ。」


 これでドルテを、エルフを救える・・・。

安心したせいか、早くも新しい睡魔に襲われて、また意識を・・・。

次話で第Ⅱ楽章終了です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ