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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
48/54

第46曲:誓ノ月

 ここまではバッチリな気がする。

逆に上手く行き過ぎて怖い。

よくあるパターンとしては、この後は大ピンチの到来なんだが・・・。


「とは言え、追手が来るのも時間の問題だろうなぁ・・・。」


 二人はうまくやってるだろうか?

出入口にアルムはいなかったし、見張りの兵すらもいなかったから、今のところは失敗してないんだろうなぁ。

ノリスのおっちゃん、アルムに会えたかな?


「とにかく急ごう。」


 本当は俺が陽動なりなんなりしなきゃいけないところだ。

本来の目的は、ノリスのおっちゃんを連れ帰るだけなんだから。

それなのに俺が一番戦力にならないとか、もぅ・・・。


「いたぞ!」「追え!」


 街の外へ通じる門へと急ぐ俺達の背から、複数の声が聞こえる。


「あ、やっぱり。」


「待てェッ!」


 まぁ、普通に考えたら、待つワケないわな。

幸いなのは、追手の足が馬とかじゃない事くらいだけど。


「スフィールさん、走るよ!門まで!」


 と言っても、お城の侍女と訓練された兵士の足じゃ、比べるまでもない。

ここは格好良く、先に行って!とか言ってみたいんだけど、門はきっと俺じゃないとどうにも出来ない。


「だぁぁーッ!こういう時は、かっちょよく"騎兵隊"が出て来るのが定番だろォ!」


 ・・・・・・。

・・・・・・叫んでみるもんだね。


「イクミッ!!」 「アンソニー!」


 追いかけている兵士の先頭集団、そいつらを軽く蹴散らしながら、馬で現れるアンソニーの颯爽たるや。

しかも、このタイミング。

まさか横で狙ってたりとかしてなかっただろうなぁ?ってなくらい。

いや、本当に狙ってたらキレるけど。

まぁいい、許ス!


「アンソニー、彼女を!」 「手を伸ばせ!」


 追手を追い抜いて、ぐんぐんと迫ってくる馬。

馬上からアンソニーが手を伸ばす。


「スフィールさん、行って。俺の足だけならなんとかなるから!」


 少なくとも、彼女より一緒に走るよりは大分マシだ。


「それっ!」


 スフィールさんの手をすれ違いざまにがちりと掴んだアンソニーは、力任せに彼女を馬の背へと引き上げる。


「イクミ!」


「ま、なんとかなるっしょ。」


 門に向かって走りながら、俺は苦笑する。

どんどん遠ざかっていく二人の顔を見ながら・・・。


「イクミッ!後ろだ!」


 後ろ?

まさかもう追いつかれるのか?

何て死亡フラグ?


「イクミ!手を!」


 この声は・・・?

振り返ると・・・。


「アルム!それにノリスのおっさん!」


 二人の乗っている馬が、こっちに迫ってくる。


「君も早く!」


 手を伸ばしているのは、ノリスのおっさん。


「って、三人乗り(ケツ)かよっ!」


 一頭の馬に男三人でとか・・・。

アンソニーは騎士だもんなぁ、姫と騎士ってのは組み合わせ的に最強(?)なので、仕方ないか・・・。

うぅむ。こっちで我慢しておく事にしよう。


「よいさっ!」


「ぐぬっ、す、すまん!」


 あっちは颯爽と馬に乗ったというのに、こっちは最悪。

これも騎士との力の差か、おっちゃんの力では俺を完全に馬の背には乗せられず、馬の横っ腹にしがみつくカタチに・・・はっきり言って、ダサっ!


「門まで行ければいい!あだッ?!」


 馬の揺れに舌噛んだ。

ガチッていったよ!ガチッて!はひぃ~。

そんなんでも身動き出来ずに馬の腹にしがみ付かなきゃならんなんて・・・。

門まではあと少し。

三人乗りの馬じゃ、先行している二人乗りのアンソニーには追いつけないけど、それでも後方の兵士達からは確実に離れている。

アンソニーもアルムも、それにノリスのおっさんも怪我をしている様子はなかった。

ま、ノリスのおっさんなら治せるしな。

あとは俺が充電を吐き出すだけだ。


「おっさん!門の前に俺を投げ捨てろ!」


 舌の痛みを堪えて叫ぶ。


「しかし!」


「イクミの言う通りにしてください!」


 痛みで涙目の俺の代わりにアルムが声を上げる。

ナイスフォローと思ったのも束の間、俺の身体がフワリと一瞬だけ宙に舞う。

そして、重力、天地回転、ぐるぐるぐる~。


「んげっ。」


 地面に投げ出された衝撃を和らげる為には、転げまわるしかないのは解るんだが、今の俺、最高に格好悪ィ。


「・・・ちょっとは俺に見せ場をくれよ!」


 心の中でサクの名を呼び、俺は振り返る。

睨みつけるは、この街の外へと繋がる門。

その全てを把握する。

本日二発目。


「いっけぇーッ!」


 赤錆にまみれた鉄門を蹴り飛ばして、更に上へと飛ぶ。

ギリギリ手の届く範囲にその点があって良かった。

というより、デトビアの鞭の時といいラッキーかも。

一点向かって手を伸ばす。

門の外へと出る為に。


「イクミ!終わったら馬に乗れ!ノリスさんは手綱を。次はエルフ達を外へ出します。ここはオレに・・・任せろ!」


 馬上から、さっきの俺と違って華麗に飛び降りたアルムが促す。


「アルム、オマエ・・・。」


 アルムの腰にさされた大小四本の剣。

彼はその剣で・・・。


「こんな時まで、オレの心配かい?オレはオレのすべき事をするだけだよ。だから、イクミ、頼んだよ?」


 俺がすべき事を。

そう言うアルムは颯爽としていて、素直にかっちょイイと不覚にも思ってしまった。


「了解。」


 俺が片手を上げて、まだ少しぐるぐるする頭でそれに答えると、ノリスのおっさんの乗っている馬へと向かった。

俺のやるべき事の為に。

まぁ、アルムがかっちょいいのは、元々皇子様だという差だと思う。(苦笑)

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