第43曲:手をつなごう
「イクミ君、君はどうするのかね?」
ノリスのおっさんは包帯を外す俺にそう聞いてくる。
う~ん・・・おっさんがさ、デトビアの権力に便乗してたってんなら、こんな気持ちにならなかったと思うんよ。
「大丈夫。ちょっくら用事が増えただけ。想定内っス。」
いけね、微妙に口癖の設定が定着しそうになってるよ、俺。
包帯を解いて、中に隠していたナイフをケースごと背中側の腰につける。
「用事というと?」
「う~ん、スフィールさんも連れて行きたいからさ、許可を取りに?一言だけ言いに?寧ろ、ブッ飛ばしに?」
デトビアが命を手駒、カード・・・消費物としか思ってない事をまざまざと見せつけられるとさ、やっぱりこれは俺の役目かな?と。
この場には、アルムもアンソニーもいないわけだし。
「んじゃ、おっさん。身体がキツいと思うけど、扉を開けたら振り向かず全速力で。」
頷くノリスのおっさんを確認すると、スフィールさんが待機しているだろう扉を開く。
「やぁ、スフィールさん。デトビア様の部屋はこっちかな?」
「あっ。」
俺の姿を見て、小さく声を上げるスフィールさんのリアクションを華麗にスルーして、部屋に来る道とは逆の方向に早足で向かう。
「いやぁ~、快調快調~。」
歩いてすぐの曲がり角。
単純に考えたら、領主の部屋って最上階ってのがセオリーだよなぁ?
う~ん・・・。
「スフィールさん、領主様の部屋、何処?」
ちなみにノリスのおっさんの姿はもうない。
俺がスフィールさんの注意を逸らしているうちに、俺の来た道を下の階へまっしぐら。
「勝手に出歩かれたら困ります。」
「うん、だから教えてくれる?」
目も見えるし、変な言葉遣いもしなくていい、この爽快感。
エンジンかかってきたよォ。
「私がお呼びしますから。」
「うぅん、そんな必要ないよ。」
もう必要ない。
そんな表情して、付き従い続けなくてもいい。
「いいえ、これは私の仕事・・・。」 「必要ない!」
イチイチ俺の心を逆撫でるんだ、君は。
「ようやく君の顔をちゃんと見られた。やっぱり綺麗じゃん。たとえ、身体が傷だらけでも。」
これが、デトビアがエルフを食いモノにしていたっていう確信。
彼女の傷、一部しか見えなかったけれど、あの傷跡の角度はデトビアの身体にうっすらと残った傷の角度と一致する。
傷、エルフの血、幽閉状態の治療士。
ここから導き出したのは・・・。
「デトビアは、君達の血を呑み、皮膚を移植しているんだろ?」
肩がビクリと動いた。
何が彼女の心を凍りつかせたかと考えたら、"絶望"なんだと思う。
羽根があっても飛べないのはさ、本来あるべき姿と程遠い。
あれだ、飛べない豚はただの豚って・・・あれ?
・・・なんか、もぅ、頭ゴチャゴチャしてウザいな。
「あぁ、面倒。スフィールさん、何も喋らないでいいや。いい?俺は今からデトビアから君を奪う。やってる事は、あのババアとたいして変わらないかも知んない。でも、決めた。君をここから連れ出す。」
うんうん。
どうも、なんだ、大義名分的なヤツは俺に合わない。
大体、好き勝手やる為に旅に出たんだしな。
この方が、"俺の"精神衛生上いい。
「あぁ、さっき喋らないでいいって言ったけど、そういうワケだから、デトビアのトコには案内してな?」
俺は黙り込んだまま、俺をじぃっと見つめる彼女に手を差し伸べる。
女性の扱い下手だなぁ。
演技したり、変な設定作ってやってみたり・・・。
アルムだったら、もっと上手くやっただろうか?
アイツ、人の心を掴むのが上手いというか。
そういえば、クラスメイトにも『女心が解ってない!』と何度言われた事か・・・。
「本当に?」
スフィールさんがようやく返事する。
何が本当になんだろ?
「本当にあなたは私を?」
「ん。貴女をあの青き空の下へ。って、もう外は夜か。」
う~ん、格好がつかないなぁ。
「ま、大丈夫。何もかも薙ぎ倒せるよ、今の俺なら。さ、デトビアに会いに行こう。」
俺は彼女の手を握り締める。
「終わったらさ、ゆっくりと話そうね。」
本当は話さない方がいいんだろうな。
話したくない事だってあるだろうから。
若いエルフや子供のエルフを捕まえて、好みの部位を移植している奴の所に彼女がいた。
でも、彼女はエルフじゃない。
特徴的な耳もない・・・だから、余計に気になった。
デトビアやエルフの美しさ、外見に執着しているはずだ。
なのになんで、スフィールさんの皮膚を移植した?
確かに彼女は、美人だけれどさ。
答えのヒントは、ノリスのおっさんがくれた。
"エルフに共感した息子"。
スフィールさんは・・・ハーフなのかも知れない。
人間とエルフの・・・。
これで頭の悪い俺にも、しっくりと来たんだね。
これなら、全部説明がつく。
あとはデトビアの動機くらい・・・かな。
どうせ、ロクな理由じゃないんだろうけどな。
「"初めまして"領主殿。」
次回、遂に本来のイクミと領主の対面!