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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
42/54

第40曲:釣りに行こう

「どうかなさいました?」


 翌日の夕暮れ時、昨日よりは少し早い時間に俺を迎えに来たスフィールさん。

彼女は、ピクリとも表情を変えないクールさを発揮してきた。

この無表情・無口さは、自らしているのか、そうせざるを得ない環境だったからか。

どちらにしろ、タチが悪いか。


「それはデトビア様に会った時に説明するっス。」


「そうですか。」


 自分に与えられた務めにしか興味がないのか、それっきり突っ込んでこなかった。


「ところで、スフィールさんは昨日と同じ服装っスけど、同じの沢山持ってるっスか?


 俺達庶民は、下着以外着たきりスズメに近い状態だが、彼女は貴族に仕えているんだぜ?

特にデトビアは、がけ印に拘りそうだから、特に。


「・・・参りましょう。」


 あっさりスルーされますた、くすん。

元から女性に聞く事じゃないか。

苦笑しながら、彼女に引っ張られて行く。

現状だが、既に宿は引き払った。

女将さんには直接言った訳じゃないが、宿泊した代金と同額を追加で部屋に置いてきたので、帰らなければ察してくれるだろう。

昨日と同じ道具に、金属バットと木刀を入れたケース。

それ以外の荷物は全てアンソニーに渡した。

アンソニーは昨夜決めた事を実行する為、朝から活動している。

アルムは完全武装をして、こちらも俺より先に宿を出た。

今回は誰が欠けても成功しない。

引き鉄を握っているのは俺。

俺のタイミング次第だ。


「あ・・・。」


「なにか?」


「いえ、なんでも。」


 城に行く途中で、視界に一瞬だけ入った。

辺りは既に暗くなり始めているけど、あの姿はアルムだ。

全く、人の事を心配して、わざわざ自分がいる事を表に出す必要あっかねぇ?

心配性にも程がありますよって・・・いよいよ、城の中へ入る。

例の裏口から・・・T字路。

チラリと明かりの灯されていない暗闇の先を見つめる。

一度、それを認識すると、それ以外は感じない。

・・・血・・・酸化してゆく錆びた鉄のような血の匂い。

スフィールさんに手を引かれたまま、階段を上る。


「昨日と同じように、この部屋でお待ち下さい。」


 やっぱり無表情。

でも、俺は垣間見た事がある。

彼女の人間味ある表情を。


「スフィールさん。」


 なんかねぇ・・・。

なんか、俺ってやっぱり我が儘なんかね?


「スフィールさんもやっぱり綺麗な人なんスよね。」


 俺の言葉に対して、じぃっと見つめてくる彼女の目を・・・しっかり見つめ返した。


「・・・では。」


 リアクションも何もなく、パタリと閉じる扉の音あして、俺一人残される。


「・・・バレたかな?」


 思いっきり見つめ返しちゃったもんなぁ。

でもなぁ、ずぅっと嘘だらけってのも、ね。


「ホント、ダメなにぃちゃんだなぁ、俺。なぁ、サク?」


 あまりにも我が儘過ぎて思わず天を仰ぐ。

仰いだとこrで、何が見えるわけでもなくて。


「でだな、サクちゃんや・・・お兄ちゃん、昨日も言ったけど・・・"使う"かんな?」


 あれだけ、この世界への干渉が云々とか、異邦人だとか言っていたのは何処へやらだ。


「人間て、強欲だよなー。ま、自分に正直っつー見方もあっけど。」


 止まる事を知らないソレは、いつかその身を焼き、破滅をもたらし、地獄へ堕ちる・・・て、何の本だっけか、サクよォ。


「待たせたわね。あら?」


 入って来たデトビアはスフィールさんと同じ視線で俺を見る。

何処をって?見ているのは、俺の腕。


「申し訳ないっス、デトビア様。不注意にも、商売道具がこうなってしまって・・・どうにもこうにもっス。」


 俺は包帯でぐるぐる巻きにされた片腕を、彼女の眼前で振ってみせる。

そして・・・。


「いやぁ、デトビア様に合わせて調合した品を、折角用意したってのについてないっス。」


 心の中では、喰いついて来い!喰いついて!と。


「これじゃあ、数日は無理っスかねぇ。」


 頼むよ、強欲のデトビア様。

アンタは美の為なら、手段を選ばないんだろ!


「数日も?」


「あ~、まぁ、これから近くの街に行って、"治療士を頼む"か、お金もかかるので自然治癒か、どちらにしてもそんなとこっスね。本当に申し訳ないっスけど。」


 だから、会わせろって!

いるんだろう?

ここにアンタのお抱えが!


「治療士?」


「治療士っス。あぁ、でもさっきも言ったように、法外な額を取られるとなると無理なんスけどね。」


 来た来た。

目先のモノに喰いつくと思ったよ。

アンタは、自分の為に使う分にはドカンと投資出来るタイプだ。


「あなた、運がいいのね。私もだけれど。」


「はぃ?」

 もったいぶっているデトビアに対して、俺はワザとらしく聞き返す。


「この城に治療士がいるの知っていて、そういう事言うのね?いいわ、"特別に"呼んでアゲル。」


 どうやら、スフィールさんを遣いに出してくれるようだ。

全くいい根性してるよな、恩着せがましく"特別に"とかさ。

最初に出会った時に、俺の見えない(設定)の眼を治してやろうとか、一欠片も思わずにいたくせに。


「本当っスか?!いやぁ、流石、デトビア様、心がお広いっス。」


 あぁ、もう、なんかウゼェ。

現代っ子はキレやすいんだじょ。


「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂いて、終わって準備が終わり次第、またご足労頂くでよろしいっスか?」


 ともかく治療士と一対一で話せる状況を作り出さないとな。

その為には、一時的にしろ、退場して頂かなくてわ。

しっかし、綱渡りの作戦だな、オイ。

デトビアが解り易いくらい強欲な性格で良かった。

俺が思った以上だったけれど・・・人間って・・・やっぱ、うん。


「そうしてちょうだい。」


「はい。その代わり、今日のお代は結構っス。」


 ちょっぴり惜しいが、強欲は身を滅ぼすので・・・。

ま、しばらく街に行く事もないだろうし。


「うふふ。殊勝な心がけね。可愛いわ、アナタ。」


 えぇ、同じ強欲でも、俺は"金より命が大事"なんでね。

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