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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅰ楽章:皇子は再び旅立つ。
4/54

第3曲:God Knows・・・

「何処んチも、大なり小なり色々あるか・・・。」


 ここで一服とかしたいトコなんだが・・・喫煙は成年になってから、貴方の健康を害する恐れがありますっと。


「・・・弟のツッコミがないってのも考えものか?」


 まー、しゃーねぇか、そんだけずっと近くにいたんだし。


「一発で行けるかなぁ。」


 とりあえず、目の前の心配でもすっか。

これから、俺達は命の危険に晒されるんだしな。


「待たせた。」


 意外とすっきりした表情でトウマがやって来る。


「早かったな意外と。」


 ズタ袋を肩に背負っている姿が、ヤツの美形と全然似合わんのは、突っ込まないでいてやろう。


「元々解り合えていたからね。」


「そんなもんだよ、家族っつーのは。」


 俺達は笑い合う。

似たもの同士の関係を。


「それで、どうやってオレは帰るんだ?確率は低いんだろう?」


「なぁに、低いって言っても、別に失敗して死ぬとかじゃない。ただ、オマエが望む場所に出られるかどうかって事さ。」


 それが俺と弟サクとの二人だけの秘密。

そして、今日からは三人の秘密になるってな。


「どういう事だ?」


「説明が面倒。何処に流れるかは、神のみぞ知るってコト。」

 ショルダーバッグの中から、サバイバルナイフの入ったケースを取り出し、腰のベルトに通す。


「いい加減な。」


「神って言ったけど、意外と俺等、運あると思わねぇ?だだっ広いだけの世界でさ、この二人の組み合わせじゃないと、こうはならなかったんだぜ?」


 でなきゃ、未だに互いにうだうだしてたに違いない。

そういう意味で、俺達はツイてる。


「一理あるな。」


「だろォ?んじゃま、張り切って行くか!」


 俺はそのまま歩いて、海の中に入って行く。

トウマは黙って、それについて来ている。

そうこうして、膝上まで海に浸かった所で深呼吸。


「そんじゃ・・・【映し出せ・・・世界の歪み、その境界を・・・】。」


 高揚。

全知全能感。

世界の全てを俺の瞳は映し出す。

これが本当の俺。

なんで、こんな力があるのかは知らない。

考えても解るはずがない。

ただ、この力があったから、俺は弟を救えた。

こんな力があったから、俺は弟から離れる。


「やっぱり・・・ここか・・・。」


 海面に一本の歪んだ線。

これがこの世界の境界。

ある日、俺はこの世の全てにソレが視えるようになっていて、その線、或いは点に力を込めると、あっけなくその物体は壊れた。

そして、今、眼前にあるのが、世界と世界の境界線。

俺がこの場所に感じた違和感の正体。

腰からナイフを抜く。

ちなみに、世界が壊れるなんて事はないから大丈夫だ。

昔、"一度だけ"そういう実験した結果、裂き開いた次元の穴はすぐに塞がった。

多分、それくらい、世界は俺に対して大きいってコトなんだと思う事にしている。



「行くぞ、トウマ。俺が合図したら飛び込めよ?って、なにしてん?」


 トウマがいそいそと自分と俺の間をロープで縛って繋いでいる。


「経験上、はぐれ易いから。」


「そりゃ、助かる。」


 突然に変な趣味に目覚めたワケじゃなくて。


「それじゃあ、一思いにヤルか。」


「まるで自殺志願者みたいな言い方だね。」


「どっちにしろ、正気の人間・常識人のやるこっちゃねぇだろ?」


「確かに。」


 緊張は特にない。

心配も同じようにない。

あるとすれば、俺がいなくても弟がちゃんとやっていけるかだ・・・。

深呼吸一つして、ナイフをその線に這わせる。

この眼の状態は、そう長くは維持出来ない。

俺の"今の身体"じゃ負荷が強過ぎるから。

力を籠めず、線を撫でるくらいの速度で、ゆっくりと・・・。


「開くぞ・・・。」


 プラズマのような放電現象スパークがあったり、上空に暗雲が立ち込めたりとか、そんな異常現象とかもなんもなく、至って地味。

ぱっくりと開いた先にあるのは、真っ暗闇の世界。

海の水は、その空間に流れ込む事はなく、まるでそれが存在していないかのように寄せては引くを繰り返している。


「イクミ、自分を強く持つんだ。」


「流石、経験者。」


 トウマは漂流者。

違う世界からやって来た。

つまり、それは、この闇の先に違う世界が存在しているという証明。

しっかりと互いに頷くと、その闇に身を躍らせた。

はっきり言おう。

この"次元を渡る"という行為は何度もしたくない。

出来れば、一発でトウマのいた世界に辿り着きたい。

いや、マジで。

・・・あー、誘った手前、トウマの世界に辿り着くまで、何度でもやってやるけどな・・・。

あー、あー。


「ちくしょうッ!」


 力の限りそう叫んで、俺は気を失いそうになる。

トウマは自分を強く持てって言ったが、奇妙な感覚が少しずつ消えていき、代わりに感じ慣れた重力が戻ってきているから、きっと大丈夫だろう。

腰に結ばれたロープ、その先の感覚もある。

それをしっかりと確認して、結局、俺は今度こそ完全に気を失った。

どんな世界が待っているか、それは神のみぞ知るって・・・本当にいんのかね、神様。

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