第2曲:真実と幻想と・・・(トウマ視点)
堂上 郁実。
彼と出会ったのは、この海だった。
海には惹かれるものがある。
ずぅっと眺めていたいくらい飽きない。
そこに理由なんていうのはないけれど。
『そんなに見詰めたって、帰れないぜ?』
初対面、開口一番がソレ。
でも、それは実に適確だったりする。
何故ならオレの本当の居場所は、ここではないから。
この地に来たのは、確かに縁なのかも知れない。
けれど、ここにも捨て難いモノがあって・・・。
『確率は低いかも知れないけど、俺ならアンタを帰せるカモ知れない。どうよ?一緒に来ないか?』
揺れた。
置いて来た人達、大切な人達への愛情で、心が・・・でも・・・。
「ただいま、姉さん。今日は友達を・・・て、姉さん?」
再びオレを迎えに来たイクミを連れて、もう家と呼べるくらい親しんだ建物に入ると、部屋中が散らかっていた。
「あ、お帰りなさい。」
非常に簡素なワンピース姿の女性が奥から出て来る。
「というか、この有様は・・・?」
今なら強盗が入ったと言われても頷けるくらいだ。
「準備よ、準備。」
さっぱり解らない。
「考えてみれば、流れ着いて来たんだから、何時かは旅立たなくっちゃね。」
首を捻ってみせる目の前の女性の言葉に軽い眩暈を覚える。
残して来た方の姉を思い出して・・・。
「オレは・・・。」
「いーの、いーの、私の事なんて気にしなくて。私はもう大丈夫だよ?」
やっぱり姉という存在は凄い。
なぁ、もういいんじゃないのか?
思わず、心の中へと強く念じてしまう。
これはオレの癖だ。
「トウマ、俺、外、出てるわ。」
イクミも兄弟、弟がいるらしい。
だからか、気を利かせて、外に出て行った。
「"二年も"一緒にいてくれたんだもんね。弟の考える事なんて解る。本当は"トウマ"って名前も偽名なんでしょ?」
違う!
・・・違う・・・違うんだ。
「二年間、すっごく楽しかったよ?弟が、"トウマ"が帰ってきたみたいに・・・でもね、トウマは死んじゃったの。もう帰って来ない。」
生きてるよ・・・トウマは・・・オレの中に。
今のトウマは、オレの永遠の相棒で、切り離せない半身なんだ。
トウマが、自分の魂を使って、オレを生かしてくれたから・・・だからオレは!
「寂しいけど・・・でも、アナタと会えた。」
「オレは姉さんを・・・独りにしたくない。」
本音だ。
出来る事なら・・・。
「ダメ。それじゃあダメなの、解るよね?」
困ったような笑顔を見ると、さっきイクミに言われた事を思い出す。
"優しさ"と"我が侭"か・・・。
「大丈夫。私はもう一人でも歩いていける。トウマが生きてきたってコトは消えないし、私の胸の中には、何時もそれがあるもの。勿論、もう一人の弟のアナタの思い出も。」
「今日が、自立と旅立ちの日・・・そうなんだね?」
オレの確認にゆっくりと頷く姉。
トウマ、どうやら、君の所の姉も強いらしい。
「姉さん・・・オレはね、これだけは絶対に胸を張って言えるよ・・・。」
身体が内側からほんのり温かい。
「オレもトウマも、貴女と出会えて、貴女が姉さんで、本当に幸せだ。」
あえて過去形なんて使わない。
使う必要がオレ達にはない。
「ありがとう。私もアナタ達が弟で幸せだわ。」
きっともう二度と会えないだろう・・・だから、オレはこの姉の顔をしっかりと覚えておこうと思った。
少し、細くてタレ長な瞳も、長くて綺麗な黒髪も、温かさも優しさも全部。
「さぁて、何が必要かな?荷造りしなきゃ。」
そう言って、背を向ける彼女に向かって、オレはもう一つ言わなきゃいけない事を口に出す。
「"アルム"。」 「えっ?」
きょとんとした表情がオレを迎える。
「本当の名前。アルム・ディス・ヴァンハイト。そして・・・。」
これでオレの魂の旅は完結する。
「貴亜さん。貴女の弟が最後に、その命を懸けて救った人間です。」
ようやく言えた。
トウマ自身は病死だったらしいけれど、彼の魂はオレの命を繋ぐ為にオレの魂の中へと同化していった。
「だから・・・オレも、トウマの生きた証なんだよ。」
それが言えただけでも、ここに流れて来た価値はあった。
「・・・ありがとう。」
どちらかとともなく、その言葉を述べて、オレと姉の貴亜さんは、最後の抱擁をかわした。
第1シリーズを読んだ方には、『キターッ!』という展開ですが、まぁ、これだけはどうしてもね、入れたかったシーンなので・・・。
初見の方はそういうキャラ設定なんだと思ってスルーして下さい。(マテ)
追々、明かされていきますので。