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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅰ楽章:皇子は再び旅立つ。
24/54

第23曲:PRIDE(アルザック視点)

ギブ・ミー・チョッコレート♪

いや、お約束かなと思いまして。

「そんな・・・。」


 私の横でアンソニーが絶望の声を上げる。

彼は私が今まで会った若い騎士の中でも、騎士に必要な最たる資質を持っていると同時に、最も騎士に向かん男だ。

だが、その彼の今の反応を見るとだ。


「普段はああいう人間には見えなかった、という事だな?」


 呆然とするアンソニーの返事はない。

だが、私は驚きはしない。


「あれも人という存在の本質の一つという事だ、覚えておけ。」


 私達の視線の先に黒い影が躍る。

猛然と・・・猛然とだ。

一直線にこちらに突っ込んでくるのは、アンソニーよりも年下の黒髪の少年。

騎士でいうところの従卒者級の若さだ。


「彼が様々な策を仕掛けた人間の片割れか・・・。」


 あの若さで、あれだけ使えるのなら、最速で騎士になれそうなものだ。

しかし、その策を練った人間にしては、拙い。

本当に彼がそうなのか?


「イクミ!」


 アンソニーが叫ぶ。

イクミ?

それが彼の名か?

猛然と進むイクミという少年の前に、私の部下が立ちはだかり、次々と彼に襲い掛かっている姿が見える。

・・・全く、私が何時、彼を迎撃しろと命令を下したというのだ?

呆れて物も言えん。

だが、その分、彼を観察する機会が出来た。

動きを見たところ、戦闘経験というものは無さそうに見える。


「?!・・・あれはなんだ?」


 彼を襲っていた者達、何人かの鎧が砕けた?

違うな、霧散したように見える。

そういえば、動きは全く素人だが、身体に傷らしい傷は見当たらない。

既に30人は彼の相手をして倒されているというのに。

彼には、剣も槍も届いていないという事か・・・さて。


「アンソニー、来るぞ!」


 この人数を相手にもうここまで来るとは、デタラメな早さだな。


「だが、やらせん!」


「イクミ!」


 我が身で実証してみるしかない。

腰から抜いた剣を彼に振るう。


「・・・ッ・・・どけ。」


「剣が届かないというわけではないか・・・。」


 刃は彼の肩口に深々と突き刺さった。

肉に刺さっているという感触もある。


「隊長!イクミ!」


「・・・邪魔を、するなよ。」


 "真紅の眼"を輝かせながら、ゆっくりと彼は自分の肩口に手を伸ばす。


「退かないと言ったら・・・どうする?」


 特に"どいてやれない理由はない"んだが・・・。

どうしたものか。


「こうなるだけだ。」


 剣が刺さっているにも関わらず、表情を一つ変える事無く無造作にその刃を掴み、そのまま握り締める。

どういう仕掛けだ?

彼が握った部分の刃が、消えていく・・・。

そして、パシィッという乾いた音がしたかと思うと、剣が完全に私の手から消えた。

やはりそれは、霧散したように見える。

これが部下達の鎧を消したなにかという事か。


「次はオマエがこうなる。」


「イクミ!やめてくれ!」


 私と彼の間合いに突っ込む機会を計っているアンソニーの声が響く。


「アンタも動くな。」


 ギロリと血のように紅い眼で、アンソニーを睨む少年。

よく見ると、先程私が指した傷口が、渦状に蠢いていて・・・そして・・・消えた。

"傷口"ごと。


「バケモノめ。」


怪物バケモノ?俺が?」


 人間としては反則だとは思わないか?

その力は、圧倒的というより、デタラメ過ぎる。


「だったら、同じように力でエルフを虐げるオマエはなんだ?オマエ達はそうならない存在だとでも思っているのか?」


 その通りだ。

だから、人はいとも容易くこの様な愚かな行為に走る。


「頼むイクミ!やめてくれ!」


「アンソニー!」


 ようやく硬直も解けたアンソニーが私達の間に割り込んでくる。

眼前の少年を押しとどめるように、その両手を広げて。


「頼む・・・この人は自分の恩人なんだ。」


「どけ。」


「どかない!」


 まさか、アンソニーがここまで私に恩を感じてくれているとはな。

少々、照れくさい。

彼の誠実さには、私も感服する。


「・・・なら、アンタも俺の前からキエロ。」


 少年の手がアンソニーに向かって振りかざされる。

いかん!

咄嗟に私の前にいたアンソニーの腰から下げている剣の柄を握り、そのまま、力任せに下から振り上げる。

少年のあの奇妙な腕さえ切り落とせれば!


「イクミ!」


 次の瞬間、私が放った剣が甲高い音ともに止まった。

そして少年の手も。

この二つを止めたのも、同じ一本の剣と一本の手だった。


「ダメだ、イクミ。」


「・・・アルム。」


 少年がアルムと呼んだ彼が、私の渾身の剣を受け、少年の腕を掴んで静止させている。

剣は、部下の持っていた剣を拾って振るったようだ。


「何を、やっているんだ?」


 厳しい口調で、アルムという黒髪の青年が、もう一人の少年、イクミに問う。


「コイツ等が・・・ドルテを・・・。」


 この黒髪の二人が、我々と戦った相手。

ふと、惜しいな。

そう思ってしまうのは、私が年を取ったという事だろうか。

この二人がもし部下にいれば、と。


「トルテさんはまだ生きている。瀕死だけど、辛うじて。」


「え・・・。」


「それでも、彼等を、誰かを殺さないと、そうでなきゃ気が済まないというのなら・・・オレが殺してやるから。」


「?!」


 戦闘経験がないだろう、イクミというこっちの彼の比べて、この青年はデキる。

この身体中の皮膚がヒリつく感覚。

恐らく本国の騎士並みに・・・。

いや、或いは。


「・・・すまん・・・アルム。」


 振り上げられたままの腕から力が抜け、ゆっくりと降りてゆく・・・。

気づくと、彼の瞳の色が真紅から黒になっていた。

どういう原理だ?


「そっちも剣を引いてくれ・・・。」


「そうしたら、君達は退いてくれるのか?」


 剣を納めた瞬間、バッサリというのだけは勘弁願いたい。


「あぁ、ついでに追撃とかもしてないでくれると助かるかな・・・期待はしてないけれど。」


「・・・いいだろう。」


 現状の被害を軽く見渡しただけでもかなりの被害だ、すぐさま追撃するという事にはならないだろう。

もし仮に追撃するとなると、更なる被害を想定しなければならない。

それは士気というものに関わる。

私を見る青年の目の前で、私は剣をアンソニーの鞘に納める。


「感謝する。では。行くよ、イクミ。」


 そのまま背を向けて去ってゆく二人。

背中を丸々こちらに向けるというのが、騎士の私に対する礼儀と信という事か。


「アンソニー。」


「はい。」


「彼等について行け。"本当の騎士"を目指したいというのなら。」


「しかし!」


「大丈夫だ。偵察任務扱いにしてやる。」


 これなら背任にもならずに済む。

一瞬、迷ったような仕草をして、私に敬礼すると、無言で彼等の去った方へと駆けて行った。


「さて・・・私も"本職"に戻る頃合か・・・。」

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