第1曲:出逢ってしまった二人
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どうもありがとうございます。
子供のころ、色々な想像・・・あー、妄想でもいい、そういうのを働かせた事はなかったっか?
自分が寝ている間の世界は、自分が全く知らない世界だったりとか、今の親は本当の親じゃないとか、夢想に近い類でもいい。
俺の場合はただ一つ。
"自分の居場所"だ。
弟の横にいる兄としての俺。
弟がいるから、兄としての俺を実感出来ている。
逆に言えば、弟がいなかったり、それ以外の場所では俺は居場所を実感する事が少ない。
何と表現したらいいんだろう・・・この世界と自分とのズレとでも言えばいいのか。
「で、少年は荒野を目指すってか?」
電車を乗り継いで揺られる事、小一時間弱。
今はバスに乗っていて、眼前には先ほどから海岸線が見え隠れしている。
断じて荒野ではない。
子供の頃、毎年のように母親に連れて行ってもらった場所。
昔からこの海に惹かれるモノがあった。
その正体が単なる"違和感"だと理解したのは、つい最近。
高校で新しく出来た級友と、ゴールデンウィークに来た時だった。
別にそれだけでここに来たワケじゃない。
「まだ肌寒いな。」
バスから降りたら徒歩。
正直、正直、"アイツ"に会わなければ旅に出ようなんて思わなかった。
弟との人間関係、俺の特殊性、そしてアイツとの出会い。
この3つのせいで、俺は現在に至る結論・行動をする事はなかっただろう。
「オイ、泳ぐにはちと早ぇんじゃねぇか?」
砂浜にぽつんと一人座り込んで水平線を眺めている、その人物に声をかける。
「そっちこそ、一人で泳ぎに来た割には、荷物が多くないか?」
にこやかに微笑みかけるその表情には覇気がない。
いや、生きる気力すら感じられない・・・と、俺は思う。
ちなみに現在の俺の装備は、細長いエナメルのバッグと同じくデカいショルダーバッグ。
「あぁ、海を渡る割には軽装だろ?」
俺は目の前の人間に手を差し伸べ、立ち上がるように促す。
俺より少し高い身長・・・ぐぬぅ・・・170cmはありやがる・・・。
黒い髪に黒い瞳。
いや、左目だけが僅かに色素が薄い。
「で、どうだ?決心はついたか?」
「う~ん・・・まだ・・・かな。」
初めてコイツに会った時、俺にはある種のシンパシーを感じたんだ。
コイツも自分の置かれた世界に違和感を持っていると。
「まぁ、気持ちは解らんでもないがな。誰だって人生の岐路とかそんなのって、悩むもんだし。」
コイツが俺の選んだ旅の相棒。
「問題は特にないんだ。どうしたって、なにをしたって後悔は生まれる。しても後悔、しなくても後悔なら、絶対にして後悔の方がいい。」
「まぁな。」
どんなにこの世界に居場所が少なかろうと、そこに居た、在ったという証は残るし、繋ぎ止めるモノもある。
俺に弟の美咲がいるように。
「でもね、やっぱり・・・。」
問題はコイツにだってある。
「姉さんか・・・俺だって、弟がいるからなぁ。」
その弟は、今朝あっさり旅立ちの挨拶を済ませて、さっさと登校して行ったけど。
・・・引き止められたとしても、考えは曲げないんだが、そこはやっぱり双子だからなんだろうな、コレ。
うん、ツーカー。
って、夫婦かっ!
「もう少しだけ待ってくれないか?」
「そりゃ構わないけど、待ったからって決められんのか?」
「どのみち、ずっと一緒にここにいられないというのは解ってたんだ。ただ・・・あまりにもここ"も"居心地が良くて・・・。」
美形って得だよな、何しても格好いいんだからさ。
流石、神様、世の中を見事に不公平に創ってらっしゃる。
不公平に創ってあるから、自分の力でのし上がれるんだな。
「違うだろ?姉さんをまた独りにしたくないだけだろ?優しさを我が侭にすりかえんなよ。」
悪いヤツではないんだよ、うん。
「郁実も来るかい?」
「ん~、俺、弟を横から掻っ攫う悪い女みたいな立ち位置になってないか?修羅場は御免だぞ。」
刃傷沙汰とかも・・・しかも、男同士って、イマドキ三面記事にすらなりゃしない。
「心配性だな。」
「オマエに言われたくない。」
どう考えても無用な心配をしているのは、コイツの方だ。
「・・・わかったよ、一緒に行ってやるよ、"トウマ"。」
在るべき場所に帰るってのは、難しい事なのかね、どうも。
「ありがとう。」
「何度も言うえどな、コレは互いにメリットああるから、一緒に行くんだ。礼なんていらんし、無理に連れて行こうって思ってない。」
どちらが不幸・不利益になる為の旅じゃないんだ。
俺はただ、自分も弟も、そしてトウマも、自分を考え直す為に・・・。
トウマ・・・トウマ、何処かで聞いた名前ですね?(苦笑)