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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅰ楽章:皇子は再び旅立つ。
19/54

第18曲:Belieave

「・・・何故助けた?」


「あ゛?」


 結局イライラが完全に治まらないまま、生活拠点と化しているイリアさんの家にリルちゃんがいて、男三人+ドルちゃん、イリアさんと戻って来た。


「助けた?んなつもりはナイ。」


 俺は男に指をつきつける。

どうしてもイライラが治まらん。

弟がいれば、俺を諫めたかも知れない。

止めるわけじゃないぞ、あくまで言い方を改めさせる程度だ。


「あーあーあーっ!納得出来ん事を納得できんと言ってるだけだ!」


 それの何が悪いってんだおーっ?!


「俺からしたら、アンタ等のやってる事も納得できねぇ。だが、それに対して同じ手段に出るのが正しいんか?んなわきゃない、んなコト思えるか、ゴァラッ!」


「イクミ、落ち着いて。言いたい事は解ったから。リルちゃんが怯えてる。」


 ・・・温度が一気に下がりますた。

そうだな、少なくともリルちゃんは悪くない。


「・・・ごめんな。」


 俺はその小さな怯える少女の頭を優しく撫でる。

くすぐったそうに安心する彼女を護りたいと思ってしまうのは、過保護だろうか?


「・・・君達は、エルフと仲良く出来るんだな。」


「は?」


 コゲ茶のツンツン髪を無造作に後ろに撫でつけた髪型。

少し鋭いが、全体的に疲れた雰囲気が身体から滲み出ている捕らわれの男。


「あんなぁ・・・オマエ、何言ってんだ?」


 年は俺より年上だろう。

年上なのにこんなコトも解らんとは・・・情緒・初等教育って大事だな。


「オマエ、エルフと違う言語でも使ってんのか?よっと。」


 小さな声を上げて、リルちゃんを抱き上げる。

この程度のスキンシップはすっかり慣れたもんで、彼女はされるがままだ。


「それは・・・。」


「会話で意思疎通ができんなら、話してみりゃいいコトだろうが。」


 ヤだね、頭のカタいヤツってのは。


「その通り。」


 アルムが微笑みながら、賛同の声を上げる。


「それだけで・・・それだけで仲良くなれるものなのか?」


 男がまるで新発見でもしたかのように目を細めて、眩しそうに俺を見上げる。

まるで、それが教会で懺悔しているみたいだ。


「さぁ?」 「ぷっ。」


 俺の答えに今度はアルムが小さく吹き出す。

コイツ、さっきも吹き出してたよな。


「なんだよ?」


「いや、悪い。そうだな、それだけで友好を築けるとは限らないね。人間同士だって、気が合わない人もいるし。」


「だろぉ?」


「でも、結局のところ、こちらから話しかけない事には、その可能性すら無くなってしまう。」


「流石、アルム。」


 俺は抱き上げたリルちゃんを高々と持ち上げて、くるりと一回り。

話しかけて敵意がないと解れば、もしかしたら友好の道が拓けるかも知れないじゃないか。

だってよぉ・・・。


「リルちゃんだって、こんなに可愛いのにな~。」


 つぶらな瞳が俺を見つめる。

アレだ。

別段、こうしなきゃいけないと杓子定規に考えるのが、もう既にアホらしい。

社会的な立場もあるってのは解るけど、アイニクですね、現在の俺達にはそんなもん一切関係ないのですよ。


「そうだ・・・単純な事だ、単純な。」


 男の表情、その疲れの色が濃くなる。

・・・これが、アルムがコイツを他のヤツと別扱いした理由か。

アルム言ってたもんな、自分に対する殺意が感じられないって。


「アンタ、名前は?」


「・・・アニンソニー。」


 ふむ。


「俺は郁実。こっちが・・・。」


「アルムだ。」


 俺の視線に応え、自ら名乗ったアルムは笑顔だった。

全く、人タラシなヤツめ。


「アンソニー、夕方になったら、オマエを大門の前で解放してやるよ。その後は好きにしろ。それと俺達は悪いが、ここから逃げる。」


「オイ!いいのか、そんな事を言って!」


 俺達の会話をここまで静かに聞いていたイリアさんが、大声を上げる。

ドルちゃんは未だにおろおろと事の成り行きを眺めたままだ。

なにより、アルムがその様を静観している。

つまり、俺の選択は少なくともアルムの意には反してないという事だ。


「どの道、コイツ等を迎撃した事はバレる。かといって殺してもバレる。どちらも同じだ。なら、俺はこっちの方がいい。」


 どちらにしても時間制限は無くならない。

明確に俺達の目の前にあって、今もカウントダウンは進んでるってこった。


「さて、じゃあ、オレは残った物を取りに行こうかな。」


「頼むよ、アルム。」


 反対は最後までナシか・・・。

ま、そりゃそうか。


「イリアさん、頼んだ事、お願いします。」


「・・・解った。」


 まだ完全に納得できないだろう憮然としたままのイリアさんだが、根が真面目なせいかやる事はやってくれるらしい。

そういうところは好感が持てるよな。


「んじゃ、ドルちゃん達にも頼み事があるから、よろしく。」


 俺も俺なりに考えがある。

それの用意だ。


「はいっ!」


 笑顔で返事をするドルちゃん。

彼女の笑顔も、俺は失くしたくない。


「なんだ?不思議そうな顔して?」


 俺達の会話を聞いていたアンソニーはじぃっと俺を見つめる。

男に熱い視線を向けられても、気持ち悪いだけだっつーの。


「あー、まぁ、なんだ、言いたい事は解る。逃げる手段は言えない。あとはさ、俺はアンソニーつー名前を知ったわけよ。んで、アンソニーも俺達の名前を知ったわけだ。これって言葉による意思疎通の一歩目だろ?」


「あ・・・。」


 誰か、雑草という名の草は無いと言ったけど、エルフっていう名は種族名であって、個体名じゃない。

名前は、個体を識別し理解する第一歩ってな。


「エルフだって、名前や家族がいるさね。」


 間違っていない。

俺は間違ってなんかいない。

そう思える、支える材料がある。

俺は今、誰からも否定されていない。

むしろ、肯定されてんだから。

それなら、俺は力を使えるだろう。


「一歩を踏み出すちゅーのは、面倒で怖かったりすっけどさ。んでも、それを解って踏み出す一歩はデケェぞ?なんせ、得られるモノがハンパない。」


 だから、俺は世界を渡った。

その一歩を踏み出す事で、得られるモノがあると信じて。

そして、その一歩を俺の大切な弟も踏み出せると・・・。


「・・・信じてるぜ。」


 俺は誰へとでもなく、その言葉を口からつぶやいた。

とりあえずは、この目の前にどんっと置かれた理不尽さをブチ壊す為の一歩を。

なにかが変わると信じて。

そして皆が皆、出来る事を一歩踏み出す為の準備を始める。

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