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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅰ楽章:皇子は再び旅立つ。
16/54

第15曲:とまどい(アンソニー・ロベルト視点)

「アンソニー!急げ!」


「はい。」


 自分は一体、"こんな所"で何をしているのだろう・・・。

二年の集団訓練、三年の従者生活。

そうしてようやく騎士になれたというのに。

目の前で先行する何年か先輩の二人を眺める。

念願の騎士になって配属されたのは、辺境の伯爵配下の騎士団。

特にこの伯爵に義理はない。

逆に誰にも義理も縁もないから配属されたのだろう、自分は平民出身だから。

だからこそ、余計に"こんな仕事"をする事に疑問を感じてしまう。


「自分の方がおかしいのだろうか・・・。」


 伯爵の所有するエルフの保護地の監視。

保護なんて名目だけで、エルフ達の扱いは酷い。

周りの皆は、人間とは違う種族を物のように扱う事に抵抗がない。

だが、自分はこの種族を美しいと思うし、同じ生命いのちには変わりないと思う。


『オマエは同行する必要はない。』


 思わず口からこぼれてしまった愚痴を聞いた隊長は、自分にそう命令した。

最初は信用を失ったと考えたが、それ以降はどちらかというと保護地に行く以外の仕事を沢山回された。

その代わりなのだろうか、隊長は率先して伯爵の"狩り"について行き、自分は血生臭い事から遠ざけられた。

隊長なりの部下への配慮だったという事だ。


「騎士に向いていないのかもな。」


 人間でもない他種族ですら傷つける事に違和感を覚える。

上の命令は絶対で、国の為には命を捧げる事も厭わない騎士には。


「任務は監視なのだから、そこまで張り切らないでも・・・。」


 何事もなければ、エルフをわざわざ確認する必要もない。

どうせ逃げられないのだから、適当に時間を潰して帰ればいい・・・騎士としての勤勉さには欠けるが。

ここでの自分は騎士の誓いを立てた剣すらいらない。

日に日に精神が腐っていく気がする。

生きる場所も死に場所も見出せない自分・・・。


「お、珍しくエルフ発見っ。」


 なんと不運な。


「コイツはきちんと調べないとなぁ。」


 この下卑た笑み。

これが騎士の顔、騎士の仕事と言えるか?

同じ所属の先輩騎士でなければ、斬り捨てていたかも知れない。

この笑みを浮かべている二人も、昔は使命感に燃えて騎士になったのだろうか?

だとしたら、何時それを捨てたのだろう?


「自分は大門に戻って待機しています。」


 こうやって現実から、見たくないモノから目を逸らし、逃げている自分も同類か・・・。

全てから逃げて、どうしようもない現実に踵を返して大門に戻るだけ。

エルフの悲鳴を背に浴びながら・・・。


「その手を離せ!」


 男の声?

おかしい、この中に男はもう子供以外いないはず!

振り向いた瞬間、短い悲鳴と共に剣が宙に待っていた。

黒い人影が剣を落とした先輩の腹部に蹴りを入れて・・・。

なんて速さだ!


「ほいよっと。」


 自分が慌てて剣を抜いた時には、もう一人の先輩は既に初撃を受けていて、蹴り飛ばされた方は後から現れた男に止めを刺されていた。

手にしているのは見た事もない武器だ。

鈍い金属のように見える棍棒。

この中には製鉄技術なんてないはず、それよりも鉄の原料が取れない。

だとしたら・・・。


「ハッ!」


 そう思考を飛ばした一瞬の間でもう二人目も倒されていた。

黒い人影、いや、黒髪の人物と目が合う。

髪と同じ黒い瞳。

この辺りでは全く見ない色だ。

鋭い瞳が自分を睨んでいる。

次は、自分が標的だ。

正眼に剣を構えて相対しても判る。

どう考えても、相手の方が遥かに強い事に。

二人の先輩が一瞬にして倒された。

その事実だけでも。


「ッ!」


 息を止めて一気に振り下ろした剣が空を斬る。

速さ、そのままの次元が違った・・・。

刹那に剣の間合いから引いた男が半身になって・・・最短距離の回避だ。

相手の肩越しにそのまま突きが飛んで来る。

肩を死角にした変則的な攻撃。

戦い慣れもしている。

全力でそれを避けはしたが、反撃の態勢は取れない。

そのまま側頭部に衝撃が来て、何が起きたのかわからないまま、ぐらついて両手をつく自分が持っていた剣を相手の足が踏みつける。


「アルム!」


「大丈夫。」


 格が・・・違い過ぎだ。

けれど、寧ろこうなっても仕方が無いと思う。

自分には、この場で騎士として護るべきモノなんて何も無い。

それに命を軽んじて傷つけてきた者が、自分だけがそう扱われないと何故言い切れる?


「何が大丈夫だ、頭に血を昇らせやがって!」


「あだっ、イクミ、それ金属、痛ッ!」


「うりうり、このままぐりぐりしてやろうではないか。」


「ヤメんか。」


 止めをすぐにでも刺されるかと思ったが、その時がなかなか訪れない。


「愛剣を踏んづけた事は謝る。けれど、君、迷うのなら戦うな。その迷いは、組織の中じゃ他の者を死に追いやるだけだよ。」


「何・・・?」


「そんな殺気の欠片もない剣じゃ、流石にオレだって殺せはしないよ。」


「頭に血が昇っているアルムでもか?」


「そういう事だね。」


 この者達は一体・・・?


「君達は・・・ッ。」


 鈍い音がして、自分の意識はそこで途切れた。

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