舞台の光 【月夜譚No.425】
掲載日:2026/10/25
舞台の上が、私の居場所だった。
小学二年生の頃、母親に勧められて入った劇団が始まりだった。それまで引っ込み思案で友人も碌にできない私を心配した母が、少しでも世界を広げられるようにと提案したものだ。
お陰で、私は演劇の虜になった。自分ではない他の誰かになりきることは、まるで別の人生を歩んでいるようで楽しかった。大声で笑ったり、他人を見下す仕草をしたり、大勢の前で歌ったり、普段は絶対にしないようなことも、役を通せば難なくできてしまうのが不思議だった。
それから十数年、私は舞台に立ち続けている。周囲や世の中が目紛るしく変わっても、舞台が大好きだという自分の気持ちだけは何も変わらなかった。
頭上に伸ばした手の向こうに、スポットライトが眩しく見える。それは、未だ届かないプロの光のようで、不意に涙が頬を伝った。
誰もいない小劇場に一人。何度ここに立っても、高揚した心は冷めることがない。
私は手の甲で頬を拭って、舞台袖に向かって歩く。
きっといつか、ここよりずっと広い劇場で満員の観客を前に演劇をするのだ。
その景色を夢見る私の双眸は、真っ直ぐ未来を見据えていた。




