捨て猫
「た、確かにここなのですよぉ。みゃ!その鋭い爪を向けないでください〜…嘘はついていないのですぅ…」
盗人…もといフードを被った猫娘に道案内をしてもらい、換金所があったのであろう場所へ着きました。 街の中でひとつ建物が消えたかのように商店と商店の間が空いていました。そこが換金所のあった場所だそうです。
「しかし…変ですね。ここだけ突然姿を消したように何もありません」
「隣の商店…は閉まってるし、あんま人通り少ないし…また明日来た方がいいんじゃないですか?こんな時間じゃ聞き込みも出来たもんじゃないですよ」
致し方ありません…もう完全に日が沈み、これ以上捜索をしても迷惑になりかねないため、今日は屋敷へ帰ることにします。
ーーー
「な、なぜ連れてきたのですぅ…約束と違うのではないですか〜…?」
「約束は確かお嬢様に突き出さないことでしたよね?安心してください。ただ連れたきただけで報告はしませんから。」
とりあえず猫娘を連れて帰ってきました。
そういや前科があるようなことを言っていたような気がしますが…まぁ野良猫が紛れ込んだ事にして誤魔化せば良いでしょう。
「あなた、お名前はなんて言うのですか?」
「え…コハクですかぁ?…コハクはコハクなのですぅ…かつて飼い主に捨てられた可哀想な猫ちゃんなのですよぉ」
「あら、捨て猫でしたか」
「…なんでそんなに冷たいのですかぁ?もう少し同情して餌をくれるなりしてくれてもいいですのに〜…」
そんなことを言いながらラグに座るコハクは縮こまり眠ろうとしていました。
「コハク〜、お風呂も入らず床に寝ると先生に怒られちゃうよ〜」
「…なんなんですかぁ、…みゃっ!」
「えっへへー、つっかまえた〜!あたしと遊んでよ〜」
「うぅ…狼は嫌いなのですよぉ…あっち行けなのですぅ」
「な!酷い!先生〜、コハクがあたしの事嫌いって!」
「…何だか凄く騒がしいですね」
ーーー
「ふぅ、温かいのです…」
「先生〜!隣いい?」
一息つく為にお風呂に来ました。宿泊すると入ることの出来る大浴場を、夜中の誰も使用しない時間帯だけ使わせてもらっています。
「えへへ、先生とこんなに一緒にいられるなんて夢見たい…あたし、今が1番幸せかも!」
「ペットの狼は羨ましいですねぇ…何も未来の心配がなくて。コハクは悲しく寂しい捨て猫なので、明日が来るかも分からないのですよぉ…それもおまけに蛇に捕まってしまうなんてぇ…」
コハクは浴槽でお湯につかり、顔を半分埋めてぶくぶくと泡立てながら弱音を零しています。
「それなら、次の目的地まで行動を共にしますか?ここを離れたら次は、獣族やエルフ族が多い平和な街…パルスへ向かう予定です。そこなら貴方を保護してくれるところも見つかるのでは?」
「ん〜、それもありかもしれませんねぇ…ですが、一体何が目的なのですかぁ?理由も無しに猫ちゃんを連れていくほどあなたは優しい人じゃ無さそうですが〜…」
「…正直に言うと、保険なのですよ。最近、ここからパルスまでの道中で荷馬車を襲う輩が増えているそうで。気を抜いていたとはいえ、あなたは私から財布を盗んだ…それほどの才能の持ち主が近くに入れば、何かと安心でしょう」
「ふぅん…裏切るとかは思わないのですねぇ…」
「信頼関係はどちらか片方が信頼しなければ成り立ちませんからね」
「…まぁ、考えとくよ〜、もし行く事になったら…コハクのお世話、頼みましたよぉ」
そう言って先にお風呂から上がって行きました。




