盗人
「しかし…こうして再び蛇魔女先生とお会い出来るとは…驚きましたわ」
リルカディアへ訪れて2日目となりました。本日は中庭を借りさせていただき、カナメとミリアの2人はいつもの鍛錬を、魔女はユレシフラスと中庭を眺めながらお話をしていました。
「確か蛇族の寿命は人間より少し長い程度でしたわよね?最後に別れを告げてから、もう数十年と経っているというのに…全く変わりないですわね」
「ふふ、魔女の秘訣なのですよ。…ところで、ひとつお聞きしたいことが。ここの辺りで腕の立つ鍛冶屋を知りませんか?弟子たちの剣を新調してあげたいのです」
「鍛冶屋…ですと、城下町の方に良い店が。老舗で先祖代々騎士団の剣を製造しているところがありますわ。私の方から紹介状を書いておきましょう。後、少し城下町に行くにあたってお願いしたいことが。」
ユレシフラスは立ち上がり、近くにあった書棚から1枚写真を取り出しました。
「城下町で、盗難事件が多発しているようですわ。私も先日、メイドに使いを頼んだところ財布を盗まれたようで…その調査をお頼みしたいのですわ」
「盗難事件、ですか」
写真を見ると、フードを被った少女が写っていて、金貨100枚の懸賞金がかかっているようでした。
「盗まれた財布には王家の紋章が入っていて…悪用されたら困りますわ。なので、それを取り返して欲しいのです。もしそれをやっていただけるのであれば…宿泊代は私が肩代わりしましょう」
「?…宿泊代、ですか?」
「…あら?事前に説明しませんでしたか?実はここ、宿屋として経営しているのですわ。それも結構な人気があり、予約は早くて5年待ち…蛇魔女先生には御恩がありますから、どうにか予約の間を見つけて紹介したのですわ。」
確かにここへ来た時、案内をして下さったメイドさんが言っていた気がします。完全に忘れていました。
「……なるほど、つまりその盗人を捕まえれば良いのですよね?それなら私に任せてください!」
「良かったですわ。蛇魔女先生なら安心してお任せ出来ます…どうか、よろしくお願いしますわ」
ーーー
「と、言うわけで。今日の午後からの修行は盗人探しです。城下町外周を見回りに行ってくるので後は2人に任せましたよ!」
そう言い残し、師匠はそそくさと路地裏へと消えていった。
「…といっても、盗人ってどうやって見つければいいんだ?」
「適当に罠でも仕掛ければいいんじゃない?あたしが捕まえるから、アンタが囮になってよ」
「囮って…もしそれで捕まえられなかったら財布が盗まれるだけじゃ…」
「その時はカナメの責任だし、あたしには関係ないもん」
そんな話をしながら城下町で聞き込みをした。
数時間が経過したのだろう、少し空が暗くなってきた。道中、露店の美味しそうな匂いにミリアが釣られそうになりつつも、何とか買わさせずに済んだ。
「結局…捕まえられなかったね…」
「あーあ、やっぱりあんたを囮にすりゃ良かった…」
「ちょ…っと!待って…くだ…さ……い……」
「あれは…師匠?!」
「な、なんで先生が…!」
遠くで叫び声がして見てみると、師匠がフードを被った人影を追いかけていた。
「まさか、犯人?!あたし行ってくる!」
「ぼ、僕も!」
急いで向かうと、丁度師匠が息を切らして地面へ座り込んだ。
「師匠!大丈夫ですか?」
「はぁ…、だ、いじょ…うぶ…です、…それより、…あの…人を捕まえ…てくだ…さい、…」
「!あたしに任せて!あんたは先生の介抱を!」
「っ、ちょ!」
ひとりでミリアが走り去って行ってしまった。
師匠を置いていく訳にも行かないので、言われた通り待つことにしよう…
ーーー
「先生!言われた通り捕まえたよ!!」
魔女がカナメに介抱され広場で休んでいると、ミリアが帰ってきました。それも…脇にロープでぐるぐる巻きにされた盗人を連れて。
「ありがとうございます、ミリアさん。頑張りましたね」
「えへへ、本気を出さずとも楽勝だよ!」
「むぐ、むぅぐ…」
むぐむぐとロープで縛られた盗人とが海老のように跳ねています。
「とりあえず、ロープを解きましょうか…」
「むぐぅ…ぷはぁ、…し、死ぬかと思ったのですぅ……」
盗人は猫娘のようでした。
「うぅ、ごめんなさい〜。財布返すから許してくださいぃ…」
「全く…人の財布を盗むとは。どんな事情があるのか分かりませんが、ちゃんと罪を償うべきなのですよ」
先程街を歩いている際に盗まれた財布を返してもらいました。
「え?師匠、財布を盗まれたんですか?外へ見回りに行っていたんじゃ…」
「…!い、いえ。これは…ただポケットに財布を入れていたことを忘れていただけです!決して中身は使っていないのですよ!」
「ねぇ先生。どうする?このままあの屋敷に連れていく?」
「えぇ〜、それだけは勘弁ですぅ…昔も一度捕まって、もう次は無いと言われているのですよぉ……お願いします、許してくださいぃ…」
「そう言われましても…あ、お嬢様の財布も返してもらいますよ。」
「お嬢様…の財布…?あぁ、メイドから盗ったやつですかぁ…?あれは、もう手元にないのです〜…」
「もしかして、もう売り払ったのですか?」
「えへへぇ…現金として手元に持っておきたいタイプなものでぇ…さっき換金しちゃいまし…んにゃ!」
「早くその換金場所を教えるのですよ!!今こうしているうちにもなくなってしまうかも…案内もするのです!!そうすればお嬢様の所には差し出しません!」
「あ、案内するので、乱暴はよして欲しいのですぅ…」
こうして、盗人の少女に道案内をしてもらうことになりました。




