傍に居るから
「そこ違う!どうして右足を踏み出すの!」
「え、えぇ…さっきこうしろって……」
「だからさっきからこうだって!アンタが聞いてなかったのが悪いじゃん!」
カナメが弟子になって1ヶ月半、ミリアが来て1ヶ月と少し…悲しきかな、予想通り早速2人の仲がこじれてきました。
「…2人共、喧嘩も良いですがちゃんと鍛錬に励んでくださいね」
「だ、だって…聞いてよ先生!コイツさっきからあたしが言ったことの反対の事ばっかするの!」
「なっ…僕は言われた通りにやってるだけなのに…!」
「はぁ……今日の鍛錬は終わりにしましょう、そして魔術の勉強もお預けです。…今日は、お2人に課題を課します───」
ーーー
「……」
「…あ、それ師匠が言ってたのと違……」
「っ!い、言われなくてもわかってる!」
師匠の課題…それは、二人で旅支度の買い出しに行くことだった。
「なんで…なんで先生はこんな課題を…!」
「…普通に仲悪いからじゃない?」
「あ、アンタに聞いてない!」
家を出てから…というか、ミリアが弟子になってからずっとこんな感じだ。
師匠の前では大人しいのだが、僕の前だと…途端にピリピリとしだす。
「…ねぇ、僕なんかしたっけ?」
「………してない」
「じゃあなんでそんなに怒って…」
「………………ずるいから」
「え…?」
「っ!アンタには関係ない!さっさと買い物済ませて帰るよ!」
結局、その日は何も進展は無かった。
ーーー
『──先生!あたし、先生の弟子になりたい!』
『…すみません、私は弟子を取っていないんです。』
『で、でも…ちょっと前は弟子が居たって、ママが言ってたよ!』
『……それは少し昔のお話なのですよ。今はとっていないのです。……ですが…もしもまた、私が弟子をとる気になったら…ご連絡をしても良いでしょうか?』
『!うん!その時はあたし、弟子になる!先生の1番弟子になって…あたしも先生が自慢したくなるような魔女になる!……約束だよ!先生!』
『はい……約束です、ミリアさん』
「…っ!……ぁ…夢か……懐かしいな…先生……どうして…約束……」
「おーい、ミリア。ご飯の準備出来たから、…って、まだ寝てるの?珍し──」
「早く行って!すぐ行くから…」
リビングへ向かうと、魔女とカナメは既に席へついていました。
「あ、やっと来ましたね…それでは着席を……おや」
「あ、すみません!出し忘れてたみたいです…すぐ取ってきます!」
「──っ!!」
魔女が気付くと同時、カナメが向かった先…キッチンで爆破が起きました。
「カナメさん!大丈夫ですか?!」
「と、とりあえず大丈夫…です……」
キッチンに行ったカナメは爆発に巻き込まれてしまいました。何とか防御魔術が間に合いカナメは守ることができましたが、キッチンの壁や床等は焼け焦げていました。
「──。───」
「…?し、師匠……なんでミリアが魔術を唱えて…」
「っ!伏せてください!」
ミリアが魔術を唱え…カナメと魔女目掛けて火球が飛んできた。
「…あれ、あたしなんで魔術唱えて……」
「ミリアさん、正気に戻りましたか?」
「……ぁ、ごめん…なさ、い……そんな…つもりじゃ……っ!」
我に返ったミリアは、そのまま走り去ってしまいました。
「…ミリアさん……」
とりあえず、魔術の火が燻っていた箇所に水をかけ、カナメの手当にあたりました。
ーーー
「…ようやく見つけましたよ」
日が沈み、仄暗くなってきた頃。
探知魔術を使い…小屋の近くの森で、木の影に隠れるミリアを見つけました。
「……ごめんなさい…」
「怒っていませんよ。故意的にやった事でないことぐらい、反応を見れば分かりますから。…少し、2人きりでお話しましょうか」
持っていたランタンを枝にかけ、木の傍に腰を下ろしました。
「…昔も、こうやって森の中でお話しましたよね。確かあの時は…上手く魔力が操れなくて、拗ねてしまったんでしたっけ」
「……うん、森に逃げ込んだあたしを…夜中に1人、探しに来てくれて…慰めてくれた。……あたし、あの頃から先生に…皆に迷惑かけてばっかりだね」
「そんなことはないのですよ。少なくとも私は…元気に走り回る姿を見て、とても元気づけられました」
「………あたし、あたしね。本当は…魔力操れなくなったって…嘘なの。本当は……どうもないの」
「…はい、知っています」
「あたし…村を追い出されて……それで、先生に助けて欲しくて。…でも、先生の隣にはもう弟子がいて……あたしの居場所じゃなくなってた…でも、それでも、先生の近くに居たくて嘘ついて……ごめん…なさい……」
体操座りをし、丸くなっている為表情を伺うことは出来ませんが、拙く、けれどしっかり伝えようと話す声は微かに震えていました。
「私の方こそ、ごめんなさい。貴方との約束を、反故してしまいました」
「ぅあ…覚えて…たんだ……あたしてっきり、忘れられたのかと…」
「忘れるはずありません。私は…しっかり、貴方との思い出は全て記憶していますよ。……何故村を追い出されたか聞きません。嘘をついた事も責めません。ですから…帰りましょう。私は貴方の味方ですから」
「…ぅ…ぅぐ…せ゛ん゛…せ゛、い゛……」
それから、ミリアが落ち着くまでずっと抱きしめながら過ごし、疲れて眠ってしまったので背中で抱え小屋へと帰りました。
恐らく、正気を失ったのは……極限までストレスが溜まり、魔力暴走を起こしたのでしょう。
ーーー
「だーかーらー!何度言ったらわかるの!剣を出す前に足を出すんだってば!」
「なっ!さっきは剣から先にって…」
「口答えしないで!今はあたしがアンタの師匠なんだから!」
結局、あの後ミリアは2日程大人しくなりましたが、3日、4日と経つと元気を取り戻し、現在はカナメと…楽しく剣技の鍛錬をしているようです。
「お二人共、そろそろ鍛錬は切り上げましょう。明日は遂に、旅立ちの日です。旅支度は終わっていますね?」
「はい!準備バッチリです!」
「あたしも!もう今からでも行けるよ!」
「ふふ、それなら良かったです…あとカナメ、私のも終わっていますか?」
「え?師匠の?自分でやってないんですか?」
「え…頼んでいませんでしたっけ?」
「頼まれてないですけど…」
「………2人共、手伝ってください…」




