蛇魔女の日記
帰路は、驚く程静かだった。
魔女の経緯を話し終え、多少の質疑に答え…それから、誰一人として口を開く者はいない。
ただ、静寂と不安が満ちていた。
一時間近く歩き、ようやく宿に着いた。
部屋に入ると全体が赤いリボンで装飾がされていた。布団の上に横断幕が敷かれており、「試験合格おめでとう」の文字と小さな魔女の帽子を被った蛇が描かれていた。
「これ…魔女様の…手紙……?」
ディアが机に置かれた手紙に気づいた。見てみると四つの手紙が置かれており、それぞれ一人一枚ずつあるようだ。
手紙を手に取り、中身を読む。
手紙にはこう書かれていた───
(親愛なる我が弟子へ。
この手紙が読まれているということは、私はもう居ないのでしょう…なんちゃって。この一文、ずっと書いてみたかったんですよね。…おふざけはここまでにして、これからはちゃんと書きますね。まぁあまり書く内容は無いのですが…。
布団の上の横断幕はご覧になりましたか?実は、その下にあなたとミリアへのプレゼントが隠されているのです!リルカディアに訪れた際に最高品質のものを選びました…あなたが気に入ってくださることを願っています。
改めて…今までありがとうございました。あなたの師となれたこと、心より嬉しく思います。
これからも…頑張ってくださいね
偉大なる魔女より。)
いつもと同じように掴みどころないような明るい文体を見ると、まるでまだそこに魔女がいるかのように思えた。
横断幕を畳むと、剣と杖がそれぞれ二本ずつ置かれていた。
恐らく自分に宛てたものであろう剣を手に取り、鞘から抜く。表面に薄く魔力の膜が張られており魔法がかけられているのか、剣が透明に透けて見えた。
杖はというと持ち手に蛇を模した装飾が施され、ムーンストーンの宝石が埋め込まれていた。
魔女に貰ったプレゼントと手紙を交互に見ながら想いを馳せる。
今でもまだ、受け入れられない。
どこかからひょっこりと出てきて…ドッキリだったと言って欲しい。全て嘘で、何事も無かったかのようにあの修行の日々に戻りたい…そう思ってしまう。
複雑な思いを抱えながら…その日は眠った。
ーーー
時間にして約半年と少し、勇者の前日譚は終わりを迎えた。
勇者は、再び旅に出る。
勇者と狼と猫と魔術師の四人で、魔王討伐を掲げて。
蛇魔女日記、完
著・蛇の魔女、保下カナメ




