最終試験、中
「はぁ、はぁ…とりあえず巻けたかな…?」
十数体にまで増えた魔女の分身体と戦っていた僕は流石に相手をするのがキツくなってきた為、ミリアが向かった方角とは反対の森に逃げ込んでいた。
「ミリア…大丈夫かな……師匠を見つけられてるといいけど…」
「…あ…よ、ようやく見つけた……」
「うわぁっ?!もうこんな所まで…って、ディア?」
「ひゃ…お、驚かせて、ごめんなさい……」
草木をがさがさと掻き分けてディアが出てきた。
恐らくここまで来るのに森の中を通ったのであろう、全身に葉っぱや枝が付着していた。
「…って、なんでこんな所に?今試験中だからここにいたら危ないんじゃ……あっちの方角に行けば森を抜けれるはずだから──」
「あ、いえ…しょ、承知の上…です」
ディアは少し俯きつつもはっきりと僕の目を見ていた。
「…うぅ、その…これも試験なので……悪く…思わないでくださいね…?」
「えっと…っ?!」
ディアは杖も何も持っていなかったため、完全に油断していた。ディアが手を振りあげると同時に、指先から魔力で作られた植物の棘が飛んできた。
右に避けようとするも…何故か身体が勝手に左に避け、変に力が入った為そのまま受け身も取れずに転んでしまった。
「ぐっ…一体何を…?!」
身体の動きが思う方向に動かない。恐らく精神関与魔術なのだろう…腕を右に動かそうとすると左に動き、足を上げようとすると下に力が入る。そのため、逃げようとしてもまともに立つことすら困難だ。
何とか足だけはかけられた魔術を解読し解くことが出来たのだが、根本的には脳に直接かけられているため不自由を感じつつふらつきながらディアから逃げていた。
「あ、ようやく見つけましたよ!」
「なっ、師匠…の分身体?!もうこんな所まで…っ?!」
「に、逃がしません…よ…!」
前には師匠の分身体、後ろにはディア。挟み撃ちにされてしまった。
身体は上手く動かず、森の中で視界も悪い。
絶体絶命…そう思った時だった。
「うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!!」
「…ひゃ?!」
どこかから走り飛んできたミリアが、ディア目掛けて水風船を投げた。見事に命中し、ディアはびしょ濡れになっていた。
「よっしゃ〜!流石あたし!!百発百中!!」
「おぉ〜、よくこの作戦成功しましたねぇ…」
よく見てみると、ミリアの背中にはコハクが背負われていた。
「…うぬぬ……せかいが……くるくる…?」
ディアがふらふらと横に倒れると、それと同時に師匠の分身体達も消えた。
「ふふふ〜、あたしのお陰で助かったでしょ?この恩は百倍にして返してくれてもいいんだよ!」
「狼さんが投げた水風船の中身はコハクが作った甘酒なのでぇ、中身を浴びて少し酔ってるだけですぅ。安心してくださいねぇ〜」
言われてみると、確かに甘酒の匂いがした。
コハクにかけられた魔術の解除を手伝ってもらいながら、話を続ける。
「そ、そっか……でも分身体達はなんで消えたんだ…?」
「も〜、カナメは察しが悪いな〜?あの先生の分身体はディアが作ってたから、術者が倒れた今魔法が溶けたってわけ!」
「何故か狼さんが自慢げですがぁ、コハクが気付いたんですけどねぇ〜」
「な、なるほど……。…しかし、これからどうしよう?ディアをここに放置する訳にも行かないし…」
「ん〜、時間の猶予は結構あるし、一旦休憩でいいんじゃない?ディアもコハクみたいに説得できたら仲間になってくれるかもしれないし」
ここでひとつ、合流してから疑問だったことを聞いた。
「…そういえば、なんでコハクがいるんだ?」
「それがね〜、結構あたし頑張ったんだよ…さっきカナメと別れてから──」
ミリアは師匠を探しに行った後、何があったのかを教えてくれた。少し余計な事も混じっていた為、簡潔にまとめると…
師匠の匂いを追い、森の奥まで入ると無事見つけることが出来た。だが、すんでのところで攻撃をコハクにより防がれ、師匠には逃げられてしまった。師匠を追おうにもコハクに道を阻まれたため、仕方なく戦うことになったのだが…ミリアが偶然道端で拾ったマタタビの実をチラつかせると、普通にこちら側へ寝返ったという。
「…な、なんですかその顔はぁ?最近高価になってきていてぇ…マタタビ不足だったので仕方ないと思いませんかぁ?」
「…まぁ、そっか。猫…だしな……」
とりあえず、ミリアと仲間になったコハク、そして甘酒に酔いふらふらしているディアを抱え、近くにあった洞窟で休む事にした。




