弟子
「はぁ…つまらないです……いでっ!」
「失礼、手が滑りました」
「どうしたら手が滑って人の頭に本を落とすんですか!」
カナメが弟子入りして2週間、本格的に魔術の勉強が始まりました。
とりあえず入門書から始め、基礎の基礎にあたる部分からやっている訳ですが…
「魔術ってもう少し面白いものだと思ってました…まさかこんなにつまらないとは…」
最近生意気になってきました。最初の1週間ぐらいまではあんなに従順だったのに…
「…確かに基礎部分は面白くないかもしれません。ですが、応用や発展などの段階まで来るとだんだん面白くなって来るのですよ。そのためにキチンと基礎を学ばないといけないのです」
「そうとは言っても…なんで魔力の流し方とか特性とか、ここまで事細かにしなくても…特に立体構造とかもう魔術に関係なくないですか?僕、もうちょっと水魔法とか、炎魔法とか、そういうのやると思ってました」
「ふ、ふ、ふ…甘いのですよ。まず、人の手が加わり魔力によって構成されたもの…それが魔法です。魔術はその魔法を発動させるための装置のようなものです。まず、魔術を発動させるにあたって、魔力の下地を引かなければなりません。例えば水魔法であれば、空バケツを用意し、それを満たすように魔力を注ぎます。そして呪文を唱え、魔術を発動させ…バケツに満たされた魔力を水に変換するのです」
「…なるほど……それじゃあ確かに魔力が操れることが大前提…でも立体構造とかはそこまで必要ないのでは?」
「確かに日常で使う程度の魔法であれば問題ありません…が、もし戦闘で使う際に武器を生成したり、旅の途中などで仮拠点を作ったり…と、複雑な形を作るには立体の把握が必要なのです。あと…催眠等の精神魔法は脳の一部にだけ魔力を注ぐことがあったりと、かなり繊細さが求められる事もあるのですよ」
「すごい…魔法って不思議ですね……少し楽しくなったきました!」
「ふふ、それなら良かったです。何か分からないことがあったら質問してくださいね…そういえば、今晩の食材が無くなってしまいました、日課が終わったら一緒に買い出しに行きましょう」
ーーー
「師匠、これは一体?」
久々に下町へ買い物に来ました。露店でパンを買おうとしたところ、銅貨をみて不思議そうに問われました。
「これは、この世界の通貨なのですよ。銅貨、銀貨、金貨の3種類あり、銅貨10枚で銀貨1枚分、銀貨10枚で金貨1枚分の価値があります。このパンであれば銅貨2枚で購入することが出来ますよ。まぁ、国により物価が変わるので一概には言えませんが…」
「うぁぁぁぁぁぁ!!!」
「え?───ぐぇっ…」
デジャブなのでしょうか。どこからか叫び声が聞こえたと思うと、魔女の胸に突き刺さっていました。まぁ、衝撃は全て胸に吸収されましたが。
「師匠?!大丈夫ですか!」
「うぐ…大丈夫です……おや?」
どこかから飛んできたものを見てみると、どこか見覚えのある少女でした。
「う゛ぅ゛ぅ゛…せ゛ん゛せ゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛…た゛す゛け゛て゛……」
少女が泣きながら助けを求めてきました。どちらかと言うと突っ込まれた魔女が助けを求めそうなものですが…
「…?…あ、もしかして…ミリアさんでしょうか?」
「先゛生゛…!!覚えてくれてたんだ…!」
「師匠のお知り合いなんですか?」
「まぁ、はい…とりあえず、家でお話しましょうか…」
最低限のものだけ買い、とりあえず小屋へ帰ることになりました。
ーーー
ミリアさんは数年前、魔女がエルフの里、フルーヴへ魔術講師として訪れた際の生徒なのです。エルフ族と獣族のハーフなのですが…魔術の才能はまぁ、壊滅的なものでした。
「カナメ、お茶の用意をお願いします。ふぅ…ようやく落ち着きましたね…とりあえずお話をお聞きしても良いでしょうか?」
「うん…実は…数週間前に、急に魔力を操れなくなっちゃったの……それで、どうにかならないか色んな人をあたってみたんだけど解決しなくて……そして…魔術使えないならって……村、追い出されちゃった……」
「ふむ…魔力が操れなくなる…聞いた事がありませんね。何か心当たりはありませんか?」
「何にも…あ、でも魔術は発動できるよ!ただ…制御ができなくて…もう…先生しか頼れなくて…」
「なるほど…粗方、私を探すために探知魔法を使ったはいいものの制御が効かなくなり突っ込んできた、と」
「うぅ…ごめんなさい……でも…お願い先生!あたしにまたあの時みたいに稽古をつけて…弟子にして欲しいの!」
困りましたね、もう弟子を取るつもりはなかったのですが…
「…あ、そういえばミリアさんは…剣術に秀でていましたよね?」
「う、うん…それがどうしたの?」
「それなら…1ヶ月程したらここを離れ旅に出るのですが、共に行く気はありますか?」
「え、いいの?!うん!一緒に行けるなら行きたい!」
「承知するのであれば…ミリアさん、あなたを私の弟子にしましょう…ですが1つお願いが」
「?なんでも言って!先生の言うことならなんでもやるよ!」
「そこの兄弟子に、剣術の稽古をつけてもらえませんか?」
「…うん!分かった!任せて先生!」
「え、僕ですか?」
「はい、あなたです。あなた…剣を握ったことがないのでしょう?それならミリアさんに基礎を教えて貰ってください」
「それじゃあ、よろしくね!先生…と……」
「あ、カナメです」
「あぁ…うん。よろしくね…」
何故かカナメの時だけ明らかにテンションが下がっていましたが…仲良くしてくれたら良いのですが。




