あなたと永遠を
「あ…あなた……何をしたのですか…!」
窓の外は一面火の海となっていました。火の手はすぐ側まで迫っており、部屋のドアの隙間から火と煙が燻って見えました。
「…魔女様が焦る必要は…ありませんよ……この学園に在籍する生徒はみな魔術を学んでいる者…多少の怪我はあれど、巻き込まれる事は無いと言っていい……」
「…なら、何故…このような事を………っ、まさか、あなたはあの時の…!」
記憶が失われつつある事に気づいた時から、魔女は毎日欠かさず日記を書いていました。数十冊に及ぶ日記の中、比較的新しく一際印象に残った記録…その1ページを思い出しました。
約十年前の悲惨な事件…とある夫婦が禁術に手を染め、自らの娘を生贄としてかつての魔王の魂を呼び出そうと企みました。幸い、その事を知った魔女がどうにか止めたため魂を呼び起こすことは無かったのですが、贄となった娘は魔王の呪いに侵され、禁術に触れてしまった夫婦は気が狂ったのか自ら屋敷に火を放ちました。
そして……生贄に捧げられそうになり、魔王の呪いを受けてしまった少女…その娘の名は、イディア・ローズクライ。
「何故…あの両親と同じような事をっ…!」
「あぁ…まさか、思い出してくださったのですか…!あの時からずっと…魔女様の事が、好きで好きで堪らないんです…私だけの思い出にしたい、私だけの魔女様にしたい……だから、魔女様と私しか知らない、思い出の中で、終わりを迎えましょう…?」
「…あなたは…自分の為に生きたいとは、思わないのですか」
「私はずっと、生まれた時からずっと孤独でした…まるで存在しない幽霊のよう…。で、でも…魔女様を知ったあの時から…世界が輝いて見えました…!あなたと共に見たい、あなたと共にいたい、あなたと共に生きたい…でも…あなたの傍には、別の人がいる……私の居場所はどこにもない…。けれど、こうして共に終わりを迎えれば……永遠に一緒にいられる…。私の方があなたの傍にふさわしいって、証明してみせるから…!」
「…ごめんなさい、イディア…さん……」
「え…まじょさ…っ!」
魔女は静かに、イディアへ口付けをしました。時間にして数秒でしたが、口を離す頃にはもうイディアは深い眠りに落ちていました。精神関与魔術を使った為しばらく起きることはないでしょう。
あまりこの魔法は使いたくありませんでしたが…カナメを勇者するという使命がある以上、ここで死ぬ訳には行きません。
「…さて、どうしましょうか」
気付けば火の手は部屋の中へ侵入しており、一面火と煙が充満していました。




