少女の夢
空へ届きそうなほど高く、赤い炎が燃えている。発火点である屋敷の下には抱き合った男女と倒れた使用人達が灰になろうとしていた。
遠くから、歓声が聞こえる。嬉々としたその声は、段々近づいてきているようだ。
「…早く逃げないと、あなたも共犯とされてしまいますよ」
屋敷の方から歩いてきた魔女がそう言った。
白いドレスは炭で汚れ、少し赤い汚れもついている。そして、美しいその顔は少しだけ疲れているように見えた。
「あ、あなたが…わたしを、助けてくれたの…?」
「…?……あぁ、あなたはあの方のご息女でしたか、少し嫌なものを見せてしまいましたね。…ここにいると危険です。私と一緒に逃げましょう」
差し伸べられたか細い手は少し煤で汚れていて、握ると少しひんやりとした。
初めて触れる、人の感触。冷たい床や鞭とは違う、柔らかく…冷たいはずなのに、何故か暖かい。
ずっと昔に枯れた瞳から、自然と涙が零れた。
「…もう近くまで来ているようです、早く逃げましょうか。」
そう言って、魔女に手をひかれて林の中へ歩いて行く。
移動中、魔女と会話を交わすことは無かった。数十分、お互いに沈黙したまま歩き続けた。でも、何故かそれが心地良かった。
林を抜けると、広場のような場所へ出た。
「ここの道を真っ直ぐ行けば孤児院があります。そこに行けば、毎日三食に暖かい寝床、そして生きるための術を学ぶことが出来るでしょう。…私とはここでお別れです。さぁ、行ってください」
「あ…あの…お名前を……お、教えてくれませんか…?」
「…ごめんなさい、今は名乗れません。…っ、もう近くまで…私に構わずに早く行ってください」
「あ…」
魔女は手を解き、林の中へ戻ろうと振り返った。
「あ、あの…」
「…っ!早く、行ってください!」
「た、助けてくれて…殺してくれて、ありがとう!」
一言だけ感謝を述べて、魔女に言われた方向へと走り出す。少女は少し振り返り、魔女の方を見た。だが魔女はもう林の方へ向かっていたため、最後に表情を伺うことは出来なかった。
心臓がかつてないほどの脈拍を打ち、呼吸は乱れている。そして何故か…口角が上がっていた。初めてこんなに体を動かしたからか、自由を得た高揚感なのか、分からない。
もしかしたら…初恋をしたからかもしれない。
ーーー
「ディアちゃ〜ん、もう朝だよ〜」
ルームメイトの声がして、イディアは目が覚めた。
いつものように支度をして、二人で軽く朝食をとる。
「〜♪〜〜♪」
「今日のディアちゃん、何だか元気そうだね〜?なんかいい事でもあった?」
「……え、えへへ…少し、昔の夢をみたの…」
何気なく言葉を交わしながら、いつものように支度を終え学校へ向かう。もしどこかで魔女とすれ違えたら…そんな事を思いながら歩いた。




