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永遠が人間を捨てた日  作者: 十三番目
第一章 人間をやめた日
5/8

適合者 ─ Ⅳ


「ねえシン。どこに向かってるの?」


「そのうち分かるよ」


 飛行機が墜落してから一夜明け、永遠たちは現在、どこかの地を歩いていた。

 フィーニスの中で生まれ育った永遠にとって、外の世界は初めて見る光景ばかりだ。


 防護壁に守られたフィーニスの中は、人工の自然と明かりで溢れていた。

 フィーニスごとに違いはあるものの、どれも人々にとっては楽園のような都市である。


「外は汚染されてるから危ないって言われてたんだけど、全然そんな感じしないね」


「汚染……ね」


 シンの声に、(さげす)みの色が混じった。

 フィーニスの防護壁は、外気から住民を守っており、周辺には濃度を測るための巡回機が設置されている。


 フィーニスとの距離が遠くなるほど、汚染濃度も増すと聞かされていた永遠だが、身体を包む空気は随分と澄んでいるように思えた。


「それにしても、一晩で抜けられて良かったね。広そうな森だったし、もっとかかると思ってたよ」


「そう? 僕と永遠なら、どんな場所でもすぐに抜けられると思うけど」


「え!? それはさすがに無理なんじゃ……」


 あれほど走ったにも関わらず、永遠の身体は微塵も疲れを感じていない。

 しかし、いくら身体が丈夫になったとはいえ、永遠がただの人間であることに変わりはないのだ。


 眉を下げる永遠に、シンがくすりと笑みをこぼしている。

 次第に建物の影が見え始め、ちらほらと人の姿が目に入ってきた。


「フード、取れかけてるよ。永遠は綺麗で目立つからね。きちんと被っておいて」


「うん。ありがとう」


 風で浮かび上がったフードを、シンの手が戻してくれる。

 永遠からすれば、シンの方がよほど綺麗で目立つ容姿をしているのだが、どうやら普通の人には、シンが望まない限り姿が見えることはないらしい。


 すれ違う人たちは永遠の方をちらりと見た後、そのまま視線を逸らしていく。

 傾国の美女も嫉妬するほどの存在が隣を歩いているというのに、誰一人として視線を向ける者はいなかった。


「なんか複雑……」


「なにが複雑?」


 思ったことが、口をついて出ていたようだ。

 不思議そうに永遠を見るシンに、永遠は慌てて手を振っている。


「えっと、ほら。シンの方が私よりずっと綺麗なのに、そんなこと言うからちょっと気になって……」


 恥ずかしさから、段々と言葉が尻すぼみになっていく。

 湯気でも出そうな顔で俯く永遠を、シンはじっと見つめていた。


「僕は永遠の方が綺麗だと思うよ。空みたいに透き通った目も、光を反射する銀の髪も、僕とは正反対のものだからね」


「……シンってたまに、詩人みたいなこと言うよね……」


「そうかな?」


 きょとんとした顔で永遠を見てくるシンに、そんな意識はなかったのだろう。

 また少しずれてきた永遠のフードに気がつくと、自然な動作で直してくれる。


 永遠の着ている服はぶかぶかで、明らかにサイズが合っていない。

 とは言え、偶然見つけた小屋で、何とか着れそうな服が調達できただけでも幸運だったのだろう。


 すれ違う人の数が増えてくるにつれ、自然と口数も少なくなっていく。

 フィーニスの外にも人間がいることは教わっていたが、汚染された世界で暮らす感染者は、かなりの短命だと言われていた。


 荒れた建造物に挟まれた道を進んでいると、突然シンが足を止めた。

 直後、永遠の身体にざわりとした感覚が走る。


 視線の先には、道を塞ぐように一人の少女が立っていた。

 まだ小学生くらいの少女は、やけに落ち着いた様子で佇んでいる。


 行き交う人々が、迷惑そうな顔で少女を避けていく中、少女はただじっと永遠を見つめるばかりだ。

 否、正確には──シンの方を。


「あの子、シンのことが見えてるの?」


「視えていると言うより、似た気配を感じているんだろうね。あんな出来損ないでも、同族の一部を取り込んだ奴らだ。ほんと……反吐が出るよ」


 酷く冷たい目で少女を一瞥したシンの声は、視線と同じように凍てついている。


「原因とおぼしき存在を発見しました」


「え……?」


 少女の口から、まるでロボットのように平坦な声が発せられた。

 それと同時に、少女の近くにいた人間の胴体が真っ二つに分かれていく。


 べしゃりという音を立てて、分裂した身体が地面に崩れ落ちた。


「シン……」


「大丈夫。永遠には僕がいるから」


 緊張で震える永遠の手を、シンの手が包み込む。

 いつの間にか、少女の両手には小太刀(こだち)のような武器が握られていた。


 被さっていたシンの手が形を失い、永遠の身体にしゅるりと入っていく。

 それに合わせるように、少女の視線が永遠の方へとずらされた。


 身の丈よりも長い小太刀をそれぞれの手に持ち、容易く振り回す異質な少女。

 ひりつく空気の中、先に口を開いたのは少女の方だった。


現在(これ)より、対象の捕獲に移ります」


 機械的に言葉を発した少女は、直後に地面を蹴り、永遠へと急接近した。

 咄嗟に退いた永遠の足元に、小太刀が深々と突き刺さっていく。


 避けられたのを確認すると、少女はすぐさま小太刀を引き抜き、再び永遠に向かって素早く振り上げた。


 

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