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永遠が人間を捨てた日  作者: 十三番目
プロローグ
1/9

永遠とシン


 フィーニス。

 それは、とある機関が造り出したドーム状の都市のことだ。


 フィーニスは世界の各所にあり、移動は特殊な飛行機によって行われている。

 それぞれが国として独立しており、人々はフィーニスを自由に行き来することが可能だった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 飛行機の翼で点滅するライトが、窓から見える唯一の光源になっている。

 深夜の空をぼうっと眺めていた永遠(とわ)は、何かが動いた気配に思わず目を瞬かせた。


 人間……だろうか。

 翼の端に腰掛けていた人影は、視線に気づいたのか、永遠の方をくるりと振り返っている。

 交わった視線の先で目を細めた人影が、翼の上を歩き、窓の方へと近寄ってきた。


 機内の明かりによって、人影の全貌が見えてくる。

 永遠と同じくらいだろうか。

 まだ若い見た目の青年は、長い黒髪を一つに結えている。


 白い肌と、赤い瞳。

 目尻に引かれた紅が、青年の圧倒的な美貌を際立たせていた。


「こんばんは、適合者さん」


「……えっ?」


 突然聞こえた声に、辺りを見回す。

 周りの乗客に変わった様子はない。

 気のせいかと思い視線を戻すと、面白そうに永遠を見つめる青年と目が合った。


「僕だよ、適合者さん」


 青年の動かす口元と、聞こえてくる言葉のタイミングが重なっている。


「もしかして……あなたが話しかけてるんですか?」


「ふふ、だからそうだってば」


 小声で返事をするも、周りの目が気になってそわそわしてしまう。

 永遠の隣は空席だが、前後には多くの人が座っているのだ。


「いったい、何がどうなってそんな所に? というか、今って飛行中ですよね……?」


「こんなに高い所に来るのは久しぶりでね。風が気持ち良くて、つい長居してしまったんだ」


 ついで長居できるような場所ではないのだが、青年の態度を見ていると、本当にそんな理由で乗ったんだと思えてくる。

 靡く髪を見ても分かる通り、この飛行機は今まさに上空を飛んでいる最中だ。


 黒と赤を基調とした服は風の力に当てられ、長い袖は先ほどからバタバタと悲鳴をあげている。


「とにかく、そんな所にいたら危ないですよ! 今から中に入るのは……無理そうですし……」


「心配してくれてるの?」


 せめて落ちないようにと気遣う永遠だったが、青年がその場から動く気配はない。

 それどころか、さらに窓の方へと近寄ってくる。


「ねえ、名前はなんて言うの?」


「永遠、ですけど……」


「とわ。永遠か」


 確かめるように名前を重ねた青年は、そのまま自らの名前も口にしてきた。


「僕のことは、シンって呼んで」


「シン?」


「そうだよ永遠」


 微笑んだ表情があまりにも綺麗で、永遠の頬が薄く色付いていく。


 飛行機の中と外。

 普通ならありえない状況だが、永遠はいつの間にかシンとの会話を楽しみつつあった。


 シンの声は永遠にしか聞こえていないようで、周りの乗客は誰一人として反応していない。

 こそこそと独り言を呟く永遠には、たまに不審なものを見るような眼差しが向けられていたが。


「到着まで、あと二時間くらいか……」


「残念だけど、この飛行機が目的地に着くことはないよ」


 シンのことが気がかりで時間を調べていた永遠は、一瞬、何を言われたのか分からず固まっている。


「……変な冗談はやめてください。目的地に着かないなんて、そんなことあるわけ──」


「きゃあああああああ!」


 突如、つんざくような悲鳴が機内に響き渡った。


 女性の甲高い叫び声を皮切りに、悲鳴と恐怖が伝染していく。

 前に座っていた乗客たちは、何かに気づいた様子で、急いで後ろに逃げようと立ち上がっている。


「何が、起きて……」


 ぐらりと揺れた機内と、前方で飛び散るあか。

 べちゃべちゃと液体を踏み締めて、必死で逃げてこようとする乗客たち。


 その背後から現れたのは、この世のものとは思えない──(おぞ)ましい異形の存在だった。


 

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