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回生の果て  作者: 壊れた靴
実地調査
8/40

 オカ研の部室前に着いた。先頭の部長が扉を開くと、そのままの姿勢で固まってしまう。「どうしたんですか?」とそれぞれが部長の肩越しに室内を覗く。

 部長の固まった理由はすぐに分かった。部屋の隅に人体模型が、何故か台車の上に立っている。独特の存在感が、物に溢れる部室を更に圧迫している。

 副部長はいつも通りの姿で読書をしていた。「おかえりなさぁい」と顔も上げずに呟く。

「光紗君。これはどこから持って来た物だ?」

 我に返ったらしい部長が室内に入って、人体模型を指さし尋ねると、「理科室からぁ。大変だったのよぉ」と悪びれる様子もない副部長が答える。

 部長は「なんでこんなことを」と言いかけ「いや、いい。とにかく戻してきてくれ」と力なく口にする。

 副部長は「ここに置いておいた方がいいのよねぇ」と言いながらも、ゆっくりと本を閉じて立ち上がった。が、それ以上は動かず、俺を見つめる。運べということだろう。

 仕方なく人体模型を載せた台車を伴って廊下に出る。部室には部長のみを残し、理科室に向かう。教師にでも見咎められないかと、内心落ち着かない。

 舞耶が人体模型を見ながら口を開く。

「部室に置いておいた方がいいって、どういうことですか?」

 副部長は「確かなことは言えないんだけどぉ」と前置きして続ける。

「そうすることで確認できると思うのよねぇ」

「模型が動くってことをですか?」

 舞耶の質問に、副部長は「そうねぇ」と首を傾げ「動くというよりはぁ、動かされるんだと思うんだけどぉ」と続けた。

 亨は驚いたように「黒魔女先輩も、イタズラだと思ってるんすか?」と聞く。

「悪戯ではないのよねぇ」

 確信があるかのような副部長の言葉に、由人が尋ねる。

「何か目的があって、移動させたということでしょうか?」

「それはそうよぉ。具体的な目的までは分からないけどぉ。何かを知らせるためだと思うのよねぇ」

「部室に置いておけば、それが分かると?」

 由人の質問に、副部長は「そういうことねぇ」と頷いた。何故か俺と由人を一瞥して続ける。

「でもぉ、知ってもらえたと思うからぁ、もう充分かもぉ」

 誰に何を知ってもらえたと言うのだろうか。同じ疑問を抱いたらしい舞耶が「知ってもらえたって?」と尋ねるが、副部長は「独り言よぉ」と返した。話す気はないらしい。舞耶は小さく溜息を吐いた。

「人体模型については、これ以上調査することはないんですか?」

「そうねぇ。これ以上は調べられることもぉ、調べる意味もないと思うのぉ」

 納得いかない様子の舞耶だが、副部長の言葉には妙な説得力を感じる。

 その時、背後から気だるげな声が響いた。

「お前ら、何やってるんだ?」

 振り返ると、志津田が近付いてくる。

 人体模型に気付いたらしい志津田は、驚きのためだろうか、似つかわしくない鋭い目を向けたが、すぐにやる気の感じられない、いつもの表情に戻った。

 亨が取り繕うように口を開く。

「いやぁ、夏休み前に、これが森で見つかったって話じゃないすか? オカ研らしく、ちょっと調べてみようかなって。今返しに行くところっす」

 志津田はやれやれ、というように首を振ると「見なかったことにしておく、さっさと返してこい」と手で払う。

「どうもー」と亨が軽く頭を下げ「先生もたまには部活に顔出してくださいよ」と笑う。

「お前は部員じゃないだろう」と志津田が気だるげに返し、そのまま去っていった。

 改めて理科室に向かって、台車を押しながら歩き出す。

「見つかったのが志津田で良かったな」と亨が笑い、「余計な仕事はしたくないって感じでしたね」と舞耶も笑った。

 理科室の前に辿り着き、室内をガラス越しに見る。中は無人のようだが、副部長は平然と扉を開き、室内に入っていった。

 舞耶が「鍵、開いてたんですかね?」と聞いてくるが「そうなんだろう」と苦笑しつつ、副部長に続く。

 無人の室内は静まり返っている。副部長は俺を一瞥してから、人体模型の立っていた場所を見る。俺は無言の指示に従って、人体模型を台車から降ろした。

 副部長は頷くと、「お疲れ様ぁ」と理科室を後にした。俺たちも続く。

 来た道を戻りながら「この台車はどこの物ですか?」と副部長に尋ねると、「部室に置いておいて大丈夫よぉ」と返ってきた。本当だろうか。

 部室に戻ると、部長は例の記事を読み返していた。既に幾度となく読んでいるので、新たな発見など望めないだろう。

 とりあえず台車を部室の隅に置いて、それぞれが腰を下ろすと、部長が口を開く。

「光紗君。折り入って頼みがある」

「いいわよぉ。明日、森に行くわねぇ」

 内容を聞かずにいながら、内容を理解した上で了承する副部長に、恐怖を覚える。

 部長は恐怖も驚きもないようだが、忸怩たるものを滲ませ「よろしく頼む」と頭を下げた。

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