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回生の果て  作者: 壊れた靴
夢現
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 狭い部室ながら、それぞれの調査に別れるよう席を移動した。

 舞耶が人体模型を一瞥し、副部長に向かう。

「あの人体模型も、七不思議に関係するんですか?」

 副部長は頷いた。

「七不思議のひとつとしてぇ、動く人体模型だけは前から知っていたのよねぇ」

「動く人体模型って、随分とベタっすね」と亨が笑う。

「ひょっとして、この部室に動いて来たってことですか? 朝メッセージしたのはそのせいとか?」

「そうなのぉ。朝来た時にはもうあったのよねぇ」

 副部長の言葉を聞いた舞耶が亨を睨んだ。亨が笑う。

「まさか俺がやったとか思ってないか? この学校にそんな話があったことすら初めて聞いたんだぞ?」

「亨先輩かはともかく、誰かのイタズラじゃないんですか?」

 副部長は何も言わず首を振った。舞耶もそれ以上追及する気はないらしい。

「じゃあ、人体模型が動く謎を調査するってことですね?」

 舞耶が副部長に尋ねるが、「これ以上は調査する必要もないわねぇ」と首を振った。

「どういうことですか?」と尋ねる舞耶に、副部長は「ここにあったっていうことが重要なのぉ」と返した。

「オカ研にあったことが重要って、この部屋の何かが人体模型を呼び寄せたとか?」

「悪戯ではないけどぉ、人体模型が自分で動いたわけでもないわよぉ」

 舞耶は困惑したような表情を浮かべ、黙り込んでしまった。

「誰かが、何か目的があってここに運んだということですか?」

 そう尋ねると、副部長は俺の顔を見て頷く。

「おかげで七不思議が見つかったのよねぇ」

「まさか、それが目的とか?」と亨が笑い、副部長は僅かに微笑した。

 副部長の笑ったところなど初めて見た。俺も亨も舞耶も驚きを隠せなかった。

 ややあって、舞耶が声を上げた。

「他の七不思議にはどんなのがあるんですか?」

「『描きかわる肖像』『夜に鳴るピアノ』『笑う女生徒』『異界の教室』『巡らずの鞄』ねぇ」

 副部長は七不思議のものらしい題目を挙げた。どれもどうということもないはずのものだが、妙に引っ掛かる。

「それと人体模型で六つですか。残り一つはまだ分からないってことですか?」

 副部長は「七つ目はないんだと思うのぉ」と首を振った。

「七つ目がないことが七つ目だとか?」と亨が笑う。

「でも、その五つは今日だけで見つけたんですよね?」と尋ねる舞耶に副部長が頷き、舞耶は「それなら、七つ目はまだ見つけられてないだけじゃないんですか?」と質問を重ねた。

「今日だけで見つかったからこそぉ、ないと思うのよねぇ」

 舞耶は「分かりました」と呟くように言った。納得こそ出来ていないようだが、それ以上の質問も諦めたらしい。

「それで、どこから調査するんすか?」

 亨の質問に、副部長は「そうねぇ」と首を傾げた。

「貴水くんはぁ、どれがいいと思う?」

 またしても唐突に振られたことに驚きながら、聞いた時から最も引っ掛かりを覚えたものを挙げる。

「『笑う女生徒』が、気になります」

 副部長は「そうねぇ。じゃあそれでぇ」と頷いた。

「どのみち他のはぁ、生徒がいる間には調査できないからぁ、ちょうどいいわねぇ」と続けた副部長に亨は苦笑し、「なら聞いた意味あるのか?」と囁いてきた。

「それで、『笑う女生徒』ってどんな話なんですか?」

「屋上に笑う女生徒の霊が現れるそうよぉ」

 尋ねた舞耶は「それだけですか?」と聞き返すが、副部長は頷いただけだった。

 副部長は「じゃぁ、行きましょぉ」と席を立った。

「今から行くんすか? 屋上に?」と亨が尋ね、副部長が頷く。

「屋上って開放されてるんでしたっけ?」と尋ねてきた舞耶に、首を振る。副部長ならどうとでもしそうではあるが。

 副部長に続いて俺たちも席を立つと、部長がこちらを向いて声を上げた。鳳と一緒に、先ほどの紙切れや何かの本を確認していたようだ。

「外に行くなら、人体模型も戻して来てくれ。我らがオカ研が、学校の備品に悪戯でもしたと思われたらかなわんからな」

 確かに、ただでさえ悪名高いオカ研に、そのような疑惑が発生したら、廃部も免れないかも知れない。

 副部長が俺を見る。運べと言うことだろう。おあつらえ向きに、台車に載っている人体模型を廊下に運び出した。

「まずは理科室か」と亨が笑う。

 放課後とは言え、部活動などで残っている生徒もいる。さっさと返してしまいたい。

 人体模型を載せた台車を押しながら理科室に向かう。

「他の七不思議はどんな内容なんすか?」と亨が尋ねる。副部長の答えでは、肖像もピアノもその題目通りの、いかにもありがちなものだった。

「じゃあ『異界の教室』も、そのまんまな内容なんすね」

 肩を竦める亨に副部長が頷くが、「これだけ違和感があるのよねぇ」と呟く。

「七不思議にありがちじゃないっすか? 『巡らずの鞄』の方が違和感あるんすけど」

 亨の言葉に、副部長は「そっちはもういいのよぉ」と、解決したかのようなことを言う。

「どういう意味ですか?」と尋ねる舞耶に、副部長は「調査の必要もないってことぉ」とだけ言う。

 亨は肩を竦めた。副部長がそう言うのなら、どうしようもない。

「違和感って、どういうことですか?」

「設定がないって感じなのよねぇ」

 舞耶の質問に、副部長が首をやや傾げるように答えた。

「そりゃ、七不思議なんてその辺の誰かが作った噂みたいもんなんだから、名前だけ残った、ってことなんじゃないすか?」

 副部長は何の反応も返さなかった。亨は肩を竦めて苦笑した。

 幸い、理科室に着くまでは誰にも会うことなく、無事に人体模型の返却を終えることが出来た。

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