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回生の果て  作者: 壊れた靴
夢現
33/40

33

 暑さに目を覚ます。

 体調もあまり良くないが、何に対するものかも分からない、酷い焦燥感のせいで寝直す気にもなれない。

 仕方なく、階下のリビングに向かう。

 ソファに座って、何かしなければならないことを忘れているような感覚に向き合う。

 学校の課題や何かではない、もっと重要な、忘れてはならないことがあったはずだ。

「びっくりした。貴水、こんな早くに起きて何してるの?」

 母さんがドアを開いたまま驚いたような顔をしている。全く気付かなかった。ここに座ってから、結構な時間が経っていたらしい。

「暑くて寝ていられなかったんだ」と苦笑する。

「そう。顔色良くないみたいだけど、大丈夫?」

 頷く。母さんは「ならいいけど。無理しないでね」と微笑した。

 母さんはそれからゆっくりと支度を整えた。

「さっきより体調悪そう。学校休んだ方がいいんじゃない?」

 支度を終えたらしい母さんが、心配そうな顔を向ける。

「今のところそこまで悪くはないけど、悪化するようならそうする」

 母さんは頷くと、「無理しないでね」と家を出て行った。

 母さんにはああ言ったが、この焦燥感を解決するためには、学校に行く必要がある気がした。

 学校に行く支度を整えながら、スマホのメッセージを確認すると、部長からメッセージが入っている。新事実を見つけたとのことだったが、期待を煽るメッセージがほとんどで、内容については隠すつもりらしい。

 部長からのメッセージを気にする舞耶からのメッセージには、いつもの早とちりだろう、と返信したが、いつになく、部長の言う新事実が気になっていた。

 焦燥感を抱いたまま準備を終え、学校に向かう。

 外は相変わらず暑く、刺すような日差しに、更に体が重く感じる。

 重い体に辟易としつつ、学校に向かっている途中、いつものように亨と合流する。

「お前、顔色悪くないか? 大丈夫か?」

 会うなりそう口にした亨に苦笑を返す。

「体調は良くはないが、そこまで悪くもない」

「ならいいけど。無理するなよ」

 母さんと全く同じ言葉に笑ってしまう。「なんだよ?」と苦笑する亨に「なんでもない」と首を振る。

 その時、スマホからメッセージの通知音が鳴った。

 確認すると、珍しく副部長からオカ研宛に「今日は部活に参加してね」とのメッセージがあった。

 元々参加するつもりだったが、副部長がその程度のことでメッセージをするとは思えない。何かあるのだろうか。

「なんかあったのか?」

「いや、珍しく副部長から、今日は部活に参加しろってメッセージがあっただけだ」

「へぇ。黒魔女先輩がねぇ」と亨が頷き、「俺も今日はオカ研に顔出そうかな」と笑った。「好きにしろ」と苦笑を返す。

「オカ研といえば、今年の夏休みも竜宮探しか?」

「今のところ何も聞いていない」と答えつつも、何故か竜宮が頭に引っ掛かった。焦燥感が更に強まる。

「去年の夏休みがそんなに嫌だったのか?」と亨が笑い、「すげぇ顔してるぞ」と続けた。表情に出てしまっていたらしい。

「いや、それもそうなんだが、竜宮が妙に引っ掛かってな」

「宗吾先輩の影響じゃないか?」と亨が笑った。

 どうにか学校に辿り着き、昇降口から廊下に出た所で、「先輩!」と声を掛けられる。

 声の方を向くと、笑顔の舞耶が駆け寄ってきたが、すぐに心配そうな表情を浮かべる。

「大丈夫ですか? 顔色、すごく悪いですよ?」

 今日は会う人全員に言われないといけないのだろうか。

「舞耶ちゃんもそう思うだろ?」

「先輩。保健室に行きましょう。私が付き添います」

 亨を押しのけるように舞耶が俺の隣に立つ。亨は苦笑しながらも、素直に場所を譲った。

「そうしとけ。志津田には俺から言っとくから」

 こうまで言われるからには、素直に二人に従った方が良いだろう。「分かった」と頷く。

「それじゃ、行きましょう」と俺を見る舞耶に付き添われ、保健室に向かった。

 余程酷い顔色なのか、養護教諭には何を聞かれることもなく、ベッドを利用することが出来た。

「様子、見に来ますから」と保健室を後にした舞耶を見送った後、すぐに眠りに落ちてしまった。


 目を覚ますと、ベッドの横の椅子に座り、スマホを弄る亨の姿が見えた。

 上体を起こすと、亨がスマホを仕舞って「だいぶマシになったみたいだな」と笑う。

「もう昼だぞ? 俺も舞耶ちゃんも、休み時間の度に来てたんだけど完全に寝てたな」

「悪かったな」と苦笑すると、亨が笑って首を振った。

「いや、正直、教室の雰囲気悪かったから、むしろここに来れてよかったんだ」

「何かあったのか?」

「転校生が来たんだけど、そいつがまぁ、なかなか強烈な奴でな」

 こんな時期に転校生が来るとは、それだけで不思議ではある。

「ま、いない奴のことを言うのもなんだな。お前の隣になったから、午後には会えるだろうよ」

 亨は肩を竦めた。どんな奴なんだろうか。

「飯は食えそうか? 保健の先生に聞いたら、ここのテーブルで食ってもいいってさ」

 体調も、朝に比べれば大分マシにはなった。亨に頷く。

「じゃ、飯にしますか」

 亨は立ち上がると、ベッドを仕切るカーテンから出ていった。俺もベッドから離れる。

 養護教諭は不在なのか、姿は見えなかった。

 既にテーブルに弁当を広げていた亨と並んで食事を始める。

「舞耶ちゃんは昼食べ終わったらここに来るってさ」と亨が言い終わるのと同時に、保健室の扉が開かれた。

「先輩! 大丈夫ですか?」

 昼休みが始まってそれほど時間は経っていないが、もう食べ終えたのだろうか。

「おかげさまで」と苦笑した。

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