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回生の果て  作者: 壊れた靴
日常
28/40

28

 夏音の家を離れ、舞耶たちと合流する。

「どうでしたか?」と尋ねてくる舞耶に、「夏音に会うことはできたが」と首を振る。

「体調は問題ないようだし、皆に会いたいとも言っていたが、会えない理由は話してくれなかった」

「会いたいなら、会ってくれればいいじゃないですか! どんな理由があるっていうんですか!」

 悲鳴のような声を上げた舞耶は、「今から行ってきます」と、決意に満ちた表情で再び夏音の家に向かって歩き出した。

「待ってくれ」

 舞耶の肩を掴み、何とか振り向かせる。

「理由は分からないが、夏音は自分の責任だと言っていた。今は、これ以上夏音と話すのはやめておいた方がいい」

「時間がたてば、夏音先輩は会ってくれるんですか?」

 今にも泣き出しそうな表情の舞耶に、「分からない」と正直に答える。

 舞耶はしばらく夏音の家の方向を睨んでいたが、やがて肩を落とした。

「分かりました。でも、すぐに、夏音先輩と前みたいに会えますよね?」

 俺に聞くというより、自分を納得させるような舞耶の言葉に、気休めにしかならないだろうが「会える」と笑って頷いた。


 何度も振り返りながら家に帰って行った舞耶の姿も見えなくなった。

「さすがに舞耶ちゃんに泣かれるのはキツいな」

 苦笑する亨に頷く。

「夏音も、なんだって引きこもってんだよ」と溜息を吐いた亨が、「さっき言ったので全部か?」と俺を見る。

「ああ。夏音は、全て自分のわがままのせいだと言っていた」

 亨が肩を竦める。

「夏音一人が多少やらかしたところで、そんな大したことにはならないだろ? なんかの勘違いなんじゃないのか?」

「そうかもな」と苦笑する。

「ただ、夏音はかなり自分を責めていたようだからな。今は、無理に会おうとはしない方が良いのは確かだ」

「分かった」と頷き、「お前がそう言うなら、間違いないだろうよ」と微笑した亨に微笑を返す。

「結局、夏音なしは変わらずか。仕方ない。夏休みはオカ研に最後まで付き合ってやるよ」

 笑う亨に、「悪いな」と返す。

「舞耶ちゃんもあの調子だと、俺がいなけりゃお通夜状態だろ?」

「そうかもな」

 俺は苦笑した。


 それからも森での調査は続いた。

 亨の懸念した通り、舞耶も参加はするものの、落ち込んだまま立ち直ることはなかった。

 夏音が戻ることも、調査での新たな発見もなく、部長が参加する最後の活動を終えてしまった。

 もはや通いなれた森の入り口で、部長が声を上げた。

「夏休みも残り僅かだな。今回は何の成果も得られなかったが、俺も引退するとはいえ、竜宮探しを諦めるつもりもない!」

 部長は自分を奮い立たせるように、力強く頷いた。

「今後のオカ研については、夏休み明けに部室で話そう。では、な」

「お疲れさまでした」とそれぞれが言葉を掛ける。

 部長は再度力強く頷くと、俺たちから離れていった。

「あっけなく終わっちまったな」と亨が苦笑する。

「俺も、いい加減課題終わらせないとな。舞耶ちゃんもだろ?」

 亨の笑い声に、以前なら食って掛かっていただろう舞耶は、静かに頷いただけだった。

「結局、夏音先輩は戻ってきませんでしたね」

 舞耶の呟くような言葉に、何も返すことができないまま、舞耶は「お疲れさまでした」と頭を下げると、その場を後にした。

「勘弁してくれよ」

 舞耶の姿が見えなくなると、亨が掻きむしった。

 最近はずっとこのような調子だったが、さすがの亨にとっても精神的な負担が大きかったようだ。

「すまない」と頭を下げる俺に、亨が苦笑して首を振った。

「夏音のせいだって言うなら、どんな理由だろうと、顔を見せてくれた方がよかったな」

「確かにな」

「夏休みが明けても来ないようだったら、俺が無理やりにでも連れてくるか」

「ああ、頼む」

 半分以上は本気で頼む俺に、亨が笑った。


 夏休みの最終日を迎えた。

 習慣化してしまったのか、朝も早くから、何となく足が森に向かう。

 思えば、あの森で夏音が倒れてから、全てが変わってしまった。

 森の入り口に着いた時、夏音らしき後ろ姿が、森に入っていくのが見えた。

 ただの人違いかもしれないと思いつつも、後を追う。彼女はすぐに道を外れて歩き出した。

 しばらく歩き続けた彼女は、不意に立ち止まった。

 周囲はどこも似たような景色のため、確信は持てないが、ここは、夏音が倒れた場所ではないだろうか。

 俺に背を向けたまま、空を見上げる彼女に近付く。やはり夏音に間違いない。

「こんな所で何をしてるんだ?」

 俺の声に振り返った夏音は、驚いたような表情を見せた。

「私のセリフだよ」

 夏音はほんの一瞬だけ、以前の、冗談を言った時のような笑顔を見せたが、すぐにその目から涙をこぼし始めた。

「本当に、ごめんなさい」

「謝るくらいなら顔を見せろ。と亨が言っていた」

 困惑しながらも、何とか笑ってみせるが、夏音はとうとう嗚咽を漏らし始めた。

「ごめんなさい」

 泣声となり、ほとんど聴き取れないが、夏音は謝り続ける。

「私のせいで、本当に、ごめんなさい」

「何をしたのか知らないが、夏音がいないより悪いことなんて、ない!」

「ごめんなさい。ありがとう。私も、皆が大好きだよ」

 夏音の、涙を流しながらも作った笑顔を見ながら、俺の視界は白く染まっていった。

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